夏の甲子園2025ベストナイン(前編)

 夏の甲子園は、沖縄尚学の優勝で幕を閉じた。大会期間中に起きた広陵の出場辞退など、暗い話題もあったが、選抜王者の横浜をタイブレークの末に破った県岐阜商の快進撃など、見どころの多い大会となった。

そこでこの夏、現地取材した5人の記者に今大会のベストナインを選出してもらった。

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楊順行氏(ライター)

投手/織田翔希(横浜)
捕手/宜野座恵夢(沖縄尚学)
一塁手/小野舜友(横浜)
二塁手/奥村凌大(横浜)
三塁手/高田庵冬(仙台育英)
遊撃手/松岡翼(日大三)
外野手/鳴海柚萊(山梨学院)
外野手/横山温大(県岐阜商)
外野手/白鳥翔哉真(東洋大姫路)

 2年生に好投手の多い今大会だったが、頭ひとつ抜けているのはやはり織田翔希(横浜)だ。県岐阜商戦の初回に失点するまで、2完封を含む23回2/3を無失点。成長著しいのが心身のタフさで、「昨年の秋なら『無理です』『握力が落ちてきました』と泣き言を言っていましたが、今回は交代を打診しても『行きます』と拒否して」(村田浩明監督)。食あたりで体調が万全じゃない津田学園戦を5安打で完封した。

 山梨学院の菰田陽生も「将来の日本球界の宝」(吉田洸二監督)とスケールは捨てがたいが、数字では圧倒的に織田に軍配だ。

 捕手の宜野座恵夢(沖縄尚学)は2001年春、21世紀枠で4強入りした"宜野座旋風(ややこしい)"を起こしたときの投手・仲間芳博さんを叔父に持ち、「小学校のチームでは(仲間さんが)監督でした」(宜野座)。ただ、「甲子園に近いから」と宜野座高校には進学せず、沖縄尚学の門を叩いた。仙台育英戦ではタイブレークの10回にダメ押し三塁打、準決勝でも初回に同点打だから、叔父さんも宜野座高に進学しなかったことを許してくれるだろう。

 一、二塁手は守備が目を引いた横浜コンビ。小野舜友は昨秋外野から転向したポジションながら、むずかしいワンバウンド送球を事もなげに処理し、県岐阜商との準々決勝では、内野5人シフトに相手が仕掛けてきたスクイズを処理、グラブトスでホームに刺した。

 奥村凌大については、数々の好プレーを見ていた方は納得だろう。

ことに県岐阜商戦、一、二塁間の打球に飛び出しかけた一塁の小野が、塁に戻りかけて足を滑らせたのを視野にとらえ、 瞬時に二塁に送球した判断力と視野の広さ。

 高田庵冬(仙台育英)は俊足強打の三塁手で、須江航監督が「アメフトでも、いますぐトップレベルになれる」とベタ褒めする身体能力。ある部員が野球日誌で「高田が過去イチです」と記した翌日、8番ながら開星戦でホームランを放ち、本人も「完璧でした」。

 ショートの松岡翼(日大三)は個人的な好み。守備がなんとも流麗で、たとえるなら伝統芸能の所作のように、無駄がなく、力が抜けているのだ。本人曰く「三木(有造監督)さんからは入学以来ずっと、『動きが大きすぎる』と言われていた」とのこと。三重県鈴鹿市出身で、父の昌志さんは社会人・ホンダ鈴鹿の元コーチ。同チームには日大三OBで、2011年夏優勝メンバーの畔上翔もおり、「畔上さんに薦められたのが進学のきっかけです」。打率は低いが、準決勝までの4試合で7犠打を決めたバント職人でもある。

 外野はもう、詳しくは触れないが今大会のMVPともいえる横山温大(県岐阜商)。まったくハンデを感じさせない躍動には、ワイドショーが節操なく群がったが、県岐阜商が甲子園を味方につけたのには、間違いなく横山の存在がある。

 白鳥翔哉真(東洋大姫路)は花巻東戦、「ヒットならいつでも打てます」とばかりに腰の据わったバッティングで3安打4打点。

 鳴海柚萊(山梨学院)は、「信頼できない打者は打線のはじっこに置くんです」と吉田監督がいう1番を打ちながら、「責任感はあまりないけど、ときどきビッグな仕事をする」と、聖光学院戦の8回には結果的に決勝点となる適時三塁打。通算でも4割近い打率を残した。

【夏の甲子園2025】現地取材記者5人が選ぶ大会ベストナイン前編 聖地を沸かせた珠玉の名プレーヤーたち
西日本短大付の4番・佐藤仁 photo by Matsuhashi Ryuki
戸田道男氏(編集者兼ライター)

投手/広瀬賢汰(尽誠学園)
捕手/横山悠(山梨学院)
一塁手/佐藤仁(西日本短大付)
二塁手/比嘉大登(沖縄尚学)
三塁手/安谷屋春空(沖縄尚学)
遊撃手/松岡翼(日大三)
外野手/横山温大(県岐阜商)
外野手/本間律輝(日大三)
外野手/藤原颯大(岡山学芸館)

