今シーズンの巨人は2年連続V逸どころか、5年ぶりのBクラスに転落。指揮官である原辰徳監督は、球団史上初の2年連続負け越し監督という不名誉な称号を得てしまった。

 自身の続投は決まったが、来季の巻き返しを図るためコーチ陣の刷新が報じられた。まず打撃コーチとして元楽天監督の大久保博元、投手チーフコーチに阿波野秀幸、外野守備・走塁コーチに鈴木尚広の名前が挙がった。このコーチ人事について、巨人の大物OB・広岡達朗は当然のように物申した。

広岡達朗が提案する巨人再建計画「落合博満をヘッド兼打撃コーチ...の画像はこちら >>

今シーズン4位となり、就任して初めてCS進出を逃した巨人・原辰徳監督

大久保のコーチ就任は劇薬ではない

「今の首脳陣は、本当の意味でチームを強くしようとする具体的なビジョンがない。監督になった、コーチになったと喜んでいるだけ。集団スポーツの野球はピッチャーが大事で、これまで巨人は何人もピッチングコーチが入閣しているけど、クソの役にも立たない。

 2年前に桑田(真澄)を入れたけど、もう一軍から外した。

阿波野は中日コーチ時代、チーム防御率を12球団トップにした実績があるかもしれないが、選手に気を遣いすぎて、押しが足りない面がある。今の巨人には、本物の厳しさが必要ということをわかっているのかどうか」

 今季、チーム防御率3.69でリーグワーストだった責任をとらされてなのか、一軍投手チーフコーチだった桑田はファーム総監督となった。このほかには、作戦兼ディフェンスチーフコーチの阿部慎之助がヘッドコーチに、ファーム総監督の川相昌弘が一軍総合コーチに、ヘッド兼オフェンスチーフコーチだった元木大介は作戦面も担当する内野守備コーチへの配置転換が検討されているという。

 巨人はチーム防御率に続き、チーム打率.242もリーグワースト。ラインナップを見ると、岡本和真丸佳浩中田翔、グレゴリー・ポランコ、アダム・ウォーカーの5人が20本塁打以上をマークしたものの、一線級の投手相手には沈黙した。やはり、1点を奪いとる粘りと確実性ある打撃がこれからの課題になる。

 一軍打撃コーチだった3人(村田修一、金杞泰、横川史学)はすでに退任が発表され、ある意味、目玉人事として大久保が招聘されるという。

 大久保といえば、西武で打撃コーチを務めた際、アーリーワークを導入して若手選手の底上げを担い、2008年の日本一に大きく貢献。その後、その手腕を買われて2012年に楽天の一軍打撃コーチに就任し、二軍監督を経て、一軍監督を歴任。キャリアはもちろん、個性を伸ばす指導にも定評があり、巨人の打撃陣がどう変わっていくのか楽しみである。

 それでも広岡は、大久保には荷が重いと語る。

「大久保にしたって"劇薬"だというが、はたして本当にそうなのか。

西武時代に中村(剛也)を育て、楽天の一軍監督になった実績があろうとも、常に優勝を義務づけられている球団での指導はまた別だ。イチかバチかの劇薬で大久保を呼ぶという魂胆は浅はかすぎる。劇薬というのなら、落合博満をヘッド兼打撃コーチに呼ぶくらいじゃないと、本当の意味での劇薬にはならん」

原監督にモノ言える首脳陣が必要

 広岡は目先の変化ではなく、抜本的な改革が必要だと説く。

「原は自分にモノを言ってくる年上の実績あるコーチを起用しない。コーチ陣を大刷新と言っているが、結局、今までと同じやり方。今の巨人のコーチ陣を見ても、どいつもこいつも中途半端。唯一、見どころがあるのは川相ぐらい。

川相が現役の時、当時二軍コーチだった須藤(豊)から『ちょっと見てほしい』と言われて、教えたことがある。そういった縁もあって、川相が二軍監督の時も何度かアドバイスしたことがある。川相は現役晩年、中日でプレーしたり、二軍でも指導者をやったり、巨人に戻ってくる前は評論家としても活動するなど、いろいろな経験をしているからな。原にモノを言えるのは川相くらいしかいないだろうが、はたしてそれができるかどうかだ」

 いつもは監督だけでなくコーチにも厳しい広岡だが、川相だけは指導者としての資質があると認めている。

 広岡がヤクルト、西武の監督時代に名参謀として支えたのが森祇晶だ。選手に嫌われても徹底管理し、作戦面でも遠慮なく進言したという。

広岡が監督最後の年、その森に代わって参謀役を務めた黒江透修は以前、こう語っていた。

「広岡さんは勝負に対して意外と淡白で、『今日は負けだな』と早々に試合を見切ることが多かった。一方で勝てると思った試合は粘り強く、立ち向かっていった。作戦面でも『こういうのはどうでしょうか』と言うと、『おお、そうか。そういう考えもあるんだな』と耳を傾けてくれたし、実行してくれた。話を聞かなかったことなど一度もなかった」

 広岡は現役時代から虚々実々な話で腹の探り合いをせず、真摯に人と向き合ってきた。

頑固でとっつきにくい部分はあるが、こと野球に関しては研究を重ね、常に俯瞰して物事を見続ける努力を怠らなかった。

仲良し人事では勝てない

 広岡にどうすれば巨人が再建できるかを聞くと、こんな答えが返ってきた。

「どうせ、またよそから(選手を)かき集めるのだろうけど、FA選手は宣言した時が大抵ピーク。うまくいって2、3年活躍するのが限界で、気づいたらチームに年寄りが増えるだけ。原は高いマネジメント能力を持っているが、それは選手が揃っていればの話。要するに、育成する力がないのだ。辛抱して起用して、経験を積ませて才能を開花させる育成力など、あるわけがない。

 巨人の再建についてだが、とにかくどういう野球をするのか明確な基準を設けて、コーチ以下、選手にきっちり浸透させる。そして各ポジションにライバルをつくり、切磋琢磨させる。競争意識を植えつけ、危機感を募らせる。坂本(勇人)なんて、今のポジションにかまけているからあんな問題を起こすのだ。独身だから遊ぶなとは言わない。ただ、遊ぶにしても自分を律してさえいれば、遊び方も変わってくるはずだ」

 世間を賑わしている坂本のプライベート問題にまで言及したが、レギュラー陣が安穏としているから、この体たらくが続いていると言いたいのだ。

「効率化の時代とはいえ、結果が出ていないんだから、そもそも練習量が足りていないということ。秋季キャンプ、春季キャンプで体が悲鳴をあげるまで練習をやらせることも必要。プロなんだから、自己管理はできているという前提で挑ませる。それにはまず徹底した意思統一ができるかどうかだ」

 巨人は、生え抜きのエースか4番しか監督になっていないという特殊な球団である。そうした閉塞感がチームを停滞させてきたことは十分に考えられる。コーチ陣の入れ替えを頻繁に行なうことでチームを変えようとしても、監督に進言できる者がいない。

 仲良し組閣人事では勝てないことがわかった。だからといって、フロントが盤石なコーチ陣を招聘してチームづくりに着手するわけでもない。それでも、原監督より年長で、指導力があってモノを言えるコーチをひとりも入れていないところに、今の巨人の問題が詰まっているような気がする。

 最後に広岡は「目先の勝利にこだわるため、なり振り構わずFAで選手を集めてくるだろうが、この馬鹿者が!」と言い放った。原政権が続く限り、チームは弱体化し酸欠さえ起こしている。それをわからずしてFA選手を集めて優勝しても、その場しのぎでしかない。巨人の未来は、いったいどこへ向かっているのだろうか。