セ・リーグ首位の阪神を支えるふたりの大砲、佐藤輝明と森下翔太。今季はともにホームランを量産し、熾烈な本塁打王争いを繰り広げている。

だが、同じ「長打力」を武器としながら、その打撃スタイルやホームランを生み出すメカニズムは大きく異なる。佐藤はなぜ、これほど安定して一発を放てるようになったのか。森下のスイングには、どんな進化があったのか。そして、本塁打王争いの行方は──。ヤクルトなどで打撃コーチを務め、多くの強打者を育ててきた伊勢孝夫氏に、ふたりの打撃を徹底解説してもらった。
※成績はすべて9月2日現在のもの

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【サトテルの進化を支える自己診断力】

── ここまで佐藤選手は32本塁打、森下選は31本塁打。セ・リーグの本塁打王争いは、ふたりの一騎打ちになりそうですね。

伊勢 そうやね。ただ、ちょっと気になるのは、8月29日の巨人戦で森下が左手首付近に死球を受けたことやね。診断は左前腕部の打撲ということやけど、実際にどの程度のものなのか。症状によっては、ホームランのペースにも影響してくるやろうからね。

── 残り試合数を考えると、最終的に何本くらいで本塁打王が決まると予想しますか。

伊勢 もう残り30試合を切った段階やから、42、43本あたりで決まるんとちゃうかな。

ホームラン王というからには、最低でも40本は超えてほしいけどね。いずれにしても、ケガなんかのアクシデントがなければ、最後まで競ると思うよ。

── 今季、佐藤、森下両選手が好調を維持できている理由はどこにあるのでしょうか。昨季までと比べて、何が変わったと感じますか?

伊勢 まず佐藤やけど、今の打ち方はメジャーでもよう見る「ノーステップ打法」やね。以前は足を大きく上げていたけど、昨年あたりから、すり足のような形になった。構えも左肩の上にバットを担ぐような形になっている。そのぶん、バットがスッと出てくるようになったよね。腰がしっかり回れば、ボールをとらえる位置までバットが自然に出てくる。非常に理にかなったスイングになってきたと思うよ。

 それと大きいのは、「自己診断」ができるようになったこととちゃうかな。今の自分のスイングはええのか、悪いのか。悪いとしたら、どこがズレているのか。

そこを自分で判断して、修正できるようになってきたんやと思う。

 聞くところによると、今季の佐藤は屋外よりも、室内練習場でマシン打撃をする時間が増えているらしいね。室内はネットに囲まれているから、打ったボールがどこまで飛んだとか、そういうことを気にせんでええ。そのぶん、「ボールから目を離すのが早くなってへんか」「顔が上がってへんか」と、自分の動きを冷静に確認できる。ボールをしっかり見て打つ感覚を修正するには、室内のほうが向いているんやと思うよ。

── 屋外の打撃練習では、そうした確認は難しいのでしょうか?

伊勢 いや、できんことはないよ。ただ、ネットに囲まれてへんと、どうしても自分が打ったボールの行方を追ってしまうやろ。それに、スタンドへ放り込んだら観客も沸く。打撃投手が投げる打ちやすいボールを気持ちよく飛ばして、調子を整えるにはええと思う。ただ、自分のスイングのどこがええのか、どこが悪いのか。そこを細かく確認するんやったら、室内のほうが落ち着いて取り組めるんとちゃうかな。

── そういえば、ドジャースの大谷翔平選手も、試合前の打撃練習を屋内で行なうことが多いと聞きます。

伊勢 そこから真似しとるんかな(笑)。ただ、いずれにしても、自分の状態を自分で判断して、修正できるようになったことが、佐藤が進歩した大きな要因やと思うよ。実際、今季の佐藤は4、5打席目でもよう結果を残しとるんよ。4、5打席目というのは試合の終盤やから、相手の先発ピッチャーが疲れてきたり、リリーフに代わったりするタイミングやね。同じ先発投手と何度も対戦していれば、3打席目くらいまでに「このピッチャーは、こういう場面ではこういう球を投げてくる」という傾向が見えてくる。

 それを頭のなかで整理して、次の打席に生かせるようになったんやと思う。リリーフ投手が相手なら、先発ほど何打席もかけて配球を読む必要はない。そのぶん狙う球を絞って、シンプルに打席へ入れる。ホームランを打ちながら、高い打率も維持できているというのは、こういう試合終盤の打席でも結果を残せるようになったことが大きい。今季の好調を支えている要素のひとつやと思うよ。

【森下翔太がホームランを量産できるメカニズム】

── 一方、森下選手についてはどう見ていますか。

伊勢 森下はフォロースルーが力強くなったね。打ったあとにバットを大きく振り抜けるようになったことで、ボールをグッと押し込めるようになった。

それがホームランが増えた理由のひとつやと思う。低めの球に対しても、下からうまくすくい上げるように打っている。あれだけ打球が飛ぶということは、かなり筋力トレーニングもやってきたんやろうね。スイングそのものに、以前より明らかに力強さを感じるよ。

── 森下選手は、打者としてのタイプや技術面で、佐藤選手とどのような違いがありますか?

