熊本県宇城市三角町にある三角港には、天草地域に向かうフェリーの他に、ちょっと見慣れない船が停泊しています。その船は全体が灰色に塗られており、遠目には軍艦のようにも見えます。
三角港には熊本県漁業取締事務所が所在し、同事務所には漁業取締船「あそ」(乗員8名、総トン数110トン)、「あまくさ」(乗員5名、総トン数68トン)の2隻が所属しています。
いずれも船体全体が軍艦のような灰色に塗られており、「あまくさ」は今年就役したばかりの新しい船で、全長28.6m、総トン数68トン、最大速力40ノット以上という性能を持ち、地方自治体の行政船としてはかなり本格的な高速艇です。
これらの取締船の任務は、熊本県沿岸の天草・八代海・有明海周辺で行われる漁業の監視と取締りです。漁業取締船というと国の船をイメージする人も多いかもしれません。実際、沖合やEEZ(排他的経済水域)で外国漁船を取り締まる大型の漁業取締船は、水産庁が運用しています。
一方で、都道府県ごとの沿岸海域に関する漁業権や知事許可漁業の管理は県の権限であるため、熊本県のように自治体が独自に取締船を運用するケースもあるのです。
なぜ軍艦のように灰色なのか? そこまでして守る海の資源これら取締船が軍艦のような灰色に塗られている最大の理由は、違法漁船からの視認性低下のためだと言われています。軍艦や軍用機に使われているロービジ塗装と同じ役割を持ちます。
熊本県漁業取締事務所の看板(布留川 司撮影)
行政船では白系の塗装も多いですが、それでは取締活動に相手から発見される可能性が高く、取締対象を逃す可能性が高くなります。灰色の船体は海や景色に溶け込むことで見えにくくなり、視覚的なステルス仕様ともいえるでしょう。
つまり、この取締船は、外見とその理由は軍艦を思わせる一方、任務は水産資源を守る行政船そのものなのです。
では、その様な特殊な取締船を保有している理由はなんでしょうか? その背景には、県の水産業を取り巻く厳しい現状があります。
現在、熊本県の水産業は非常に厳しい状況にあり、資源の低下による漁業生産は低下し、その回復のための「栽培漁業」や「資源管理型漁業」が進められています。その一方でルールを無視した漁業者間での操業トラブルや、悪質巧妙な漁業違反も後を絶たない状況にあるそうです。
日本は海に囲まれた島国であり、そこでは豊富な水産資源と活発な漁業活動があるものと連想します。しかし、近年の環境変化による資源減少や漁業関係者の減少などから、違法操業や密漁への監視の重要性も増しており、このような取締船の存在は、漁業秩序の維持という意味で必要不可欠なものといえます。
三角港に停泊する“ミニ護衛艦”のような灰色の船。その正体は、日本の海の恵みと漁業秩序を守る、最前線の行政船だったのです。

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