腰痛を抱えて「常にダッシュ」!? おじさん自衛官の過酷な“学び直し”

 自衛隊にはA~Cまで複数、幹部になるルートがあります。「A幹」は防大卒や一般大学を出た後で幹部候補生を経てなるエリートコースです。

一方、「B幹」は部内課程と呼ばれるもので、任期制隊員(いわゆる士)で入隊した後に曹へと昇任、若手・中堅の下士官として経験を積んでから試験に合格すればたどれるルートです。

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 今回スポットを当てる「C幹」は、下士官としてさらに経験を積んだ叩き上げの、ベテランともいえる海曹長や准尉のポストにいる隊員の中から選出されるルートです。

 今回、私の夫で海上自衛官のやこさんが、このC幹コースで海曹長から3等海尉へ昇任しました。かくして、さまざまな事情と覚悟、そして腰痛を抱えたC幹の中年隊員たちが、リスキリング(学び直し)をするために送り込まれる道なのです。

 教育を実施しているのは、広島県江田島市。瀬戸内海に浮かぶその地にあるのが、海上自衛隊幹部候補生学校です。

 ここでの教育期間は、A幹がおよそ1年、B幹がおよそ8~9か月、そしてC幹はおよそ4か月。この期間で、幹部として必要な知識と技能を叩き込まれます。

 過酷な生活を乗り切るコツはただひとつ、「慣れ」です。さすがはベテラン、地獄と呼ばれる幹部候補生学校すら、自衛官の頻出キーワードの1つ「慣れ」で乗り越えます。ただし入校前の念入りな情報収集は必須。すでにC幹を経験した先輩から、心構えから日々の立ち回りまで攻略法を仕入れておくのが定石なのだそうです。

時間がない! アイロンがけと「総短艇」に追われる日々

 やこさん曰く、いざ入校してみると、まず「制服の整備」に苦労したのだとか。幹部ともなると、より一層、完璧な身なりが求められますが、そもそも整える時間がありません。支給される官品の制服2着だけではアイロンがけは回らないため、自腹で制服を追加購入してローテーションしたとのこと。隊舎の4人部屋で全員がアイロンを使うので、譲り合いの精神も試されます。

腰痛を抱えて「常にダッシュ」!? 湿布が友達のベテラン自衛官が挑む過酷な学び直し 海自「C幹」のリアルな江田島生活
海上自衛隊幹部候補生の野外戦闘訓練。艦艇乗組員といえど、陸上戦闘を想定したカリキュラムはあり、小銃や拳銃の射撃訓練も行う(画像:海上自衛隊)

 そう、C幹はとにもかくにも時間に追われているのも特徴です。ほかの課程と違って4か月という短期間に多種多様なカリキュラムを詰め込んでいるため、余裕がないのです。食事もお風呂も移動は基本ダッシュ。常に走り続ける生活の結果、湿布とテーピングが友達になるのだとか。ちょっと防大みたいですよね。

 もしかして訓練よりも日常生活のほうが大変なのかと思いきや、訓練もしっかりと地獄でした。

 なかでも恐れられていたのが「総短艇用意」の号令です。今やっていることをすべて中断し、全力で船着場まで走って短艇(カッター)を漕ぎ、競争するというものです。

 隊舎からグラウンドを抜けて約400~500mを全力疾走。ルートも決められており、要所に採点官の目があるためショートカットは不可。シーマンシップと団結を養うための訓練とのことですが、民間人としては「他に方法あるのでは…?」とつい思ってしまいます。

 どんな状況でも即応できる幹部の資質を叩き込むという意味では、これ以上ない実践訓練なのかもしれません。

若手との交流も! 4か月の地獄を経て見せた「精悍な顔つき」

 ちなみに若手がほとんどのA幹・B幹と違い、年配者ぞろいのC幹にはちょっとした温情もあり、「総短艇用意」は朝の体操後に限定されているとのこと。最低限のウォームアップが用意されているあたり、家族も安心(?)です。

腰痛を抱えて「常にダッシュ」!? 湿布が友達のベテラン自衛官が挑む過酷な学び直し 海自「C幹」のリアルな江田島生活
全員で力を合わせて短艇を漕ぐ様子(画像:海上自衛隊)

 しかし後半になると、この訓練は一気に難易度が上がります。装備や服装の指定が追加され、もはやエクストリーム借り物競走状態。「陸戦用装備の水筒◯個以上」「ジャージ着用」など細かい条件が課され、事前に予測していても裏をかかれることも。主要メンバーは先行して乗り場へ向かい、それ以外は瞬時に役割分担を決めて対応するなど、チームワークと判断力が試される場面です。

 そんな厳しい日々の中でも、世代を超えた交流には心が癒されたと、やこさんは語っていました。幹部候補生学校では在学中に校友会という部活動に参加し、週に一度、若い世代と一緒に体を動かす機会があります。

やこさんは思うように体が動かず怪我も多かったそうですが、それでも一緒に汗を流すことで自然と仲間意識が生まれていったのだとか。

 さらに、やこさんの期からは、A~C幹の居室がシャッフル制に!

 年齢も経歴も異なるメンバーが同じ部屋で生活することになり、各課程に「総短艇用意」がかかるたびに「頑張って!」「ファイト!」と声を掛け合う光景が見られたそうです。

 そんな大変な4か月を経て、やこさんは入校前よりもぐっと引き締まって精悍な顔つきになって帰ってきました。まるで若い頃に戻ったみたいで少しだけ懐かしい気持ちに。その表情に、確かな手応えがあったのだと感じずにはいられませんでした。

【マンガで解説】ギックリ腰!? これが「地獄の江田島教育」の概要です

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