100年の歴史を持つ東京六大学野球連盟で、最多の優勝回数を誇るのは早稲田大(48回)で、それを追うのが法政大(46回)だ。さらに、数多くのOBをプロ野球に送り込む明治大(43回)、慶應義塾大(40回)が続く。
そんななか立教大は、2017年春のリーグ戦で18年ぶりに優勝を飾ったが、東大を除く5大学のなかで優勝回数は圧倒的に少なく(13回)、しかも現在、最も長く優勝から遠ざかっている。
【早稲田大との死闘を制し勝ち点奪取】
そんな立教大がこの春のリーグ戦でミラクルを連発し、優勝争いを繰り広げている。
第1週の慶應義塾大戦は勝ち点を落としたものの、法政大に2連勝。そして5月3~5日に行なわれた早稲田大戦では2勝1敗で勝ち点を獲得。なかでも、5月5日の早稲田大との第3戦は、歴史に残る激闘となった。
早稲田のエース・伊藤樹を打ち崩し、3回までに8対2と大量リード。その後、早稲田に追い上げられて9対9となり、延長戦に突入した。立教は12回表に自軍のミスで1点を奪われたが、あきらめなかった。
無死一塁から7番の丸山一喜が右中間スタンドに逆転のツーランホームランをぶち込んで、4時間17分の激闘に決着をつけた。延長になってからの逆転サヨナラホームランは、連盟創設100周年を迎えた東京六大学で初めてのことだった。
この試合では、こんなこともあった。
今季から東京六大学ではビデオ検証が導入されたが、早稲田大の小宮山悟監督は当初から「使わない」と宣言していた。
「安部磯雄先生(早稲田大学野球部初代部長)の『審判団の判定に不服を申し立ててはいけない』という教えがありますので、学生たちには『ビデオ検証は使わない』と言っていました。しかし、(セーフになった瞬間に)グラウンドにいた選手全員が『どうにかしてくれ』と疑義を示したので、学生のためにリクエストをしました」
ビデオ検証の結果、打者走者はセーフとなり、判定は覆らなかった。
「安部先生の教えに背いたということで、敗戦以上に重たい負けです。(私の)指導不足ですね。安部先生はおそらく、お怒りになっているでしょう。だから、ああいう結果(サヨナラ負け)につながったのかもしれない」
小宮山監督は先人の教えを知りながら、なぜそうしたのか。
選手の思いを汲んでということに加えて、この試合に負ければリーグ戦3連覇に危険信号がともるからだろう。早稲田大はこのあと、今シーズンここまで全勝の明治大、そして宿敵・慶應義塾大と戦わなければならない。だから立教大戦は、どうしても落とせない試合だったのだ。
【ミラクル連発の理由】
早稲田大を下して勝ち点を2とした立教大は、ここまで5勝3敗。
この勝負強さはどこから生まれるのか。まず、スターティングラインナップに並ぶ選手の出身校を見れば、20年前、30年前の立教大とは大きく違う。
早稲田大との第1戦でサヨナラヒットを放った村本勇海や丸山は大阪桐蔭の出身で、ショートの小林隼翔は広陵(広島)時代に日本代表の主将を務めた経験がある。
またエースの小畠一心は智辯学園(奈良)、リリーフでマウンド上がった竹中勇登は大阪桐蔭。さらに、斎藤蓉や吉野蓮といった投手も、仙台育英(宮城)で修羅場をくぐり抜けている。
しかし甲子園で活躍したスターを揃えても、東京六大学で優勝することは容易ではない。有望選手を迎え入れながら、2017年の春以降、優勝から遠ざかっていることからもわかる。
ではなぜ、今シーズンの立教大は劣勢でも闘志を失わず、逆転勝ちを収めることができているのか。監督就任2年目の木村泰雄監督は言う。
「昨年は1勝しても、勝ち点が奪えなかった。
戦い方を見ると、打順は固定せず、相手投手との相性や打者の調子を見極めながら積極的に組み替えている。木村監督は早稲田大戦に勝利して勝ち点を奪ったあと、次のように語った。
「早稲田との第2戦で4番を任せた丸山を、この日は7番に起きました。1点リードされた延長12回裏、ノーアウト一塁の場面で丸山が打席に入る時に『バントしますか?』と聞いてきましたけど、『打つしかないだろう』と言って送り出しました。(打率4割超と好調な)丸山には、バントではなく打たせました」
さらに、これまで実績のなかった選手の起用、ベンチ入りメンバーの入れ替えを行なうことで、チーム全体が活性化しているように見える。
法政大との第1戦でサヨナラヒットを放った4年の野村陸翔(立教池袋出身)は、その後もチャンスで起用され結果を残している。また、法政大との第2戦からベンチ入りしてリーグ戦初ヒットを記録した2年の住井力(立教新座出身)も、早稲田大との第3戦に代打で登場し、またしてもヒットを放って結果を出した。
彼らのような"脇役"が終盤に出てきて結果を出すことで、チームは勢いづく。
「チーム全体、選手全員が最後まであきらめずに戦っています。苦しい展開でサヨナラ勝ちしたことが自信につながり、チームがいい雰囲気のなかで試合ができています。ピッチャー陣もよく粘っていますし、失点してもそれをカバーしようと野手陣が頑張ってくれています」
立教大にとっては5月10日からの明治大戦が大一番になる。
「監督の指導というより、選手たちがいい雰囲気をつくってくれている。一戦一戦をしっかり戦うことしか、我々にできることはありません。今日の雰囲気をできるだけ継続しながら、明治戦に臨みます」
現在、リーグ戦負けなしの明治大から勝ち点を奪えば、リーグ戦はさらに面白くなるだろうし、立教大の8年ぶり優勝も現実味を帯びてくる。