後編:ドジャースが思案するクローザー「大谷翔平」と今後の投手像
二刀流に復帰したロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平は、まだ負荷を少しずつかけている段階だが、復帰後の投球内容を見ると、以前よりも進化を遂げている要素が多く見られる。
大谷翔平は今後どのような投手へと進化していくのか。
前編〉〉〉「クローザー」案浮上と復帰後の投球内容に見る31歳の変化の凄み
【「シーズン終盤に万全な状態でいられるようにすることが最優先」】
――ドジャースは、少なくとも現時点では大谷翔平の登板を5イニングまでに制限しています。持久力や故障防止という点で、賢明なアプローチだと思いますか。
マギネスPC「そう思います。我々は翔平を少しずつ負荷に慣らし、登板数を増やしていけるよう、慎重に取り組んできました。今後もシーズン終盤に向けて様子を見ながら進めていくつもりです」
――本人はもっと投げたいという気持ちがあるようですが。
マギネスPC「そこは我々が止めなければなりません。シーズン終盤に万全な状態でいられるようにすることが最優先です。我々は賢く立ち回る必要があります」
――球種配分について伺います。復帰当初はスイーパーに頼りすぎている懸念がありましたが、現在は全体の28.8%。スライダー、シンカー、スプリット、カッターに加えて、最近はカーブも投げています。この点をどう見ていますか。
マギネスPC「全体的に多彩な球種を持つことは非常にいいことです。
――かつて(2022年頃)は投げるたびに腕の角度を変えていましたが、今はほぼ同じアングルで投げていますね。腕の角度についてはどう見ていますか。
マギネスPC「私は同じアングルから投げるのが好ましいと思います。ボールの変化を無理に作ろうとせず、同じ腕の振りから投げる方が自然だからです。これまでのところ、すばらしい仕上がりです」
――あなたは以前、大谷の身体的特徴から判断して、2シームを投げるのが自然で適しているように見えると話していました。近年は2シーム主体の投手が減っていますが、例えばロサンゼルス・エンゼルスのホセ・ソリアノはすばらしい2シームを投げます。今後は彼のようなシンカーボール投手が増えると思いますか。
マギネスPC「2020年以降、シンカーボール投手は確実に増えてきていると思います。チームがシームシフト効果を理解し、どんな投手がそれを生かせるかを見極めるようになったからです。今では球界全体が、投手ごとに4シーム、2シーム、カッターのどれを最も効果的に使えるかを、より賢く判断しています。翔平の場合、2シームでは自然に良い変化を生み出せますが、4シームはやや難しさが残りますね」
【「(先発としての)復帰プロセスは順調に進んでいる」】
――2シームとスイーパーの組み合わせは、4シームとスイーパーよりも効果的だと思いますか。
マギネスPC「それは投手次第です。
――大谷は同じ球種でも曲がり方を変えたり、微妙に操作できると言われています。かつてパドレスのダルビッシュ有は11種類の球種を投げ分けると評判でしたが、大谷も同じことが可能だと思いますか。
マギネスPC「彼が望めば、さまざまな変化球や新しい球種を作り出す能力は間違いなく持っています。ただ重要なのは、安定して投げられる球種を見つけ、その日のプランに沿って活用することだと思います」
――チームとしては、大谷に先発投手として長期的に成功してもらいたいという考えですよね。現時点ではまだ試行錯誤の段階なのでしょうか。
マギネスPC「そうですね。彼自身、今の投球フォームで何が機能しているのかを探っている段階です。もちろん、長期的に健康で投げ続けることが最も重要です。チームにとって非常に大きな存在ですし、ここまでの復帰プロセスが順調に進んでいることを喜んでいます。今後もその状態を維持できるよう注意していきたいです」
――今年はノーワインドアップで投げています。
マギネスPC「以前はセットポジションだけでしたが、彼自身がワインドアップを復活させたいと望んでいました。非常に快適に感じているようです。実戦でいくつかのミスがあっても、それを学びに変えています。我々としてはそこをとても評価しています」
――体全体を使うことで、肘や肩への負担を減らせるということですか。
マギネスPC「そうですね。今のところ、とても良い効果が出ています」。
【来季以降は本格的に先発も今季はクローザーで二刀流か?】
興味深いのは、マギネス投手コーチが「大谷には2シームがより適している」と明言している点だ。しかし現状、大谷は4シームを40.5%と多用し、2シームはわずか8%にとどまっている。参考までに、ナ・リーグで現時点の最優秀投手と目されるポール・スキーンズ(ピッツバーグ・パイレーツ)も、今年から2シームを投げ始めており、4シームが39%、2シームは9.3%の割合だ。腕の角度は23度と低く、スイーパー、スプリット、チェンジアップなど多彩な変化球を組み合わせている。
大谷は、スキーンズのような進化を遂げ、2026年から2027年にかけてサイ・ヤング賞を争う可能性も十分にあると思う。しかしながら今季に限って言えば、すでに山本、スネル、グラスノー、カーショーという布陣がそろっている。
その弱点が露呈したのが、現地8月20日(日本時間21日)のコロラド・ロッキーズ戦だった。試合が行なわれたデンバーは標高約1600メートルの「マイルハイ・シティ」。空気が薄いため変化球が曲がりにくく、速球の軌道も安定しない。これまで数多くのメジャー投手が苦しんできた鬼門で、大谷も同じ洗礼を受けた。MLBのデータ分析サイト『ベースボール・サバント』のデータによると、この日の大谷は平均球速95.4マイルの「カッター」を7球投げたと記録されているが、実際にはすべて直球だった。
試合後、大谷はこう振り返った。
「真っすぐがカット気味に動いていたので、ウィル(スミス捕手)のスライダーの要求が多かったのかなと思います」
問題は、それを自覚した時にいかに試合の中で修正できるかだ。しかしこの日の大谷には、そのための"引き出し"が足りなかった。
「ブルペンでボールが動かないことはしっかり理解したうえでマウンドに上がっているので、言い訳にはなりません。自分の投球内容として、思うようにいかないときにひとつでもふたつでも工夫できることが増えればいいと思いますし、イニングを重ねるなかでもう少し先発投手として引き出しを増やしていければ、結果も変わっていたのかなと思います」
さらに大谷は「チームに申し訳ない。
先発投手として完成形に近づくまでには、まだ試行錯誤が必要なのだろう。その一方で、今季に関してはまず「1番・DH」として打線をけん引しつつ、WBCのように大事な試合でクローザーとして起用されるのが現実的なシナリオなのかもしれない。そしてそれは、WBC同様、前代未聞の出来事として、大きな盛り上がりを呼ぶのは間違いないのである。