【MLB】高い三振率に低いコンタクト率 それでも村上宗隆が3...の画像はこちら >>

【弱点が鮮明になった裏側で......】

 いくら三振しても、ストライクゾーンに来たボールにバットが当たらなくても、チームの勝利に貢献することは可能――。メジャー1年目で打率.207ながら35本塁打を放った村上宗隆は、従来の打撃の常識を揺さぶる存在になった。

 今季の三振率は35.4%。

さらに異例なのが、ストライクゾーン内の球をスイングした際のコンタクト率(Z-Con%)だ。66.6%は、メジャー平均の82.7%を実に16.1ポイントも下回る(MLBのデータサイト『ベースボール・サバント』)。三振の多い強打者ニック・カーツ(アスレチックス)でも73.0%だった。村上は、ストライクを振ってもほぼ3回に1回はバットに当たらなかったのである。

 大量の三振と長打を両立させた打者は過去にもいた。マーク・レイノルズは2009年(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)、当時のメジャー記録となる223三振を喫しながら44本塁打。近年ではジョイ・ギャロが、低いコンタクト率を四球と長打で補った。それでも、これほど極端にゾーン内の球にバットが当たらない打者が、高い攻撃力を維持するのは異例だった。

 そして、それこそが昨オフ、メジャー球団が村上を評価する際の最大の懸念だった。NPBでも村上は2024年に29.5%、2025年に28.6%の三振率を記録していた。日本より平均球速が速く、鋭い変化球を投げる投手も多いメジャーに来れば、さらにバットに当たらなくなるのではないか。どれだけパワーがあっても、当たらなければ生かせない。

そんな評価は契約にも表れた。米メディアのなかには8年総額1億8000万ドル(約279億円)の大型契約を予想するところもあったが、実際にシカゴ・ホワイトソックスと結んだのは2年総額3400万ドル(約52億7000万円)だった。

 そして、メジャー球団の懸念は、ある意味では正しかった。村上のボール球へのスイング率は22%台と優秀な部類で、何でも振って空振りしていたわけではない。振る球は選んでいた。それでもストライクにバットが当たらない。昨オフから指摘された弱点は、メジャーに来て消えるどころか、より鮮明になった。ところが、予想と違ったことがひとつあった。

 米野球専門サイト『ベースボール・プロスペクタス』は今季の村上を、従来のゾーン内コンタクト率の常識から大きく外れた「例外的な存在」として取り上げた。これほどコンタクト率が低いにもかかわらず、高い攻撃力を維持したからだ。では、なぜそんなことが可能だったのか。村上の打撃を単純に「三振か、本塁打か」と捉えるだけでは、その答えは見えてこない。

 重要なのは、限られたコンタクトからどれだけ大きな価値を生み出したか、だ。

【ホワイトソックスGMが村上に求めたもの】

『ベースボール・サバント』によれば、村上は平均打球速度、ハードヒット率、バレル率でいずれもメジャー最高水準に入った。ほかの打者より多くボールを前に飛ばしたのではない。少ないコンタクトを、長打につながる打球へ変えたのである。さらに四球率は16.6%(メジャー平均は8.4%)。投手がストライクゾーンを外せば、それを見極めて一塁へ行った。村上はコンタクトの「量」ではなく、一度のコンタクトと一度の出塁が生み出す「価値」を極端に高めることで、弱点を抱えたまま打者として成立したのである。

 ホワイトソックスのクリス・ゲッツGMが、村上が長い不振に陥っても上位打線で起用し続けた理由をこう説明している。

「彼は本当に試合を変えることができる。必要なのはたったひと振りだ」。さらに、「彼が安定してやっていることのひとつは出塁すること。四球も選ぶし、打席では常に脅威になっている」と続けた。

 興味深いのは、今季のホワイトソックスにはもうひとり、大量の三振と長打を共存させた打者がいたことだ。

24歳のコルソン・モンゴメリー遊撃手である。今季はメジャー新記録となる227三振。打率は.197だった(村上は.207)。それでも31本塁打を放った。三振率は35.6%で、村上とほぼ同じだった。35%台の三振率を記録したふたりが、ともに30本塁打を超えた。

 三振を恐れるより、その代償として何を生み出すか。今季のホワイトソックスは、そんな現代野球の考え方を象徴するような打線で10月までたどり着いた。

 三振の意味そのものが、この30年で大きく変わった。筆者がメジャー取材を始めた1997年当時、三振の多さは打者にとって恥ずべきものという空気がまだ色濃く残っていた。バットに当てれば守備のミスが起こるかもしれない。走者を進めることもできる。

