月給が「60万円」から「48万円」に20%ダウン・・・。
Aさんは、約3年間、減額された給料を受け取り続けていたが、解雇されたことを機に「減額前の給料を支払ってほしい」と提訴。

会社は「3年間も異議を述べなかったのであるから減額に同意していた」と主張したが、裁判所は「真に同意していたとはいえない」として、会社に対して約324万円の支払いを命じた。
沈黙は、同意なのか?
以下、事件の詳細について、実際の裁判例をもとに紹介する。(弁護士・林 孝匡)

事件の経緯

Aさんは電子機器の販売などを行う会社の正社員で、製品マーケティングのマネージャーとして月給約60万円で働いていた。
Aさんの入社から約1年5か月後のことである。
■ 説明会が開催される
「会社の売り上げが振るわない」として、社長が「給料を下げたい」とする説明会を開いた。給料減額の対象者は以下の3名であった。
  • 管理部長(社長の妻)
  • Aさん
  • ほか1名
Aさんは説明会で異議を述べなかった結果、月給が60万円から48万円へとダウンした。
■ 約3年間、異議を述べない
それから約3年間、Xさんは文句を言うことなく、減額された給料を受け取り続けていた。
■ 解雇
その後、Aさんは「業務命令の無視」「何度も居眠りをする」「注意しても改善しない」ことなどを理由に解雇された。これに納得できないAさんは、解雇無効に加えて「賃金減額は違法である」と主張し、会社を相手取り提訴した。

裁判所の判断

裁判所は「給料の減額は違法。Aさんは減額に同意していない」と判断し、会社に対して未払い賃金約324万円の支払いを命じた。なお、解雇については裁判所は「有効」と判断している(詳細は割愛)。
■ Aさんは給料の減額に同意していたのか?
ここが大きなポイントだ。
会社は、「Aさんは減額に同意していた」と主張した。その根拠は「Aさんは説明会で異議を述べなかった」「それから3年間も異議を述べずに給料を受け取り続けていた」というものだ。
しかし、裁判所は会社側の主張をしりぞけ、「Aさんは減額に同意していなかった」と認定した。
■ 裁判所の判断過程
まず、労働条件は労使間の合意によって変更できる(労働契約法8条)。給料の減額も、労使間で合意していれば可能だ。
ただし、今回の判決で、裁判所は下記のように歯止めをかけている(要約)。
「給料減額の合意が成立したということができるためには、会社の申し入れに対して、従業員が異議を述べなかったというだけでは十分ではなく、このような不利益変更を真意に基づき受け入れたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要」
そこで、「Aさんが給料減額を真意に基づき受け入れたといえるか?」であるが、裁判所は「(Aさんが給料減額を)真意に基づき受け入れたとはいえない」と判断した。理由は以下のとおりだ。
  • 減額の対象者はたった3名であり、説明会で反対の声を上げることは難しかった
  • 減額幅が20%という強烈なものなのに、緩和措置や代替的な労働条件の改善策は盛り込まれていない
  • 説明会での社長の説明は抽象的だった
  • 「売り上げが振るわない」という理由について、Aさんらの理解を得るために財務諸表などの資料を示して説明をしていない
そして、裁判所は「たとえ、約3年間にわたって減額後の給与を会社から受け取り続けていたとしても、Aさんが、給料減額による不利益変更を、その真意に基づき受け入れたと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできない」として、「今回の給与減額は違法」と結論づけた。

最後に

本件のポイントは、「異議を述べなかった」「長期間受け取り続けた」という事情だけでは、給料減額への同意は簡単には認められないという点にある。裁判ではおおむね慎重、厳格な認定が行われている。
とりわけ、減額幅が大きい場合や、会社側の説明が不十分な場合には、労働者の“真意に基づく同意”があったとは評価されにくい。

会社としては、減額の必要性について具体的資料を示し、代替措置を検討し、個別に丁寧な説明を尽くすことが不可欠だ。
他方、従業員としても、不利益変更に疑問がある場合には、沈黙を続けるのではなく、記録に残る形で意思を示すことが重要である。なぜなら、「異議を述べていないので同意があった」と認定され、従業員が敗訴した裁判例もあるからだ(光和商事事件:大阪地裁 H14.7.19)。参考になれば幸いだ。


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