昨年オフ、立浪和義が中日の監督に就任し、なにかと話題を振りまいた。注目されることでチームの活性化にもつながり、新生・中日ドラゴンズが見られると大きく期待が膨らんだ。

シーズン当初は勝率5割をキープし、若手の石川昂弥と岡林勇希をレギュラーに抜擢。投手の配置転換も功を奏し、「今年こそは」の期待を抱かせた。

 しかし5月下旬に石川が左膝前十字靭帯不全損傷によりシーズン絶望。京田陽太、高橋周平が極度の打撃不振とケガにより二軍降格。投手陣も、セットアッパーの岩嵜翔が移籍後初登板を果たすもわずか4球でアクシデント降板し、ローテーション投手として期待された勝野昌慶は絶不調。気づけばセ・リーグ最下位に甘んじている。

中日・根尾昂の投手転向に広岡達朗は理解「前の監督は何をやって...の画像はこちら >>

今年6月に野手から投手に転向した中日・根尾昂

立浪監督に助言した3年計画

 そんな中日に広岡達朗はこうアドバイスを送る。

「立浪とは3回ほど電話で話したかな。『1年目から優勝争いはできないと思え。まずは戦力を整えることが大事』とアドバイスを送った。モノには順序があるから、1年目は戦力を整え、2年目にビジョンを掲げ、3年目でメドが立つように計画を立てる。立浪は3年契約だからいいけど、4年以上契約しているのはろくなヤツじゃない。

 立浪はもっと試合中、喜怒哀楽を出していい。

ベンチの椅子も取っ払うべき。監督というのは自ら陣頭指揮をとって『行け!』と、気概を見せつけなくてはいけない。試合中はマスクを外して戦闘意欲を見せてやれば、チームの雰囲気がものすごく変わる。三振して平気な顔をして戻ってくる選手に喝を入れればピリッとする。そのくらいやらなくちゃ」

 広岡に言わせると、今の人は勉強する場がないから知らないことが多いと。かつては年功序列で先輩が教えてくれていたが、今の時代はそういう機会がほとんどない。

チームが勝つために何をすべきか、どういうチームをつくるべきか......そういったところがわかっていないと広岡は嘆く。

 現状のチームに目を向けると、クライマックス・シリーズ(CS)進出は厳しいと判断したのか、若手の積極起用が目立つ。高卒2年目の高橋宏斗が圧巻の投球を見せ、育成2位から今年5月に支配下登録された2年目の上田洸太郎が先発で好投を続けている。野手も、岡林が不動のリードオフマンに成長し、高卒2年目の土田龍空もショートで起用し、高卒6年目の石垣雅海も奮闘している。

 なにより、毎年"期待の星"として注目を集める根尾昂に関しては、6月中旬に野手から異例の投手転向。ここまで(8月28日現在)18試合に登板して防御率3.44。

負け試合での登板がほとんどだが、一軍での実戦経験を積ませている段階だ。

150キロ投げられるのは才能ある証拠

 その根尾について、広岡は熱く語る。

「根尾は高校時代(大阪桐蔭)、ショート、外野、ピッチャーをやっていたそうだが、一体どれが本職だったのか。どれも素質があるからやらせてみて、今はピッチャーという決断ならわかるし、立浪が変えたのなら根拠があってのことだろう。言い換えれば、前の監督である与田(剛)は何をしていたのか、ということになる。適性を見極めるのに3年もかかるようでは、首脳陣に問題があるとしか思えない。

 根尾の本心を聞いてみたいが、ただ首脳陣の言いなりで『はい』と聞いて、ショートをやって、外野をやって、またショートに戻って、今度はピッチャーだとしたら、自分というものがなくなってしまう。

 根尾はよく練習すると聞くし、頭もいいらしいので大丈夫だとは思うが、ここからが勝負。ピッチャーとしてプロの練習をそれほどやっていないなかで、ストライクが入って、150キロを連発するのは、やはり才能がある証拠。ただ今は抑えられているといっても、点差が開いている負け試合ばかり。気楽な場面で投げさせるという配慮だと思うが、今オフから本格的にピッチャーの練習をただすればいいというものじゃない。首脳陣がどういう意図を持って育成していくかが大きなカギになる」

 当初、根尾のピッチャー転向に対して否定的な意見が多かったが、好投を続けると称賛の声が聞こえるようになってきた。ただ広岡は、立浪が適性を見極めたうえでの判断だからと、最初から期待を寄せるコメントを残していた。

根尾のピッチャー転向の成功によって、立浪政権の行く末を左右すると示唆しているほどだ。

工藤公康、渡辺久信の育成秘話

 高卒ピッチャーの才能を開花させることに定評があった広岡は、西武時代のことを例にして話した。

「西武時代、工藤公康は利口だから二軍に落としたら舐めると思って、1年目から一軍に置いていた。工藤は頭のいい子で、競争相手がいないと思ったら途端に舐めてしまう。ハングリーさを養わせるために3年目にアメリカの1Aに留学させた。

 その一方で、いま西武でGMをしている渡辺久信は馬鹿正直だった。どこにいっても一番にならないと機嫌が悪くなる。だから、気持ちよくさせることを優先に考えた。性格を見極めて、きちんと育ててあげるのが指導者の務めである」

 性格に加え、本人が持つキャラクターも吟味し、ケガなく能力を伸ばす。さらに適材適所に配置するためには、食事からトレーニングまできちんと教え込む。そのために、監督自身も常に勉強する必要があるという。

「立浪に関して言うと、他人に意見を求めなくなったら一人前。人から教えてもらうのは値打ちがない。監督というのは、すべての責任を背負う。投手陣の調子が悪くなったからといって、ピッチングコーチの責任ではない。全部監督の責任なのだ。だから勉強する必要がある。そして自分がいいと思ったら、やり通す勇気が必要。やるべきことをやったら一人前になると信じ、突き進む。監督は選手を育て、また選手から教わるものである」

 自然の法則に反すると人間は絶対に成長しない──これだけは肝に銘じよと、広岡は強く言い放った。