この記事をまとめると
■スーパーGTのGT300に参戦しているトヨタGR86 GTに迫る■3台が参戦しているなかでaprの監督とドライバーに車両の印象をインタビュー
■まだまだ改良点があるものの、ポテンシャルは相当なものに
GR86にV8エンジンを搭載したスーパーGT専用のレースカー
2022年のスーパーGTには同シリーズでしか見られないニューマシンが登場。その代表として開幕戦の岡山大会で紹介したマシンが、日産がGT500クラスへ投入した「Z GT500」だが、GT300クラスにもスーパーGT専用のニューマシンが参戦している。
そのマシンこそ、トヨタの新型FRスポーツをベースに開発された「トヨタGR86 GT」で、これまでロータス・エヴォーラMCで戦ってきたmuta Racing INGINGが2号車として「muta Racing GR86 GT」を投入するほか、2台のGRスポーツ・プリウスPHVを投入してきたaprも30号車を「apr GR86 GT」にスイッチ。
というわけで、8月6日~7日に開催された第4戦の舞台、富士スピードウェイでマシンの開発を行ったaprを直撃。監督兼エンジニアの金曽裕人氏に注目のニューマシン、GR86 GTの特徴を伺ってみた。
──aprさんと言えば、これまでGRプリウスPHVを主力にGT300クラスで戦ってきましたが、今年はGR86 GTを開発し、30号車として投入しています。その狙いはなんでしょうか?
金曽氏:本当はGR86と、GR86にハイブリッドを積んだマシンでレースをやろうと思ったんですけどね。今後、GR86にハイブリッドの市販車が出てくるわけでもなさそうですし、そう遠くないうちに次期プリウスも出てくると思うので、それならハイブリッドのレース車両としては次期プリウスのほうがいいだろうということもあって、30号車のみGR86にスイッチしました。

──これまでGRプリウスPHVのほか、GRスープラをベースにGTカーを作っていますが、GR86を含めてGTカーとしては兄弟モデルになるんでしょうか? ラジコンみたいに外側だけ違って中身は同じ……みたいな感じをイメージしてもいいんでしょうか?
金曽氏:共通部品はあるけど、フレームは全部違いますよ。それはディメンションによるものもあるし、マシンも進化していきますからね。とくにいまは新造車に関してはFIAのホモロゲーションを取らないと駄目になったので、 GR86は次世代フレームを使っています。
──次世代フレームとはどんなものでしょうか?
金曽氏:下の部分は従来のJAF規定のパイプフレームで、上の部分にある6点式のロールケージはFIA公認になっている。だから国際格式の枠組みで製作したフレームという部分が目新しいところです。

──ちなみにFIAの枠組みで製作されたJAF-GT車両はほかにもあるんでしょうか?
金曽氏:このGR86が初めてのクルマです。FIAの枠組みでマシンを作るとパイプの肉厚も決まっているいし、パイプの通し方も決まっているので大変なんですけど、今後は新しくマシンを作る時には新設計のフレームになっていくでしょうね。
──GTマシンを作るにあたって、ベース車両の GR86からキャリーオーバーしたものはあるんでしょうか?
金曽氏:規定で決まっているので、Aピラー、Bピラー、ルーフは量産車のものを使用しています。とくにGR86はルーフの材質がアルミなので軽くていい。ちなみに、フロントのバンパーは規定に合わせて拡幅していますし、左右のドアもレース専用ですが、GR86のシルエットは残すようにデザインしています。

──なるほど。ちなみにベース車両のアルミルーフを絶賛されていましたが、そのほかにGR86の素性の良さみたいな部分はあるんでしょうか?
金曽氏:ホイールベースも2650mmで、いいところが狙えました。GRプリウスのホイールベースは2750mmで少し動きが鈍いし、2590mmのGRスープラは動きがピーキーすぎて、一発の速さはすごいけど、F3ボーイズじゃないと厳しかったりと、乗り手を選ぶ傾向にある。ディメンション的に見てもGR86はサラブレッドで、最初にインフォーメーションを見た時から、GR86でGTカーを作りたいと思っていました。
──イメージ的にGR86はコーナリングマシンといった感じでしょうか?
金曽氏:そうですね。でも、コーナリングマシンなんですけど、かなりオールマイティです。GRプリウスはあんまりハンドル切らないサーキット、たとえばSUGOやオートポリス、鈴鹿なんかは得意なんですけど、テクニカルな岡山では極端に遅くなってしまう。でも、GR86にはそういった感じはありません。
──GR86 GTの弱点はありますか?
金曽氏:やっぱりエンジンが重たいことですね。

