WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で過去4回、アメリカ開催のグループに入っていたイタリアは、今回初めてアジア開催のグループに入った。台湾・台中で行なわれたプールAには、亡命選手の招集で大幅に戦力アップしたキューバ、過去2大会連続準決勝進出のオランダ、予選を勝ち抜き3大会ぶり出場の古豪・パナマ、そして開催国のチャイニーズタイペイ(以下、台湾)という実力伯仲の強豪が揃った。

 戦前の予想どおり、最初から最後まで気が抜ける場面がなく、終わってみればまさかまさかの"全チームが2勝2敗"というカオス状態。大会規定の失点率により、連敗スタートのキューバがまさかの1位通過。そして最終戦となったオランダ戦で「4点差以上をつけ、かつ5失点以内で勝利、あるいは延長12回まで両チーム無得点で13回以降に4点差以上をつけて勝利」という厳しい条件のもと、7対1で勝利し、見事その条件をクリアしたイタリアが2位で通過し、準々決勝に進出。東京行きを決めた。

WBC準々決勝で激突のイタリアはどんなチーム? ピアッツァ監...の画像はこちら >>

オランダ戦で勝利し、準々決勝進出を決めたイタリア代表のマイク・ピアッツァ監督

【イタリア代表の一番の有名人は監督】

 イタリア代表のチームは、イタリア系アメリカ人のメジャーリーガーを中心に、マイナーリーグ、イタリア本国でプレーする選手で構成されており、開催前の予想はそこまで評価は高くなかった。

 目立つ選手と言えば、野手では大谷翔平のチームメイトでもあるデビッド・フレッチャー(エンゼルス)、俊足・好守かつMLBでは珍しくバントの名手としても知られるニッキー・ロペス(ロイヤルズ)、怪力ながら選球眼もよく"イタリアン・ナイトメア"の異名を持つビニー・パスカンティーノ(ロイヤルズ)。投手では、チーム21年ぶりのポストシーズン進出に貢献したマット・フェスタ(マリナーズ)、160キロの速球と高回転カーブを武器に新人ながら先発とリリーフ両方で活躍したアンドレ・パランテ(カージナルス)。

 いわゆる"超大物"となれば、2013年のオールスターでナ・リーグの先発投手を務め、15年にはメッツの一員としてワールドシリーズで2度先発した経験があるマット・ハービーくらい。そのハービーも、2015年をピークに下り坂となり、22年はマイナーでプレーした。

 なにしろ、イタリア代表の一番のビッグネームは、第1回WBCは選手として、第2、3回は打撃コーチとして、そして今回は監督として参加するマイク・ピアッツァである。

 プールAは台湾開催ということもあり、地元のメディアは多数駆けつけていたが、台湾が絡む試合以外は会見場もそこまで人は集まらず、常駐しているMLBのスタッフやチームに帯同している記者が質問をするという状況だった。そのなかで、日本からも数社ほど取材に来ていたが人数も少なく、ピアッツァ監督に質問することができた。

【スモールベースボールで突破】

 各選手に関する情報を十分に集めることが難しいと言われている国際大会。ほかのチームの守備シフトは基本的にオーソドックスだったが、イタリアだけは極端な内野守備シフトを敷き、かなりの確率で相手打者はその術中にはまっていた。

この件についてピアッツァ監督に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「すばらしい3人のスタッフにより、相手打者が打球を放つと思われる最も効果的なポジションに守備陣を配置する。うまくいくこともあれば、そうでないこともある。それがベースボールだ。ただ、このスタッフたちをどれだけ誇りに思っていることか。彼らは数えきれないほどのアイデアを出してくれる。

本当に準備万全なんだ。こんなすばらしいメンバーでパーティー(試合)を続けられるのは、本当にうれしいよ」

 大会を通じてチームスタッフの働きをねぎらい、彼らから提供されるさまざまな情報によって試合を進めていることがわかった。

 1次ラウンドの4試合で、イタリアのチーム打率は.283、本塁打ゼロ。一方で、全39安打のうちセンター方向の打球が半分以上の21本もあった。

「パナマ戦が無得点に終わり、フラストレーションがたまった。そこで作戦を変えなければならないと思ったんだ。

だから、バッターにはフィールドいっぱいを使って、強いライナーを打ってくれと指示をした。ダブルプレーになってしまうこともあるが、恐れずにやってくれと。結果、クラッチヒットが何本か出た。ホームにランナーを還したかったし、なにより家に帰りたくなかった(敗退したくなかった)」

 また、ア・リーグで2年連続シーズン最多バントを記録しているニッキー・ロペスは、スクイズを含む犠打は2つ、盗塁も3つ決めるなど、"スモール・ベースボール"で着実に点を加えていった。

 初戦のキューバ戦、タイブレイクに突入した10回表、無死二塁の場面。セカンドランナーだった今季MLB昇格が確実と言われている有望株のサル・フレリック(ブルワーズ傘下)が、先頭打者の初球に意表をついた三盗を成功させた。

結局、イタリアがこの回一挙4点を挙げ、試合を決めた。

【失うものは何もない】

 そのイタリアだが、準々決勝で日本と戦う。ピアッツァ監督は、日本の印象について次のように語った。

「私は野茂英雄、吉井理人とバッテリーを組み、日米野球でも何度かプレーした。1996年には、まだアメリカに来る前のイチローを見ている。日本の選手たちは何ができて、何をしてくるかということはわかっている。

彼らはよく訓練されており、ゲームの基本を熟知している。率直に言って、この25年の間で彼らはより強くなっている。

 スタッフが集めてくれたスカウティングに役立つものがあるのはうれしいが、勝つことが簡単でないのは理解している。日本の選手たちの何人かはメジャーでプレーし、優れた選手であることを証明している。ただ、日本の選手たちはファンの期待にも応えなければならない。だが、私たちは失うものは何もない」

 現役時代は、小松製作所のCMにも出ていたピアッツァ監督。日本のことはよく知っているということが、このコメントからもわかる。データを収集し、日本への対策を練ってくることは間違いなさそうだ。

 今回、イタリア代表に帯同していたイタリア系のベテラン男性記者は、初戦でキューバに勝ったあと、会見で選手たちにこんな言葉を投げかけた。

「イタリア代表としてプレーしてくれて、本当にありがとう!」

 また台湾戦に敗れたあと、ピアッツァ監督はこんなコメントを残した。

「イタリアで野球のルネッサンスを興すために、イタリア系アメリカ人の経験を必要としているのです」

 イタリア代表メンバーは、イタリア系アメリカ人、そして本国のイタリア人で構成されている。マット・ハービーは言う。

「私たちの血を引く国にとって、非常に特別。それはチーム全員にとって同じことで、我々はファミリー(イタリア代表)のためにプレーしている」

 ニッキー・ロペスは、WBCという大会の意義をこう表現した。

「この大会は、世界中からたくさんの人、国が集まりプレーしている。私たちのチームは親密だ。ハングリー精神にあふれ、自分たちの名を上げたいと思っているが、同時にお互いのためにプレーしている。この戦いはとにかく特別だ」

 イタリア代表はチームのGMを務めるジョン・マルコと同じ口髭を全選手がたくわえたり、またダグアウトにエスプレッソマシーンを置いたり、とにかくこの大会を心から楽しんでいるようだった。

 激闘の末、プールAを2位で通過し、ピアッツァ監督曰く「ヨーロッパ野球のルネッサンス」を起こした今大会のイタリア。16日に東京ドームで行なわれる日本戦で、ピアッツァ監督はどんな戦いを仕掛けてくるのか。全試合を見てきた私は、本当に楽しみで仕方ない。