滑らかな回転フィールはDCTをも上まわる

変速ショックがなく、なおかつエンジンの効率がよい領域を使うことができるCVT(Continuously Variable Transmission)、日本語では「無段変速機」と呼びますが、この変速機は国産車の多くに使われています。伝達効率においては遊星歯車などを使うステップATや2系統のギヤセットを持つDCT(デュアルクラッチトランスミッション)に劣るという評価もありますが、滑らかさという利点があって多く採用されています。また、車種に応じて異なるギヤセットを用意することなく、ひとつのユニットで幅広いモデルをカバーできるのもCVTのメリットといえます。



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そんな国産車に採用されるCVTには、日産の「エクストロニック」やスバルの「リニアトロニック」といった名前が付いていることがありますが、一対のプーリーを金属ベルト、もしくはチェーンでつなぎ、各プーリーの開き具合を変えることで変速比を無段階に変えていくという基本的な仕組みは変わりません。独自のネーミングは、メーカーのブランディングであってCVTの種類を示すものではないといっていいでしょう。



最近ではトヨタの「ダイレクトシフトCVT」やダイハツの「D-CVT」のように、CVTが苦手とする領域をカバーすべくギヤセットを併用しているメカニズムも登場しています。なお、トヨタとダイハツのCVTは同じものに別の名前をつけているのではありません。ダイレクトシフトCVTは発進用のギヤを使うことでレシオカバレッジを広くするのがおもな狙い。D-CVTは高速域で使うギヤセットを持たせることで、伝達効率の苦手な領域をカバーするのが狙いとなっています。



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しかし、まったく異なる無段変速機構があります。それが「トロイダルCVT」というもので、四輪の量産車としては1999年に日産がセドリック/グロリアに搭載し、2002年にV35型スカイラインにも搭載した仕組みです。



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通常のCVTは前述のようにプーリーとベルト(チェーン)を使って無段変速を実現していますが、トロイダルCVTではふたつのディスク(入力側・出力側)とパワーローラーを組み合わせ、パワーローラーの角度を変えることで無段変速を実現しています。その基本的なアイディアが生まれたのは19世紀ですから、かなり歴史のある機構といえます。



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ベルト式CVTよりも大きなトルクに対応できるという可能性を持つトロイダルCVTですが、ディスクとローラー間でトルクを伝達するための薄い油膜(トラクションオイル)をキープすることや接触面の耐久性など、100年以上経ってもまだまだ課題が残っているのが実情で、そのために量産車の採用例が見られなくなっています。



ただしベアリングなどで知られる大手サプライヤーNSK(日本精工)はトロイダルCVTに熱心で、モーターショーなどで意欲的に試作品を展示していることはマニアの間では知られていることでしょう。

トロイダルCVTは、けっして諦められた技術ではありません。



変わり種CVTはバイクにも採用されている

プーリーを使わない無段変速機のアイデアで、実際に量産にこぎ着けたものはほかにもあります。それがホンダの大型二輪「DN-01」に採用された「油圧機械式無段変速機HFT(Human-Friendly Transmission)」です。



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その基本構造は、エンジンの動力を油圧に変換するオイルポンプと、その油圧を再度動力に変換して出力するオイルモーターというもので、なかなか理解するのは難しいのですが、ようはオイルを媒介に変速するシステムというわけです。さらに、HFTにはロックアップ(直結)機構もあり、これによって高速巡行時などの伝達効率を確保しているのも特徴といえます。



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ここまでが一般的に無段変速機といわれるものですが、「電気式CVT」と分類される仕組みも存在しています。これはトヨタ・プリウスやホンダ・フィット、日産ノートなど発電用モーターと駆動用モーターを有するハイブリッドカーの変速機構として名付けられたもので、実際にエンジントルクを伝達する構造ではありません。プーリー式CVTに例えると、入力側プーリーが発電用モーター、出力側プーリーが駆動モーターに相当、ベルトの代わりに電力によってふたつのモーターをつないでいると考えることで、ふたつのモーターがあたかも変速機構として振舞っているという考えから生まれた呼び方といえます。

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