──GRプリウスはかなり苦労されていましたが、GR86も初優勝まで苦労しそうですか?
金曽氏: FIA-GT3のように4ドア車両でも戦えるようなBOPになっていないので、GRプリウスは今も苦労していますが、GR86は2ドアのロングノーズのショートデッキで空力を目一杯に使えるのでGRスープラと同様にそこまで苦労しないと思います。FIA-GT3は最高速が速いから混戦になると厳しいけれど、それでも改造ができないFIA-GT3と違って、JAF-GTは新しいパーツを作ってアップデートしていけるのでノビシロがある。試行錯誤、切磋琢磨しているから、何カ月かしたら変わってくるでしょう。今年は3台のGR86が参戦しているけれど、どのクルマも上にいけるパフォーマンスはあると思うので初優勝も時間の問題でしょう。
──3台のGR86は同じ仕様なのでしょうか?
金曽氏:タイヤとホイール、ブレーキシステムが違うのでセッティングも異なりますが、一番大切な空力に関しては3チームでお金を出し合ってシェアしながら風洞実験をやっているので統一感はありますね。それ以外のところに関してはオリジナリティがあると思います。

──ちなみにGR86 GTの値段はいくらなんでしょうか? GRプリウスと同様に家が買えるぐらいなんでしょうか?
金曽氏:いまはGTAから“1台あたり1億円以内”という内示があるので、GR86もそれに合わせています。為替もあって、海外から仕入れるパーツの値段も上がっていきているのでパーツの国産手配率を上げて、アップライトやドライブシャフト、ハブなど細かいパーツまで日本の部品メーカーで作っています。

ドライバーが操ってみて感じたGR86 GTの印象は?
以上、金曽氏にGR86 GTの特徴を解説してもらったが、実際のフィーリングはいかがだろうか? というわけで、aprで30号車のapr GR86 GTのステアリングを握るドライバーのひとり、織戸学選手にインプレッションしてもらった。

──GR86 GTはベース車両と似た感じはあるんでしょうか?
織戸選手:aprはベース車両のいいところを利用しながら。
──昨年までドライビングしていたGRプリウスと似た感じはあるんでしょうか?
織戸選手:プリウスから作るGTマシンとGR86から作るGTマシンは“入口”が違うからね。同じパーツを使っていても、まったく別のクルマですね。GRプリウスよりは良く曲がります。

──先ほど金曽監督に話を聞いたら、コーナリングマシンとおっしゃってましたが、やはりハンドリングはいいですか?
織戸選手:完全なコーナーリングマシンですね。コースで言えば、鈴鹿やSUGOみたいにスピードを落とさずに旋回できるようなコースは速い。逆に富士みたいなストップ&ゴーのレイアウトは厳しそうだし、リストリクターも小さくなったからね。5月の富士はあまり良くなかったけれど、昨年からGRスープラは速かったので、うまく煮詰めることができれば悪くないのかもしれないですね。
──市販モデルのトヨタGR86とスバルBRZは兄弟モデルですが、GTカーではGR86 GTと61号車のスバルBRZ GT300は似ているところがあるんでしょうか?
織戸選手:61号車もコーナリングマシンだと思いますが、全体的にはぜんぜん違いますね。でも、スバルBRZは市販モデルと同様に水平対抗4気筒エンジンを搭載しているのでベース車両に近いイメージなのかもしれません。
──GR86の弱点はどこですか?
織戸選手:ストレートが遅い。

──GR86で近いうちに勝てそうですか?
織戸選手:aprはラウンドを重ねるごとにクルマのポテンシャルを上げてきているし、素材の良さを生かしながら、GRプリウスでやってきた経験を注ぎ込んでいるので最初の2戦は苦労したけれど、短期間でセッティングが決まりはじめた。確実に進化しているので手応えはありますよ。
残念ながら第4戦の富士の予選ではSHADE RACINGの20号車の15位がGR86勢の最上位で、決勝でもaprの30号車の15位が最上位となったが、新型フレームを採用したGR86 GTは確実に進化を重ねているだけに、シーズン終盤ではトップ争いを繰り広げるに違いない。