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【GⅢで初V達成】

 石原颯(香川・117期)は自他ともに認める"飽きっぽい性格"だ。

 高校時代、陸上競技で八種競技を専門としたのも、「自分はひとつのことに集中できるタイプではなく、いろいろな種目をやっているほうが楽しいから」。だが競輪選手を志してから現在まで、自転車だけに向き合い続ける毎日を送っている。

「そもそも仕事ですから、飽きるなどとは言っていられません(笑)。競輪は面白さも奥深さもあって、自信を持てないことだらけですが、もっと強くなりたいとだけ考えて頑張っています」

 そう言って屈託なく笑う。笑みを絶やすことなく、受け答えをする表情は穏やかそのもの。レースで見せる強気で果敢、闘争心にあふれる姿とはまったく異なる素顔を持つ。

 その石原の存在感が今年、これまで以上に増している。1月末から行なわれた「玉藻杯争覇戦in小松島」でGⅢ初優勝を飾った。4日間の開催ですべて1着の完全優勝だった。

 個人戦でありながら、同地域などで連係してラインを組んでレースを行なう競輪において、石原は自力と言われるスタイルを持ち、ラインの先頭を走ることが多い。このポジションは風を真正面から受けるために消耗が激しいが、小松島での開催ではラインの2番手の位置をまかされた。

 前に風除けの選手がおり、終盤まで脚を温存できる絶好の位置でのレース。本人は「人の後ろを走ることに慣れていませんし、自分は先行のほうが走りやすいんです。とても緊張しました」と振り返るも、見事に勝ちきってみせた。

「これは自分のルーティンなのですが、選手紹介で一度、バンクに出てから、自分のレースが始まるまでの間の5分くらい、瞑想をするんです。目を閉じて、手を組んで。そうすることで気分を落ち着かせてレースに挑むことができます」

 これまでも高いレベルでの安定感を誇っていたが、今年はグレードレースでもその力を発揮し始めた。GⅠでその名を轟かせる日も遠くはないだろう。

競輪・石原颯が2年連続S級最多勝獲得、GⅢ初優勝で、GⅠ上位進出の兆し 上昇のきっかけとなった寺崎浩平からの助言も明かす
終始穏やかな表情で語る姿が印象的  photo by Torao Kishiku

【救いを求め同期に連絡】

 石原はもともと自転車に親しんでいたわけではない。先に記した通り、中学・高校と陸上競技部に所属し、初めて競輪に触れたのは高校2年生のときだ。

「自転車は通学で乗るくらいで、まったく経験がなかったです。勉強があまり好きではなかったので、好きなスポーツを仕事にできればと思っていました。初めて見た競輪は村上義弘さん(京都・73期、2022年引退)が優勝した2016年のグランプリです。もともと自分も脚が太かったですし、やってみたいなと思いました。親はすぐに飽きると思っていたようで、『やめたほうがいいんじゃない』と言っていましたが、最終的には応援してくれました」

 すぐさま高松競輪場の選手会に問い合わせ、高校3年時に日本競輪学校(2019年より日本競輪選手養成所に名称変更)の自転車競技未経験者のための「適性試験」を受験。1回目は失敗に終わるが、そこから本格的に練習を開始し、翌年は「技能試験」に合格。その第一歩を踏み出した。

「養成所では同期にすごい選手が多かったですが、タイムもそれなりに出ていましたし、競走で勝つこともあったので楽しかったですね。今に至るまで、"競輪でやっていける"という手応えはつかんでいませんが、一方で常に"なんとかなるだろう"という気持ちで取り組めています」

 事実、2020年5月のプロデビューから石原は順調だった。2年目にはS級2班に特別昇級し、「ヤンググランプリ2021」にも出場を果たす。だが2022年に入ってからは状況が一転。落車が続き、勝てない日々を送った。

