この記事をまとめると
■自動車の主流であったセダンとステーションワゴンは、現在はSUVとミニバンに取って代わられてしまった



■SUV・ミニバンともにネックであった走行性能を向上させたのが支持されている理由だ



■現在でもセダンとステーションワゴンの走行性能での優位性は覆ることはない



セダンとステーションワゴンが終わった理由

日本車は1960年代に入って車種を急速に充実させ、その売れ筋カテゴリーはセダンであった。それが1980年代の中盤に入ると、日本車も普及の開始から20年以上を経過して、セダンが飽きられ始めた。



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そこで、1982年に悪路向けSUVを乗用車感覚で仕上げた初代三菱パジェロが発売されると、大いに注目され、その後のSUVの流れを変えた。

パジェロ人気を切っかけに、1950年代から用意される老舗のトヨタ・ランドクルーザーも乗用車感覚を強めた。



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初代三菱パジェロ



その一方で、ステーションワゴンも、1989年にスバル初代レガシィツーリングワゴンが注目されて人気のカテゴリーになった。ステーションワゴン自体は、1950年に発売された日産ダットサンDW-2型を発端にラインアップを続けてきたが、大半の車種が同じボディを使った商用バンも用意しており、乗用車として認知されなかった。



それがレガシィツーリングワゴンは、同じボディを使うバンを用意せず、上級グレードを設定したこともあって人気を得た。



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初代スバル・レガシイツーリングワゴンのフロントスタイリング



この時期のステーションワゴンはブームを迎えており、1992年に発売された初代トヨタ・カルディナは、3年後の1995年3月に前年の1.6倍も登録された。ステーションワゴンなら何でも売れるような時代で、日産2代目セフィーロも、大急ぎでステーションワゴンを開発。

セダンの発売から3年を経過した1997年に追加した。



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日産セフィーロワゴン



しかし、パジェロのような悪路向けSUVもステーションワゴンも、人気は長続きしなかった。短期間で売れ行きを下げ、セダンの後継になることはできなかった。



SUVについては、悪路向けは走破力が高い代わりに街なかでの運転感覚と安定性、小まわりの利き、乗り心地、燃費などに不満が伴った。その結果、1994年に登場した初代トヨタRAV4など、前輪駆動ベースのシティ派SUVに需要を奪われた。



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初代トヨタRAV4



その後、SUVは人気のカテゴリーになったが、売れ行きはシティ派が圧倒的に多い。



セダンとステーションワゴンの出る幕はなくなった?

ステーションワゴンは、1990年代の中盤から急速に普及を開始した3列シートミニバンに需要を奪われた。とくに1996年に登場した初代ホンダ・ステップワゴンは、全高が1800mmを超えるミニバンでは最初の前輪駆動車だ。低床設計で車内が広く、乗り降りもしやすい。低重心で走行安定性も優れていた。



外観もシンプルで好感度が高く、売れ筋になる中級グレードのGが179万8000円と割安だったことから大ヒットした。発売の翌年となる1997年には、初代ステップワゴンは、1カ月平均で9200台が登録されている。

2023年の2.5倍も売れていた。



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初代ホンダ・ステップワゴン



このように、セダンとワゴンはシティ派SUVとミニバンに需要を奪われて売れ行きを下げた。



さらに2010年以降は、安全装備や運転支援機能の充実により、クルマの価格が高まり始めた。いまのクルマの価格を同じ車種同士で比べると、15年前と比べても1.2~1.4倍に達する。前述のホンダ・ステップワゴンも、現行型は全グレードの価格が300万円を超える。



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現行型である6代目ホンダ・ステップワゴン



その結果、小さな車種への乗り替えが進み、いまは軽自動車が国内販売総数の40%近くを占める。

コンパクトカーも20%以上で、シティ派を中心にしたSUVも同程度だ。さらにそこにミニバンも加わる。この影響で、セダン+ステーションワゴン+クーペは以前に比べて車種を減らした。3つのカテゴリーを合計しても、国内の販売比率は10%以下に留まる。



しかし、セダンやステーションワゴンが価値を失ったわけではない。全高が1550mm以下のボディは、立体駐車場を使いやすい。

低重心だから前後左右に振られにくく、走行安定性と乗り心地も優れている。そのために、走行速度の高い欧州では、いまでもセダンとステーションワゴンの需要が根強く、プレミアムブランドを中心に選択肢が多い。



とくにセダンは、後席とトランクスペースの間に骨格や隔壁が備わるから、ボディ剛性を高めやすい。後輪が路上を回転するときに発する音も、居住空間に侵入しにくい。そのためにトヨタ・センチュリーセダンとミニバンのレクサスLMを乗り比べると、乗り心地や静粛性に基づく快適性はセンチュリーセダンの圧勝だ。まったく勝負にならない。



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セダンタイプの現行型トヨタ・センチュリー



つまり、セダンが衰退すると本物の高級車も失われていく。偽りの高価格車が蔓延し、行き着く先には虚栄の世界が広がる。都市部は見栄えだけの軽薄なフロントマスクで溢れ返る……。