この記事をまとめると
■レーシングやスポーツ以外の意味を持つ「R」や「S」を与えられたクルマをいくつか紹介■ホンダは「Road Sailing」、ワゴンRは「REVOLUTIONとRELAXATION」を意味する
■車名につくアルファベットがどんな略称なのか考えるのも楽しいかもしれない
「R」=レーシングではない!
クルマの名前やグレード名に「R」と入っているのはスポーツカーの証……と結論づけるのは早計だ。
たしかにホンダの「タイプR」はサーキットでの速さを極めたレーシーな量産車という意味合いをもつグレード名といえるが、当のホンダであっても「R」というアルファベットにレーシング以外の意味を込めていることがある。
ホンダのコンパクトカーである「フィット」に設定されているスポーティグレード「RS」は、「Road Sailing(ロードセーリング)」を語源とするもの。
ホンダによれば『あたかも道路を帆走するような、ゆとりある快適な走りを実現することをネーミングに込めました』ということで、けっして”レーシングスポーツ”の略称というわけではない。

同じく「RS」というアルファベットを持つモデルとしては、少し古いクルマになるが、トヨタのオープン2シーター「MR-S」が思い浮かぶ。こちらの名前については、「Midship Runabout-Sports」の略称であって、Rの部分はレーシングを意味しているわけではなかったりする。ちなみに、トヨタの見解によれば、「ミッドシップ式の小型車」という意味だ。

とはいえ、フィットRSにしろ、MR-Sにしろ、Rの意味をレーシングと解釈してもおかしくないだけの走りの楽しさやパフォーマンスを持っているため、公式見解を覆してでもレーシングの意味と思いたいというオーナーはいるかもしれない。
「R」や「S」の文字はクルマ好きのワクワクを引き出す
しかしながら、さすがにスズキの軽ハイトワゴンの「ワゴンR」については、レーシングという風に捉える人はかなり少ないだろう。

都市伝説的に、当時の社長であった鈴木 修氏が車名決定会議において「ワゴンもあーる」でいいじゃないかと発言したという話も広まっているが、スズキの発表によれば『REVOLUTION(革新・画期的)とRELAXATION(くつろぎ)の頭文字であり、「軽自動車の新しい流れを作る新カテゴリーのクルマ」で「生活にゆとりを与えるクルマ」というふたつの意味を込めました』ということだ。
たしかに、1993年にデビューした初代ワゴンRは軽自動車の価値観を変えてしまうほどの革新的なモデルであった。まさに名は体を表すの好例だ。

冒頭、ホンダの「タイプR」について触れたが、じつはマツダにも複数のモデルにまたがって「スピリットR」という限定車と特別仕様車に使われたネーミングがある。
2002年に発売されたRX-7(FD3S型)最後の限定車と、2011年から2012年にかけて発売されたRX-8最後の特別仕様車に「スピリットR」の名前は使われた。

いずれもマツダのアイデンティティといえるロータリーエンジンを積むスポーツモデルの“最後”を飾る名前だが、そこに込められた思いはレーシングではなく、「リターン」であり「ロータリー」であるという。

2023年に開催されたジャパンモビリティショーにおいて、マツダは2ローターエンジンを積んだプラグインハイブリッドのコンセプトカー「アイコニックSP」をお披露目した。いかにも走りそうなルックスゆえに「SP」が示しているのはスポーツの意味かと思ったが、マツダの人に聞けば「スポーツ、スピリット、スピード……いろいろな解釈をしてもらってかまいません」という。

その意味では、作り手の思いを尊重しつつ、ユーザーが愛車の名前に使われているアルファベットが何の略称なのかを独自に意味づけて楽しむというマインドも、多様性の時代にはふさわしいのかもしれない。