前編:ドジャースが思案するクローザー「大谷翔平」と今後の投手像
ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平が投手復帰後10試合目で今季最も厳しい内容を強いられ、ポストシーズンに向かう過程で大谷の「クローザー」起用案も浮上してきている。
だが一方で、ここまでの内容を振り返ると20代の頃よりもさらに進化していることがうかがえることも確かだ。
【投手コーチが明かした「クローザー大谷」構想を巡る議論】
現地8月20日(日本時間21日)、コロラドでのロッキーズ戦に先発した大谷翔平は、投手復帰後10試合目のマウンドで苦しい展開を味わった。今季ワーストの4回5失点、しかも4回には8番オーランド・アルシアの放った痛烈な打球が右脚を直撃。投手への強襲安打となり、大谷は苦悶の表情を浮かべ、足を引きずりながらマウンドに戻る場面もあった。
しかし同じ日、別の角度から彼の投球人生をめぐる注目すべき話題が浮上していた――ポストシーズンでの「クローザー大谷」構想である。投手として復帰したばかりの二刀流を、終盤の切り札として起用する案が水面下で検討されていた事実が明らかになったのだ。
発覚したのは、その日の朝だった。ロサンゼルス・ドジャースのマーク・プライアー投手コーチがラジオ番組『ダン・パトリック・ショー』に出演し、「大谷がポストシーズンにリリーフで登板するシナリオはあるのか」と問われた。プライアーは「実際に議論されたこともあります。ただ、リリーフ登板の場合のルールを正しく理解する必要がある」と前置きし、こう説明した。
「現行のルールでは、先発として登板すれば、降板後も指名打者(DH)として打席に残ることができます。しかしリリーフの場合、例えば6回に登板して7回に降板したあとにDHとして残ることはできません。したがって現実的なのは、試合終盤のクローザーとして投げるか、その後は打席に立たないという選択肢を受け入れたケースに限られるでしょう。
この発言を受け、試合前の会見ではドジャースのデーブ・ロバーツ監督にも同様の質問が飛んだ。監督は「まだ内部で可能性を探っている段階です。先発陣の状態や翔平自身のコンディションなど、いくつもの要素に左右されます。週1回先発するのとは全く異なる役割なので、現時点では現実的な話ではありません」と慎重な姿勢を示した。
おそらく、その最終的な判断は今後のチーム事情によって左右されるだろう。現在のドジャースには、山本由伸(10勝8敗、防御率2.90)、クレイトン・カーショー(7勝2敗、防御率3.01)に加え、サイ・ヤング賞を2度受賞したブレーク・スネルや剛腕タイラー・グラスノーが復帰し、若手のエメット・シーハン(4勝2敗、防御率4.17)も安定した投球を見せている。ポストシーズンを戦ううえで必要な先発投手は4人いれば十分だ。一方で、ブルペンは故障者が多く、復帰したとしてもどれだけ戦力になるかは不透明である。
大谷にとって何より大切なのは「勝つこと」だ。WBCで侍ジャパンのクローザー役を引き受けたときのように、ドジャースの勝利を最優先に自らの役割を受け入れる可能性は十分にある。実際、試合前の監督会見後、プライアー投手コーチはダグアウトの端でこう語っている。
「彼の気持ちを代弁することはできません。
記者が「場合とは、例えば昨年のサンディエゴ・パドレスとの地区シリーズ第5戦のような試合か」と尋ねると、プライアーは「そうかもしれません」と答えた。
さらにロバーツ監督は大谷をポストシーズンでリリーフ起用する場合は、公式戦の段階から準備が必要だと述べた。「1週間では不十分だと思います」と語り、そうなれば9月中旬以降は先発からリリーフに役割を移すのである。
【31歳にして20代の頃を凌ぐ投手へ】
大谷について注目すべき点は、いまだ不確かなのはポストシーズンでの起用法だけではない。ロサンゼルス・エンゼルス時代と比べると、投球フォームや球種の選択、直球の速度に至るまで著しい変化を遂げており、31歳にして20代の頃を凌ぐ投手への進化を目指していることだろう。
まず注目すべきは直球の速さだ。かつてはセットポジションから投げていたが、今季はノーワインドアップに切り替え、全身を使ったダイナミックなフォームで投げ込んでいる。その結果、平均球速は自己最高の98.2マイル(157.1キロ)を記録。これは2023年の96.8マイル(154.9キロ)から約1.5マイル、これまでの最速だった2022年の97.3マイル(155.7キロ)からも約1マイル上回っている。今季のメジャー先発投手のなかでもトップ5に入る数値だ。6月28日のカンザスシティ・ロイヤルズ戦では自己最速となる101.7マイル(162.8キロ)を計測し、エンゼルス戦では旧友マイク・トラウトを100.7マイル(161.1キロ)の直球で空振り三振に仕留めた。
投げる球種も変わった。大谷がメジャーに来た当初、彼のスプリッターは最大の武器だった。2018年、大谷はスプリッターで59打席中35三振を奪い、被打率はわずか.036。次のフルシーズンとなった2021年には、138打席で78三振をスプリッターで奪取。被打率は.086だった。当時、大谷は約20%の割合でスプリッターを投げていた。だが今はその使用率はわずか3.4%。しかもかつては左右両方の打者を仕留める決め球だったのに、今年は左限定の球になっている。
では、スプリッターに代わる決め球は何か? それはスライダーとスイーパーで、空振り率はそれぞれ51.4%と37.5%である。
球種の変化には、投球時の腕の角度が下がってきたことが大きく影響している。メジャーに挑戦した当初から2021年まではおよそ45度だったが、年々低くなり、今季は35度にまで下がった。サイドスローに近い投げ方は横方向の変化を強める傾向があり、スライダーやスイーパーには適している。一方で、スプリットには向かず、コントロールが安定しにくいという課題もある。
つづく