 投手は、本来なら、沖縄尚学を日本一に導いた2年生左腕・末吉良丞で決まり、でよい。初戦の金足農戦の完封、3回戦・仙台育英戦の延長11回168球の熱闘など期待にたがわぬ投球を続け、まぎれもなく大会のヒーローになった。

 しかし、今大会を通してひとりだけというなら、尽誠学園・広瀬賢汰の名前を残しておきたい。初戦の東大阪大柏原戦は106球で6安打完封し、打っては5回に2点適時打。2戦目は8回に逆転を許して京都国際に敗れたが、9回を101球で投げ切り、打っては5回に逆転の2点適時打。「エース、4番、主将」の三役を任され、それを淡々とこなしきる器の大きさが印象的だった。

 今大会は、「打てる捕手」が非常に多く、捕手の選出はなかなか悩ましいところ。結局、打率.667と打ちまくった山梨学院・横山悠を選んだ。準々決勝までの3試合で打率.800と大会最高打率の更新も期待された打撃好調ぶり。準々決勝では京都国際・西村一毅から同点本塁打を放ち、打線を勢いづけた。

 一塁手も人材豊富で、数字だけならほかの選手を選んでもよいが、ここはキャラの面白さ込みで西日本短大付・佐藤仁を推す。選抜では、大会前に「調子に乗り過ぎて」(本人)一時、4番を外されたが、反省して認められ、2回戦で本塁打。父親が著名なミュージシャンでもあり、読書が趣味。こよなく愛する村上春樹のことを語りだすと止まらなかった。今夏は2回戦の聖隷クリストファー戦で8回に決勝打を放ちお立ち台にも上った。東洋大姫路に敗れた3回戦では涙に暮れたが、春夏とも明るく楽しいキャラを強く印象づけた選手だった。

 二塁手は比嘉大登、三塁手は安谷屋春空の沖縄尚学コンビ。比嘉は大会終盤から勝負強い打撃が光り、安谷屋は柔らかなグラブさばきで強烈なゴロを止める三塁守備が絶品だった。

 遊撃手は、各チームに好守のショートがずらりと顔を揃えるなかから、前後左右に軽快な動きで見る者をうならせた日大三・松岡翼を選んだ。

 外野手は、ハンディを乗り越えて躍進・県岐阜商の象徴となった横山温大は、ワイドショーなどが騒ぎに騒いだことで、辟易した向きもあろうが、本当にいい選手だった。今大会を代表する選手として外せない。

 2人目は、日大三の3番・本間律輝。

後ろを打つ4番・田中諒が打ちまくる一方、準決勝までは調子が上がらなかったものの、芯でとらえたときの打球スピードは群を抜いていた。

 3人目は岡山学芸館の2番ライト・藤原颯大。初戦の松商学園戦では2安打1四球で出塁し、3度ともホームに生還。3対0で勝ったチームの全得点を記録した。まるで陸上短距離選手かのようなランニングフォームでダイヤモンドを駆け抜けた。まだ2年生。50メートル走6秒1の自己ベストを来年までに更新し、甲子園に戻ってきてほしい。

【夏の甲子園2025】現地取材記者5人が選ぶ大会ベストナイン前編 聖地を沸かせた珠玉の名プレーヤーたち
今大会、2本の本塁打を放った日大三の4番・田中諒 photo by Matsuhashi Ryuki
元永知宏氏(ライター)

投手/末吉良丞(沖縄尚学)
捕手/横山悠(山梨学院)
一塁手/田中諒(日大三)
二塁手/奥村凌大(横浜)
三塁手/為永皓(横浜)
遊撃手/川口琥太郎(明豊)
外野手/宮川真聖(山梨学院)
外野手/阿部葉太(横浜)
外野手/松永海斗(日大三)

 194センチ100キロの巨体で甲子園を沸かせた山梨学院の菰田陽生、準決勝で164球の熱投を見せた県岐阜商の柴田蒼亮など、2年生の好投手が目立った大会だった。なかでも、2完封した横浜の織田翔希、初戦の金足農戦で3安打完封14奪三振の沖縄尚学の末吉良丞のピッチングは圧巻だった。どちらも選びたいが、優勝投手に敬意を表して、末吉にしたい。

 捕手は、打率.677、1本塁打と打ちまくった横山悠(山梨学院)。今大会で目についたのは、低くて強い打球を打つチームの躍進だ。

その代表格が4番の横山を中心に単打を連ねて勝利を手繰り寄せた山梨学院だろう。4試合で51安打、32得点を挙げた山梨学院に、菰田以外に大柄の選手は少ない。しかし、コンパクトなスイングで京都国際の西村一毅など好投手を攻略していった。これからの高校野球の模範となるバッティングだった。

 決勝までの48試合で飛び出した本塁打は10本だけ。そのうちの2本を放った田中諒(日大三)は大会屈指、貴重な長距離砲と言える。準決勝で3安打を放つなど4割を超える打率でチームをリード。日大三のトップバッター、松永海斗も思い切りのいい打撃で打線に勢いをつけた。

 準々決勝で県岐阜商に敗れた横浜だが、選手たちのポテンシャルの高さは際立っていた。二塁手・奥村凌大、三塁手・為永皓のフィールディングは高校野球ファンをうならせた。また、2年生の夏から名門校の主将を任された阿部葉太は好守で成績以上の存在感を示した。

<後編につづく>

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