この記事をまとめると
■「GT●」の車名はFIA規定の競技車両カテゴリー公認取得モデルに与えられたもの



■参戦コストの増加で衰退したGT1、GT2に対し、GT3は一定以上の成功を収めている



■近年、車両価格が2000万円強で収まるGT4への注目が高まっている



競技車両カテゴリー公認取得をアピールするためのもの

スポーツカーやレーシングカーの末尾についている「GT3」とか「GT4」という名称が気になったことがないだろうか? あれは、FIAこと国際自動車連盟(Fédération Internationale de l'Automobile)が規定するところの競技車両カテゴリー。つまり、レースのためにFIAから型式公認を取得したモデルであるがゆえ、わざわざ名のっているということだ。クルマが高性能である証ともいえるが、それは百点満点の正解でもない。

どういうことか説明しよう。



レーシングカーの証? 市販車にも付いてるけど何? 「GT3や...の画像はこちら >>



GT3以前に、GT2やGT1があったことは周知のとおり。じつは「GT」というかハコのスポーツカーの競技車両規定は一時、FIAの手を離れた空白期間があった。60年代からのスポーツ・プロトタイプの流れを汲んでいたグループCおよびSWCが1992年に終了してしまい、BPRモータスポーツというオーガナイザーが1994年より3シーズン、市販車で争う世界耐久選手権を開催していた。



BPRとは、長年ポルシェのワークスドライバーでカスタマーコンペティション部門マネージャーだったユルゲン・バルト、自動車の「ツール・ド・フランス」をヒストリック・イベントとして復活させたパトリック・ピーター、ヴェンチュリのワンメイクレースを主催していたステファヌ・ラテル、この3人の姓の頭文字だ。



レーシングカーの証? 市販車にも付いてるけど何? 「GT3やGT4」の意味



鈴鹿1000kmを含む年間8~12戦のシリーズで、そのほとんど4時間レースと、当初はアマチュアドライバーの参戦を見込んだ。だがBPR-GT1クラスにはマクラーレンF1やF40が、さらに同GT2にはポルシェ911(993)GT2らが出走し、元F1ドライバーらも多数参戦する盛り上がりとなり、ル・マン24時間の主催団体ACOやFIAが黙って見過ごすはずもなかった。



かくしてBPRのGT車両規定を叩き台に、ル・マン24時間というビッグレース、ひいてはFIA世界選手権へと繋がる枠組みが形成され、そこへ世界中の自動車メーカーが殺到した。それがマクラーレンF1 GTRであり、ポルシェ911 GT1であり、メルセデス・ベンツCLK-GTRなのだ。



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開発競争の激化による参戦コストの高騰で消えた「GT1」

こうしてGT規定は1997年からFIAの直轄となり、ステファヌ・ラテル率いるSTRモータースポーツ・グループがFIA GT選手権を運営した。だがGT1には当初あった最低25台は生産して市販すべしという縛りがなくなり、実質的に1台で公認OKとなったため、メーカーにとってはプロトタイプと変わらない開発スパンの短さ&コスト増のカテゴリーとなってしまった。



そのため1999年いっぱいでGT1が消滅、GT2がトップカテゴリーとなる。

手を加えていい範囲がGT1よりずっと狭かったとはいえ、GT2も開発競争は激化した。



たとえばポルシェ911の996世代は、1999年のジュネーブ・サロンで公道モデルのGT3とほぼ同時に、プライベーターのためのサーキット版911 GT3 Rを投入。GT3を名のりつつGT2カテゴリーに対応していたが、アストンマーチン・ヴァンテージやBMW M3らライバルに対し、ナショナル・レベルのGTレースだけでなくデイトナやル・マンでアドバンテージを保つため、2~3年ごとにベース市販モデルのGT3を進化させねばならなかった。それに呼応してサーキットでは、2001年の996 GT3 RS、次いで2004年の996 GT3 RSRへ繋がっていった。



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市販車ベースで、ハイ・アマチュア向けのクライアント・レーシング車両として始まったにもかかわらず、GT2の開発競争負担がメーカーにのしかかったため、2005年から新たなホモロゲ―ション枠組みとしてGT3が導入された。これはバランス・オブ・パフォーマンスという考え方を基本に、市販中のモデルをベースとしていればエンジン形式やシャシー設計はかなり自由。よって多様なシルエットのクルマが出走可能になるが、馬力やブースト圧、エンジンマネージメント、空力や重量といった要素に厳しい制限を設けることで、圧倒的に強いクルマが生まれにくい。



GT2カテゴリー世代の「GT3」モデルより、よりレーシングカーじみたワイドトレッドのプロポーションをしているのも、そのためだ。しかも一度ホモロゲ―ションを取ったら、原則としてシーズン中に大幅な変更は認められず、開発スピードの加速を防ぐことも念頭に入れられている。GT3カテゴリーは世界中で一定以上の成功を収め、日本のスーパーGT選手権でもGT300クラスにFIA-GTが押し寄せたのは周知のとおり。とはいえGT3も「プロトタイプ化」が進み、高価なワンオフ・シャシーが負担になるため、汎用マザーシャシーまで日本では生まれている。



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GT3と同時期に始まったが、GT3の成功の陰にずっと隠れていたのがGT4カテゴリーだ。

よりベース市販車の改造範囲が制限されており、「モータースポーツ用キットカー」の色合いが強く、GT3の車両価格が最低でも5000万円以上に上るといわれるのに対し、ポルシェ・ケイマンやアルピーヌA110のGT4は今のところ現地価格で2000万円強に収まっている。



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サーキットやラリー向けに仕立てられたGT4は、ロードゴーイングカーではなく競技専用車両だが、市販モデルにGT3やGT4と付くそれらは、ホモロゲのベースモデルになったということ。実際、公認モータースポーツの型式認証の基準に沿って、チューニングのバランスを突き詰めているカテゴリーという意味では、GT4は確かに旬。トヨタはルーキーレーシングを通じてGRスープラのGT4を開発し続けているし、直近のロサンゼルス・モーターショーでポルシェがケイマンGT4 RSを発表したのも、大きな後押しとなるだろう。



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