航空機の運航において、レーダーは欠かせません。その機能が失われた瞬間、航空交通という巨大なシステムは即座に麻痺することになるでしょう。
レーダーの原理は驚くほど単純です。地上から放射された電波が空中の物体に反射し、再び受信機へ戻るまでの時間差を計測することで距離を割り出します。電波は光速、すなわち秒速約30万kmで伝播するため、この往復時間から簡単に距離情報を取得することが可能で、航空用監視レーダーや気象レーダー、さらには軍用の早期警戒レーダーに至るまで、すべてはこの単純な原理の上に築かれています。
しかし、この「照射と反射」というプロセスの裏側には、ほとんど顧みられることのない事実があります。すなわち、レーダーが放射する電波のほぼすべては「目標物に命中することなく、宇宙空間へと逸散している」という現実です。今こうしている間も膨大な電波エネルギーが地球圏を離脱してゆき、人類は知らぬ間に全天へ向けて絶えず「存在の痕跡」を放射し続けているのだと言えます。
通常、こうした電波は距離の二乗に反比例して急速に減衰し、やがて宇宙のノイズの中に埋没します。単一のレーダーから発せられた信号が恒星間距離(数光年)において識別できる可能性は、理論上きわめて低いと考えられます。しかし問題は、地球上に存在するレーダーの数です。航空管制用、軍用、気象観測用、さらには各種監視システムまで含めて無数にあり、これらが特定の条件下で位相的に重なり合い、干渉によって局所的な増幅を引き起こすならば、事情は一変します。
英国王立天文学会の会合において提示された試算によれば、このような偶発的な電波の増強が生じた場合、理論上は約200光年の距離においても検出可能な信号強度に達し得るといいます。
ここで浮上するのが、「観測される側」としての人類という視点です。我々は長らく、宇宙に向けて積極的に信号を発信するか否かの是非を巡って議論を重ねてきました。何故ならば文明間の接触が友好的であるとは限らないからです。むしろ人類の歴史においては、技術力に差のある二つの文明が出会ったとき、それは片方の文明にとって悲劇の始まりを意味していました。インカ、アステカなど様々な文明が外部との接触によって滅亡した事実を考えるならば、人類から積極的に外に信号を発することは控えるべきだと言う意見があります。
広く使われているARSR-4航空路監視レーダーシステム。平均電力3.5kWの電波を常時発信している。航空機探知距離は463km(画像:アメリカ空軍)
しかし現実にはそのような考え方とは無関係に既に地球は強力な電波源として機能しており、24時間体制で稼働し続ける航空・防空システムによって極めて安定した放射を継続しています。ここで語られるのはあくまで理論的可能性に過ぎず、電波の減衰、星間物質による散乱、受信側の感度限界といった要素を考慮すれば、実際に検出が行われる確率は決して高くはないかもしれません。
航空用レーダーは本来、空域の安全を確保するための技術です。しかしその副次的効果として、地球という惑星は銀河の中で微弱ながらも確実に「声」を上げています。我々が空を監視するために放った電波は、今この瞬間も光速で宇宙を横断し、未知の観測者に向けて広がり続けているのです。もしその先に誰かがいるとすれば、彼らはすでに気づいているのかもしれません。この惑星に、組織だった航空交通と、それを支える知性が存在することを。

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