「ラン! ラン!」

 試合後のミックスゾーンで、オマーンの選手が立ち去りかけた髙橋藍を必死に呼び止めた。ツーショットの記念撮影をするためだった。

お目当ての写真が撮れると、満足げだった。日本バレーボールの選手はアジアでアイドル的な人気で、オマーンの選手たちにとっても憧れに近いのだろう。

 試合前のサーブレシーブ練習でも、オマーンの選手たちは日本の選手の動きを食い入るように見ていた。コートから声が聞こえるわけでもなかったが、「すげえなぁ」と興奮したような、陶然とした表情だった。山本智大が唸るようなサーブを簡単にAパスで返すと、オマーンのリベロはチームメイトと無邪気にはしゃいでいた。

〈世界有数の強豪である日本と戦える喜び〉

 そのおかげもあって、世界ランキング64位のオマーンの選手たちは、同6位の日本を相手に実力以上のプレーを出せたのかもしれない。なんと、彼らは1セットを奪い取ったのだ。直後、ベンチは歴史的な勝利を飾ったような騒ぎだった。

 日本はセットカウント3-1(25-18、25-13、20-25、25-9)での勝利だったが、今後の視界は良好と言えるか?

【男子バレー】髙橋藍、石川祐希が語る「試合のリズムのつくり方...の画像はこちら >>
 9月4日、福岡県北九州市。バレーボール男子アジア選手権の予選ラウンドで、日本は中東オマーンとの開幕戦を迎えた。優勝=ロス五輪出場権獲得だけに、観客の熱気が会場に満ちていた。

「初戦は入り方が大事。

(自分たちが)やったことがないオマーンが相手で......」

 キャプテンの石川祐希がそう語ったのは、それだけ難しさがあったからだろう。どんな競技もそうだが、相手のランキングがかけ離れていると、戦いのリズムが崩れることがある。そこに、ロス五輪という大事な目標に向けた初戦という緊張感も滲んだ。

 事実、第1セットから序盤はリードされる展開になった。オマーンは、強度はなくてもラインぎりぎりを狙ったり、ひょいと手が出てタッチをとったり、日本はその独特のテンポに戸惑っていた。

 そんな流れを断ち切ったのが、石川と並び立つエース、髙橋だった。上から叩きつけるような豪快なスパイクで得点すると、自らのサーブで連続エース。これで11-10と一気に逆転した。14-13としてからも髙橋がダイレクトで打ち込み、次はフェイントを決めた。突き放してタイムアウトが取られるが、流れは変わらなかった。

【「相手への対応が足りないところが...」】

「自分のサーブでリズムをつくろうとは思っていました」

 髙橋は試合をそう振り返るが、そのサーブは今や世界でも屈指だろう。コースを狙った鋭い球筋を見せたかと思えば、相手のレシーバーのポジションがうしろ目だと見抜くと、ショートサーブで裏をかいた。

 第2セットも、髙橋はエースを決めると、フェイクセットも繰り出し、格の違いを見せつけた。トスを受けた西田有志が「(髙橋が)上げてくれると思っていましたし、しっかりアプローチもできていたので、うまく決められました。練習でコンビはよくなっていると思います」と語ったように、これだけトリッキーなコンビネーションも、プレーの再現性は確実に高くなっている。

 しかし1、2セットを取ったあと、小さな波乱が起きた。

 第3セットは、今度は石川がサービスエースも含めて最多5得点で奮闘した。日本バレーを双肩に担ってきた男は、試合を通してブロックが集中するなかでも、1度、2度とトスを呼び込んで勝負し、最後は得点する姿が頼もしかった。ケガからの復調が確認できただけでも収穫だったと言えるのではないか。ここからコンディションは上がってくるはずで、本調子になれば無双だ。

 ただ、3セット目の後半に入って、チーム全体の歯車が噛み合わなくなった。

「1、2セットは対応できていたんですけど、3セット目は相手のオポジットのところがうまく対応できず......」

 石川はそう言って、反省を口にしている。

「自分や髙橋選手のように、得点を取るべき選手がもっと起点となっていかないといけないですね。ブレイクチャンスのところで、試合のリズムをつくれるか。

そこは相手への対応が足りていないところがあって......」

 最後は突き放され、このセットを20-25で奪われてしまった。サーブが走らず、ブレイクが取れなかったし、ミドルブロッカーのオサマ・ママリに3本のブロックを食らうなど、サイドアウトにも失敗した。

 しかし、日本はこれで崩れるほど脆いチームではない。第4セットは力の差を示した。

 序盤から一気に11-3と大量リード。髙橋はサーブで崩し、風を感じさせるようなバックアタックを成功させ、連続ブレイクに貢献した。序盤で相手の心を折った。交代で出たミドルの西本圭吾が攻撃を活性化させ、エバデダン ラリーも2本のブロックを決めるなど、選手層の厚さも感じさせた。

「自分の出来としては悪くはなかったと思います」と髙橋は語って、こう続けた。

「勝つことができたのはよかったです。勝つことが、とにかく一番なので。ただ、自分たちのプレーを信じて、もっとアグレッシブに攻めてもよかったかなとも思います」

 若きエースの覇気は頼もしい。

彼のサーブは、大会の行方を左右することになりそうだ。

 一方、石川は主将という立場で、「(セット率が予選順位につながることを考えればストレートで勝ちたかったが)勝負はいい時も悪い時もあると思うんですが、そのなかでもとにかく勝っていくのが、アジア選手権では求められると思っていて、ゲーム内容にこだわるのも大事ですが、こだわりすぎることが結果につながるとは限らない。どんな順位でも、とにかく勝って......」と、責任の重さを感じさせた。

 ともあれ、初戦で石川、髙橋という両エースがともに最多19得点を決め、勝利を引き寄せたことは吉兆と言えるだろう。次は6日、世界44位のバーレーン戦。またも変則的な相手で展開が読めないが、それもロス五輪に向けた試練だ。

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya

編集部おすすめ