小笠原道大が語る「DH制導入の是非」(後編)
前編:DH制導入によって野球はどう変わる?>>
2027年からセ・リーグでもDH制が導入されるが、ではどのような選手が向いているのか。そこでセ・パでMVPを獲得した小笠原道大氏に今季セ・パ交流戦でのDHの顔ぶれを振り返りながら、適任者は誰なのかを尋ねた。
【DHとして試合に出る難しさ】
── 小笠原さんは一塁と三塁で、合計6度ゴールデングラブ賞を受賞しています。
小笠原 私はもともと捕手出身です。入団当初、普段はDHの外国人選手がケガで欠場した時などに、DHとして出場することがありました。DHは守備をしなくてすむので正直ラクではありますが、慣れないうちは打席のリズムをつかみにくい面もあります。
── 守備からリズムをつかんで、打撃に入るタイプもいるということですね。
小笠原 長打力のある助っ人外国人打者が毎年やってきます。しかもDHは1枠しかないわけです。若い選手はどこかのポジションを守れることで、試合出場の選択肢が広がります。DHに頼ってはいけません。「自分はDHがあるからいいんだ」ではなく、走攻守三拍子揃って初めて一人前と、最低限そう考えておいたほうがいいよと助言したいですね。
── DH制や広い球場によって、パ・リーグは力勝負で強くなったと言われています。
小笠原 そういうふうにクローズアップされますが、パ・リーグの球場はホームランテラスの設置などで狭くなる傾向がありますし、セ・リーグのバンテリンドームナゴヤは広いです。確かにセ・リーグには変化球主体の投手がやや多い印象もありましたが、本格派投手もいましたし、パワーヒッターも存在します。
── 小笠原さんは2006年にパ・リーグ(日本ハム)MVP、2007年にセ・リーグ(巨人)MVPに輝いています。両リーグの野球の違いを感じることはありましたか。
小笠原 私は自分のスタイルを貫き、リーグが移ったからといって打撃を変えたことはありません。基本的に、パ・リーグでもセ・リーグでも、「速いストレート」「質のいいストレート」「質のいい変化球」を打てなければ活躍できないと思っています。両リーグで活躍した打者としては、和田一浩選手、内川聖一選手が思い浮かびます。
── セ・パ交流戦導入の2004年以降、全20度でセの優勝は5チームだけ。同年以降、日本シリーズもセの日本一は6度だけとパ・リーグが圧倒しています。
小笠原 パ・リーグの本拠地球場ではセ・リーグがDHを使えますが、セ・リーグの本拠地球場ではパ・リーグがDHを使えません。だから、DH制度の有無だけで優劣を語ることはできないのではないでしょうか。
【DH候補は外国人、ベテラン、それとも...】
── 1975年から始まったパ・リーグの「DH」の顔ぶれを見て、どう思われますか? 代打の切り札から1試合4打席立って力を発揮した高井保弘さん(元阪急)、アキレス腱の痛みを抱えていた時にDHで救われた門田博光さん(元南海ほか)、投打二刀流の大谷翔平選手(日本ハム)らが名を連ねています。
小笠原 日本ハム時代のチームメイトで、4打席連続アーチを放ち、1997年に本塁打王のタイトルを獲得したナイジェル・ウィルソン選手、スイッチヒッターとして2004年に本塁打王となったフェルナンド・セギノール選手が特に印象深いですね。他チームでは、シーズン55本塁打を放ったアレックス・カブレラ選手(元西武ほか)の活躍も強烈でした。
── 今年のセ・パ交流戦を振り返って、DHに入ったなかで印象に残った選手はいましたか。
小笠原 いま挙げた選手たちと比べると、少し寂しい気がしますね(笑)。結果的にセ・リーグでは、DH起用法がいくつかに分類されていました。ひとつ目は、サンドロ・ファビアン選手(広島)やドミンゴ・サンタナ選手(ヤクルト)のような外国人選手。ふたつ目は、中山礼都選手(巨人)、糸原健斗選手(阪神)、川越誠司選手(中日)のように、打撃力を生かしたい選手です。
3つ目は坂本勇人選手(巨人)、筒香嘉智選手、宮?敏郎選手(いずれもDeNA)、大島洋平選手(中日)のようなベテラン選手。4つ目は大城卓三(巨人)、戸柱恭孝、松尾汐恩(いずれもDeNA)、坂倉将吾(広島)、石橋康太(中日)のように、ポジションがひとつしかない捕手たちです。もちろんチームによって、DHの使い方はそれぞれだと思いますが、個人的には本塁打を狙える外国人がいいと思います。
【獲得する選手のタイプが変わる】
── DH制導入は、打力を強化したい中日などにとって戦力向上の大きなプラス材料になるように思えます。また巨人では、リチャード選手や増田陸選手もDH候補になるのではないでしょうか。
小笠原 一塁、三塁、外野などで外国人打者とポジションが重なり、出場機会を失っていた選手にとっては、DH制の導入で試合に出るチャンスが広がる絶好の機会です。また、打線に専任の打者を組み込めることは、チームにとっても個人にとっても朗報ですね。
── ほかの球団はいかがですか?
小笠原 今季の広島は、エレウリス・モンテロ選手やサンドロ・ファビアン選手の外国人野手が好調です。そこに一発長打が魅力の末包昇大選手もいます。誰かがDHに回れば、守備や走塁にすぐれた二俣翔一選手や大盛穂選手、中村奨成選手の出場機会も増えると思います。
── 過去に小笠原さんが見て、「DHなら守備の負担が減ったのに......」と思った選手はいますか?
小笠原 私の巨人時代の3、4番コンビは「オガラミ」と呼ばれていましたが、守備が得意とは言えないアレックス・ラミレス選手は、DHでもよかったですね。2010年、2011年ごろの巨人は、すぐれた外野手が豊富に揃っていました。たとえば谷佳知選手は守備も上手でしたし、結局オリックスに移籍することになりましたが、ラミレス選手がDHに入っていれば、結果はまた違ったものになっていたかもしれません
── 今後は、ある程度守備力も考慮して獲得していた外国人選手を打撃に特化させることができますし、ドラフトで指名される選手の顔ぶれも変わってくるかもしれません。
小笠原 その猶予期間もあり、正式導入は2027年からになったのだと思われます。導入1年後、2年後のセ・パ交流戦や日本シリーズの結果に、どのような影響が現れるかを検証するのも楽しみですね。
小笠原道大(おがさはら・みちひろ)/1973年10月25日、千葉県生まれ。暁星国際高からNTT関東を経て、1996年のドラフトで日本ハムから3位で指名され入団。99年に「バントをしない2番打者」としてレギュラーに定着。2002、03年には2年連続して首位打者に輝いた。