甲子園で光ったスーパー走塁術(前編)
高校野球はトーナメントが終盤を迎えるにつれてレベルが高くなり、1点の重みが増してくる。
どのチームも1点をつかみ取るため、ひとつでも先の塁を奪おうと手を尽くす。
8月16日に行なわれた甲子園3回戦から、珠玉の走塁術を披露した2選手を紹介したい。
【見逃さなかった相手の隙】
日大三(西東京)と高川学園(山口)が対決した第1試合。決定的な大仕事をやってのけたのは、日大三の1番・右翼手である松永海斗(3年)だ。
高川学園に1点を先取された直後の攻撃。1回裏一死三塁のチャンスで、日大三の3番打者・本間律輝(3年)が放ったゴロは投手正面へ。ここで三塁走者の松永が、三本間に挟まれてしまう。
本間が打席に入った時点で、ベンチからは「ゴロゴー」の指示が出ていた。つまり、打者がゴロを打った場合、走者は本塁突入を目指す作戦である。ただし、投手ゴロの場合は判断が難しい。本間がバットに当てた直後にスタートを切った松永は、投手がゴロを捕球した瞬間、「まずいな」と焦ったという。
「とりあえず(打者走者の)本間を二塁まで行かせようと思いました」
時間を稼ぐため、三本間でじっと待つ。高川学園の投手が松永を追いかけ、三塁に送球。
「ピッチャーが追いかけてくるスピードが遅かったんです。サードにボールが渡ったあとも、あんまり追いかけてこなかった。これは、サードが投げた瞬間に戻れば、セーフになるかもしれないと思いました」
松永が本塁に向かう様子を見た三塁手は、捕手に転送。すると、松永は瞬時に三塁へと鋭くターンする。三塁手が三本間のラインの内側にいると見て、「外側から手を入れよう」とベースタッチ。絶体絶命の危機を脱して、三木有造監督からは「よくセーフになった」と称えられたという。
しかも、打者走者の本間はランダウンプレーの間に二塁まで進塁。チャンスは一死二、三塁と拡大された。直後、4番・田中諒(2年)の遊撃ゴロの間に、松永は本塁に生還する。もし松永が憤死していれば、田中の凡退で攻守交代になっていたはずだった。
この直後、日大三打線が爆発する。さらに4安打1四球を集中し、この回に一挙5得点で逆転に成功した。結局、この5点が大きくものを言い、日大三は9対4と5点差で勝利を収めている。
【ランダウンプレーで生き残るコツ】
ランダウンプレーで挟まれた時に、生き残るコツはあるのか。「ない」と言われることを承知で聞いたのだが、松永の答えは驚くべきものだった。
「三本間はあまり(セーフになったことが)ないんですけど、一二塁間のほうが練習しているので、得意ですね」
牽制球で誘い出された時など、一二塁間で挟まれるケースもある。松永は持論を続けた。
「追い方とか、一定のパターンがあるので。その時、その時で頭に入れて動いています」
松永によると、一番アウトになりやすいのは、投げ手がスピーディーに追いかけてくる時だという。
「もしピッチャーがガッと速く追ってきて、サードにボールを渡していたら、アウトになっただろうと思います。ランナーからすると、ゆっくりと追われたら考える時間が増えます」
また、松永が外野手という点もポイントだった。内野陣がランダウンプレーの練習をする際、必然的にランナー役を務めるのは外野手になる。
松永の好走塁は、これだけではなかった。そもそも1回裏に三塁に進塁したのも、松永の好判断だった。右翼線に二塁打を放った直後、中継プレーで二塁手がボールをこぼしたのを見逃さず、思いきりよく三進したのだ。
7回裏には二死一、二塁の一塁走者として、2番・松岡翼(3年)の左翼線二塁打で長駆ホームイン。最後は微妙なタイミングになったが、松永は勢いのあるヘッドスライディングで間一髪、生還を果たしている。
このベースランニングは、松岡がバットを振り出す前から始まっていた。
「ボールが真ん中らへんにいったので、松岡が振りにいくタイミングを見計らってスタートを切りました。ベースランニングは普段からベースの内側を踏んでから、蹴る意識で回っています。そうすると内側へ、クッと速くいけるので。一塁からよっつ(本塁)の長い距離になって、最後は体が前傾姿勢になったのもあって、『ヘッドスライディングのほうが速い』と思って、頭からいきました」
プレーのひとつひとつに根拠がある。
つづく