「落車してケガをしたら練習もできなくなります。そんな状態で治ってレースに出たらまた落車ということが続きました。今思えば、負の連鎖に陥っていましたし、正直、気持ちが落ちましたね。そして、このままではいよいよマズイなと思った時に、同期の寺崎さん(浩平、福井・117期)に連絡したんです」

 寺崎は、年齢では石原の6学年先輩で、養成所入所前から自転車競技で数々の国内タイトルを獲っていた実力者。この時すでに近畿勢のラインで自力の強さを発揮していた。

 その同期からかけられた言葉は「ワットバイク(室内トレーニングバイク)で30秒、全力で漕げ」というもの。石原はこれを忠実に守り、1日に4本、30分ほどのインターバルを開けての全力ペダリングを毎日実行した。

素直な気持ちで無心に取り組んだことで、迷いも消え、復活のきっかけをつかむ。翌年から少しずつ上昇気流に乗り始めた。

「寺崎さんからはジムでのトレーニングメニューもいただき、それにも取り組みましたが、やはりワットバイクが効いたと思います。落車は技術的な要因も大きかったですが、とにかく練習量を落とさず、脚力を上げていくことが好結果につながっていきました」

 石原の潜在能力が高かったことは間違いないだろう。そこに豊富な練習量が加わることで、2024年、2025年とS級で年間最多勝を獲得するまでになった。本人は「裏開催(GⅠなどビッグレースが開催されている同日程での通常開催)が多かったので」と謙遜するが、勝つことで練習への意欲も目標もどんどん上がっていく。ここからは好循環を作り出すことに成功し、現在に至っている。

競輪・石原颯が2年連続S級最多勝獲得、GⅢ初優勝で、GⅠ上位進出の兆し 上昇のきっかけとなった寺崎浩平からの助言も明かす
ワットバイクでの練習で力をつけてきた石原 photo by Torao Kishiku

【颯のように突き進む】

 一度スピードを緩めたり、他の選手に並ばれたりした状態から、再びペダルを強く踏み込んで加速し直す"踏み直し"に自信を持つ石原。持ち味であるハイレベルな安定感から、さらに一段上の突き抜けた強さを目指すために、今後はトップスピードも、レース内での対応力も磨いていきたい。

「特にこれからの季節、暑くなってくると、どの選手も体が動くのでトップスピードが上がってきます。そこに対応できるフレームも作ってもらったので、それを使いこなしたいと今は考えています。フィジカル的にも体幹を強くしたいし、腹筋で踏んでいくような体の使い方ももっとしていきます」

 競輪の面白さはやはりラインにあると話す。

自力選手として先行するなか、ラインを組むすべての選手に勝てるチャンスを作るのが務めだ。最終周回のバックストレッチライン(ゴール線の反対側の直線上に引かれた線)を先頭で通過することを競輪界では「バックを取る」というが、そこにこだわりを持つ。

「バックを取れれば最後に大きく失速しない限り、ラインで上位を取ることができますから」

 それこそが、ファンの期待に応えることだと考えている。

 今年はGⅠの決勝も明確に見据える。そしてまだ成長過程の26歳が目指すのは、太く長くの競輪人生だ。グランプリに出場した9人しか到達できないS級S班を目指し、またS級上位で長く活躍することを目標としている。それは飽きっぽい性格の石原が、競輪を天職として見出したからにほかならない。

 颯という名の通り、風のように颯爽と。そして自力選手として風をも切り裂き、ゴールライン目指して突き進む。これからの競輪界に旋風を巻き起こすべく、ひたすら脚を磨き続ける。

【Profile】
石原颯(いしはら・はやて)
1999年12月4日生まれ、香川県出身。中学・高校と陸上競技に励み、高校卒業後に日本競輪選手養成所に入所。

2020年5月にデビューし、翌2021年にはS級に昇級するとともに、GⅠオールスター競輪にも出場を果たす。その後もコンスタントにビッグレースに出場し、2026年2月には通算200勝を達成した。

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