大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)はレギュラーシーズンあと7試合(日本時間9月21日)を残し、ホームラン53本を放ち、141得点を記録している。1シーズン「50本塁打&140得点」を達成したのは、MLB史上7人目、通算10度目だ。
これまでの9度は、ベーブ・ルースが4度で、あとは5人が1度ずつ。ただし、下の表を見てもわかるとおり、1920年~1938年の19シーズンで7度に対し、1939年以降の86シーズンにおいて、わずか2度しか達成されていない。
1920年 ベーブ・ルース(ニューヨーク・ヤンキース)54本塁打・158得点1921年 ベーブ・ルース(ニューヨーク・ヤンキース)59本塁打・177得点
1927年 ベーブ・ルース(ニューヨーク・ヤンキース)60本塁打・158得点
1928年 ベーブ・ルース(ニューヨーク・ヤンキース)54本塁打・163得点
1930年 ハック・ウィルソン(シカゴ・カブス)56本塁打・146得点
1932年 ジミー・フォックス(フィラデルフィア・アスレチックス)58本塁打・151得点
1938年 ハンク・グリーンバーグ(デトロイト・タイガース)58本塁打・143得点
2001年 サミー・ソーサ(シカゴ・カブス)64本塁打・146得点
2007年 アレックス・ロドリゲス(ニューヨーク・ヤンキース)54本塁打・143得点
また、シーズン60本塁打以上を記録した延べ9人中、1927年のルースと2001年のサミー・ソーサを除く7人は、いずれも135得点に達していない。たとえば、2001年に73本塁打のバリー・ボンズ(サンフランシスコ・ジャイアンツ)は129得点、1998年に70本塁打のマーク・マグワイア(セントルイス・カージナルス)は130得点、2022年に62本塁打のアーロン・ジャッジ(ニューヨーク・ヤンキース)は133得点だった。
【この大記録はMVPトリオの産物】
得点については、大谷の出塁の多さもある。166安打+107四球+3死球=276出塁は、今シーズン(9月21日時点)のナ・リーグで最も多い。ア・リーグではジャッジが292出塁を記録しているが、ジャッジのホームラン数は大谷と4本差で、得点も大谷より4点少ない。
出塁以外でも、そこから得点を記録することはあり得る。たとえば、内野ゴロの封殺やエラーなどによって塁に生きた場合がそうだ。左打者の大谷は右打者のジャッジよりも一塁までの距離が短く、走るスピードも大谷が勝る。実際、併殺打は大谷の8本に対し、ジャッジは15本だ。約2倍の差がある。加えて、走者となってからも、大谷のスピードは得点の可能性を高めるのだろう。
そして、ほとんどの試合に大谷は1番打者として出場している。そのうしろの2番はムーキー・ベッツ、3番はフレディ・フリーマンが多い。フリーマンのスタッツは昨シーズンとほぼ同水準ながら、走者がいる打席のOPSは高く、昨シーズンの.828に対して今シーズンは.981を記録している。得点圏に走者がいる打席も.908と.987なので、明らかな違いがある。
自身がホームランを打って記録した53得点を除くと、大谷のホームインはフリーマンのバットによる30得点が最も多い。それに次ぐのはベッツとテオスカー・ヘルナンデスの15得点。あとはいずれもひと桁だ。
大谷が塁に出てフリーマンが生還させるというパターンは、彼らふたりの間にベッツがいる点も見逃せない。今シーズンのスタッツは芳しくなく、OPSは.744だ。過去11シーズンを見ると、ベッツのOPSは.800を下回ったことがない。それでも、今シーズンのプロダクティブアウト率はドジャースに移籍した2020年以降では最も高い。プロダクティブアウトは、進塁打など生産的なアウトを指す。
ざっくりまとめると、こう言えるのではないだろうか。大谷の塁に出る能力とスピードに、うしろを打つチームメイトのバットが合わさり、141得点も積み重ねることができた。もっと端的に表現すれば「MVPトリオの産物」と言えるかもしれない。ただ、同じ3人でも打順の並びが違えば、ひとり目の得点はここまで増えない気がする。
なお、1900年以降のシーズン最多得点は、1921年にルースが記録した177得点だ。1950年以降のシーズンに150得点以上は、2000年に152得点のジェフ・バグウェル(ヒューストン・アストロズ)しかいない。今世紀に入ってからの最多は、2023年に149得点のロナルド・アクーニャJr.(アトランタ・ブレーブス)で、そのシーズンのバグウェルとアクーニャJr.のホームランは、それぞれ47本と41本だった。
【打点が低い理由は1番だから】
一方、大谷の打点は、まだ三桁に達していない。現在99打点。こちらは1シーズン50本以上のホームランを打った選手の最少打点を更新する可能性がある。これまで最も少なかったのは、1996年に50本塁打を打ったブレイディ・アンダーソン(ボルチモア・オリオールズ)が記録した110打点だ。
今シーズン、57本塁打のカル・ローリー(シアトル・マリナーズ)は119打点、53本塁打のカイル・シュワーバー(フィラデルフィア・フィリーズ)は129打点を挙げている。
大谷の場合、ホームランが多いのに打点を積み上げることができていない最大の要因は、打点を挙げる機会が少ないことだ。走者がいる打席はローリーが.293、シュワーバーが.330、大谷は.250。得点圏に走者がいる打席も.170と.196と.132だ。
塁上にいる走者の数も、かなりの差がある。ローリーとシュワーバーがともに400人を超えているのに対し、大谷は322人だ。
大谷は1番打者として142試合に出場しているので、それらの試合の1打席目は走者がいない。そのうえ、大谷の前に打席に立つドジャースの7番~9番の出塁率は、他チームと比べて極端に低いわけではないが、高くもない。いずれも.300前後だ。1996年のアンダーソンも打順は1番がメインだった。
打順が1番でなければ、得点圏打率が同じままでも、大谷の打点はもっと多かったのではないだろうか。その反面、得点は今よりも少なかった可能性がある。
「大谷を何番とすべきか?」という議論について、正解を出すのは難しい。
間違いなく言えるのは、ドジャースの打線における大谷の存在の大きさだ。ホームランと得点だけでなく、打点もドジャースでは誰よりも多い。いずれにしても、今回18年ぶりに達成した「50本塁打・140得点」も、大谷の数多ある金字塔のひとつに加えられた。