伊勢 森下はここまで31本打っているけど、いわゆる「生粋のホームランバッター」ではない。どちらかというと、ホームランだけを狙うんやなくて、高い打率を残しながら長打も打てる。「打率3割、30本塁打」を目指すタイプのバッターやと思うね。

── 30本以上打っていても、「生粋のホームランバッターではない」と。その理由はどこにありますか?

伊勢 さっきも言ったように、一時期に比べるとスイングが少しアッパー気味になって、低い球を下からうまくすくい上げて、打球に角度をつけられるようになった。8月23日のDeNA戦で、低めの球をレフトスタンドへ放り込んだ一発なんかは、まさにその典型やったね。

 ただ、森下の場合はボールにうまくスピンをかけて遠くへ飛ばすというより、力強いスイングでボールを運んでいくタイプやと思う。きれいな放物線を描いて飛んでいくというより、ライナー性の強い打球が多いやろ。

そこが、いわゆる典型的なホームランバッターとは少し違うところやね。

── 狙う球の決め方など、打席での考え方にも佐藤選手との違いがありますか?

伊勢 あると思うよ。森下は「ヤマ」を張るバッターやからね。「次はこの球が来る」と、ある程度決めて、そこへ思いきって振りにいく。だから、追い込まれているのに真っすぐがズドンと来て、簡単に見逃し三振することもあるやろ。あれは真っすぐを待っていたんやなくて、変化球に狙いを絞っていたということやね。

 もちろん佐藤も、「このへんに来るんちゃうか」という予測はしとると思うよ。ただ、森下ほど「この球や」と決め打ちする感じではない。そこはふたりの打席での考え方の違いやと思うね。

【本塁打王のタイトルを獲得するのは?】

── では、最終的に本塁打王を獲得するのはどちらだと思いますか。

伊勢 どうやろうね。最初にも言ったように、最後まで競る形になると思うけど、僕は最終的には佐藤とちゃうかなと思うね。

── その理由は?

伊勢 やっぱり、対応力が格段に上がってきたことと、外の球でもしっかりセンター方向へ打ち返せること。あと、セ・リーグにはDeNAの東克樹、中日の金丸夢斗、巨人の井上温大と、ええ左ピッチャーが何人もいるけど、球の力で圧倒してくるタイプは少ない。実際、佐藤はここまで左投手に対しても3割を打っているわけやから、相手が右か左かに関係なく結果を残せている。そこは大きいと思うよ。

── 最後に、もし将来的にメジャーリーグへ挑戦するとしたら、どちらがより活躍できる可能性が高いと考えますか?

伊勢 今のままやったら、森下はちょっと苦労するかもしれんね。今のスイングの形で、メジャーの速くて力のあるボール、それに打者の手元で動くボールへ対応するとなると、少し難しいんとちゃうかな。もちろん、これは「今のスイングを続けている限り」という条件つきやけどね。これからまだ変わっていく可能性は十分あるから。

 佐藤にしても、課題はあるよ。140キロ台のボールなら十分に対応できる。ただ、メジャーへ行けば150キロを超える速球が当たり前のように来る。しかも、球速だけやなく、打者の手元で動くボールも多い。その球にどう対応するかやね。追い込まれるまでにどんな球を見せられて、最後に外角の厳しいところで勝負されるのか。そういうメジャー特有の攻め方にどう対応していくかも大事になる。ただ、打者として持っている能力そのものを考えたら、佐藤のほうがメジャーで活躍できる可能性は高いんとちゃうかな。


伊勢孝夫(いせ・たかお)/1944年12月18日、兵庫県出身。63年に近鉄に投手として入団し、その後、野手に転向。現役時代は勝負強い打撃で「伊勢大明神」と呼ばれ、近鉄、ヤクルトで活躍した。現役引退後はヤクルトで野村克也監督の下、打撃コーチを務め、92、93、95年のリーグ優勝に貢献。その後も近鉄や巨人などでコーチを歴任し、長年にわたってプロ野球界で指導者として活躍した。現在はプロ野球解説者を務める傍ら、大阪観光大学硬式野球部の特別アドバイザーとして後進の指導にもあたっている。

木村公一●文 text by Koichi Kimura

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