それなのに何も起こさずベンチへ戻る三振は、打者の技術不足を示すものと考えられていた。

 しかし、その価値観は変わった。データ分析が進むにつれ、三振だけを特別に重い失敗とみなす考え方は薄れていった。難しい球まで当てにいくことより、ボール球を見極め、打つべき球には強いスイングをする。その結果として三振が増えても、それを上回る長打と出塁を生み出せるなら、打者として十分な価値がある。三振は単純に排除すべき失敗ではなく、長打力や選球眼を最大限に生かす打撃のなかで、ある程度は受け入れられる代償になったのである。

 もちろん、村上のやり方が常にうまくいったわけではない。むしろシーズン終盤には、この打撃スタイルが抱える危うさもはっきりと表れた。

 7月終了時点ではOPS.935、24本塁打。しかし、8月1日から9月16日までの不振によって、打率はそこから42ポイント、出塁率も38ポイント低下し、OPSは.804まで落ちた。この期間だけで77三振を喫した。米メディアからも、昨オフに多くの球団が獲得に慎重になった一因である「スイングの穴」が、次第に表面化してきたと指摘された。

それでも、この期間に7本塁打を放った。

【初のポストシーズンも自然体で】

 バットに当たれば、試合を変えられる。その打撃が、シーズン最後の11日間に再び威力を発揮した。9月17日、前日の試合でスタメンを外れていた村上は、デトロイト・タイガース戦の第1打席で初球のシンカーを捉えた。打球は中堅へ423フィート(約129メートル)。32号3ランとなった。ホワイトソックスは、その3点だけで3―1と勝った。ゲッツGMの「必要なのはたったひと振り」を、そのまま形にしたような本塁打だった。

 25日には、コロラド・ロッキーズの菅野智之から2本塁打を放ち、34、35号とした。長い不振のなかで、村上は自分の身体を見直していたという。

「ちょっと上半身ばかりに意識がいっていたなと。それはなんでかなみたいなところから、下半身をもう1回鍛え直さなきゃ、みたいな感じですかね」

 下半身やインナーマッスルをあらためて意識することで、打席で考えることも少なくなった。

「土台がしっかりすることで、その打席のなかで、シンプルな考え方で打席に立てるっていうのが、すごくいいところかなと思います」

 自分の強みは何かと聞かれると、「できると信じるというか、何事も経験だというふうに思っていますし。今回、長く打てない期間からこうやって打てたことも経験です」と答えた。

 ゲッツGMも、村上が不振から抜け出すことを信じていた。

「ムネは一生懸命取り組む選手だし、すごく頭もいい。そして何よりも強い意志を持っている。だから、いずれどこかで不調から抜け出すだろうとは思っていた」

 そしてワイルドカードシリーズ前日の会見では、こう言いきった。

「彼が、我々がここまで来られた理由のひとつであることは間違いない」
 
 ホワイトソックスは2024年に41勝121敗、2025年も60勝102敗だった。筆者が今季4月、5月にシカゴでチームを取材した時点でも、すでに長く低迷してきたチームが変わり始めていることを感じた。その中心にいたのが、新加入の村上だった。ゲッツGMも、村上の加入が「チームに勢いを与えてくれた」と振り返る。

 村上自身は、過去を振り返ろうとはしない。

「前年までのことは知らないし、ここからが始まりだと思う」。初めて迎えるメジャーのポストシーズンについても、「いろいろな経験をしてきた。それは生きると思う。取り組んできたことをやるだけ」と話した。

 ヤクルト時代のポストシーズン、そしてWBC。大舞台を経験してきた村上に、ウィル・ベナブル監督も「いつもどおりのムネでいてほしい」と期待する。

 ワイルドカードシリーズの相手はヒューストン・アストロズだ。右腕中心の先発陣を攻略するためにも、ホワイトソックスには村上の長打が必要になる。スカウトが懸念した「スイングの穴」は、実際に存在した。それでも35本塁打を放ち、チームが10月へ進む大きな力になった。その極端な打撃は、短期決戦でも成立するのか。「ここからが始まり」という村上自身の言葉どおり、その答えを出す戦いがヒューストンで始まる。

奥田秀樹●取材・文 text by Hideki Okuda

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