「週刊文春」が、高市早苗首相が首相官邸執務室の「隠し部屋」で喫煙をしているとの内容の記事を公開し、物議を醸している。
その真偽はさておき、わが国には健康増進法(2020年4月全面施行)による厳格な喫煙ルールが存在する。
それは、「立法、司法、行政」に関連する建物・施設にも適用される。
健康増進法は、施設の種類を分類し、それぞれについて異なる喫煙ルールを設けている。
首相官邸をはじめ行政機関の庁舎、国会議事堂ないしは議員会館、裁判所は、健康増進法等の下、どのような規律の下にあるのか。

首相官邸内の喫煙は「例外なく法律違反」

まず、学校、病院、児童福祉施設、行政機関などは「第一種施設」とされ、敷地内には原則として喫煙場所を設置してはならないとされている(法33条1項)。
ただし、例外として、屋外で受動喫煙防止策をとった場所に限り、喫煙場所(特定屋外喫煙場所)を設置することが認められている(同条2項)。
したがって、一般企業など(第二種施設)で認められている屋内の「喫煙専用室(屋内)」の設置が、明確に禁止されている。
首相官邸は「行政機関」の施設にあたるため、屋内での喫煙は例外なく許されない。なお、首相官邸内にはかつて喫煙室が存在したが、健康増進法の一部施行に備え、公式には2019年7月1日から廃止されている。
仮に文春の報道の通り、執務室の奥に「隠し部屋」があり、そこで喫煙が行われていたとしたら、それは明らかな法律違反ということになる。
なお、禁止された場所で喫煙しただけでは直ちに罰せられることはない。ただし、都道府県知事から喫煙禁止場所からの退出を求められたにもかかわらず命令に従わなかった場合には、30万円以下の過料に処せられる(法29条、77条1項)。
不謹慎な話ではあるが、2018年に国より厳格な受動喫煙禁止条例を定めた東京都知事の小池百合子氏が、高市首相に「煙草を吸うなら屋外の喫煙所にしなさい」と注意するシーンを妄想し、クスッとした人もいるはずだ。

国会は建物内に「喫煙専門室」がある

国会は、行政機関ではなく「立法機関」にあたる。したがって、議事堂本館や議員会館は法律上「第二種施設」に分類され、一般企業、飲食店、事務所、ホテル(客室以外)、工場、鉄道などと同じ扱いとなる。

第二種施設では「喫煙専用室」を屋内に設置することができるが、実際の運用はどうなっているのか。
衆議院と参議院のそれぞれに、議事堂本館と議員会館における喫煙専用室の有無と数を問い合わせてみたところ、いずれも喫煙専用室の存在を認めた。
喫煙専用室の数は、衆議院広報課によれば、議事堂本館に1か所、第一議員会館の3階以上に1か所ずつ、第二議員会館の2階以上に1か所ずつ。人の出入りの多い1階と地下1階にそれぞれ2~3か所ずつ存在するとのことである。
また、参議院広報課によれば、参議院には議事堂本館に3か所、議員会館内に合計20か所とのこと。
屋内全面禁煙となっている行政機関と比べ、明らかに規律が緩くなっている。また、自律的な規制を設ける動きもない。
「行政」「立法」「司法」の役割分担の違いこそあれ、受動喫煙や火災等の危険は、他の機関の施設と何ら変わるところはない。なぜ国会の施設が「第一種施設」とされなかったのかは、興味がもたれるところである。
なお、裁判所(後述)も「第二種施設」だが、後述するように敷地内も含め施設内全面禁煙となっている。

裁判所は「敷地内全面禁煙」

裁判所は行政機関ではなく「司法機関」にあたり、法律上は「第二種施設」に分類されるため、一般企業、飲食店、事務所、ホテル(客室以外)、工場、鉄道などと同じ扱いとなる。しかし、現在、屋内どころか、敷地内すべて禁煙となっている。

裁判所は、健康増進法の改正に際し、それよりも厳しい規制を自主的に、しかも、2020年4月の改正法の全面施行より前倒しして実施している。
統治機構の「三権」にかかわる施設のうち、「国権の最高機関」(憲法41条参照)と美称される国会の喫煙に関する法律のルールがもっとも緩くなっているのはなぜか。内閣(行政)、裁判所(司法)との違いについて、合理的な説明をすることはきわめて難しいと考えられる。
この点について、巷間では、国会議員に喫煙者が多く、その勢力が強いことが関係しているとの見方も根強く存在する。
今回の「首相官邸隠し部屋喫煙」報道は、その内容の真偽はともかく、首相官邸のみならず、すべての国家機関の施設での喫煙に関する現行法のルールのあり方に、一石を投じるきっかけになる可能性をはらむものといえそうである。


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