公益社団法人「認知症の人と家族の会」は5月12日、国会で審議が予定される「社会福祉法等の一部を改正する法律案」に含まれる介護保険法改正案について、緊急要望書を国会議員に提出した。
要望書は、人口減少地域を「特定地域」と定めて介護職員の人員配置基準を緩和する仕組みや、訪問介護などの在宅サービスを保険給付から市町村事業へ移行できる枠組みに「制度の根幹を揺るがしかねない」と懸念を示した。
一方、厚生労働省は急速な人口構造変化に対応する仕組みとして必要性を訴えている。

厚労省「中山間・人口減少地域でサービス維持が困難」

厚労省が今年4月に社会保障審議会福祉部会に示した資料によると、改正の背景には急速な人口構造の変化がある。2025年から2040年にかけて生産年齢人口は15.0%減少する一方、85歳以上人口は42.2%増加すると見込まれる。さらに人口が半減する市町村は2050年時点で558にのぼり、全市町村の約3割を占めるとした。
厚労省は「高齢者人口が減少し、サービス需要が減少する中山間・人口減少地域においては、生産年齢人口の減少により介護人材や専門職の確保が困難」と分析した。特に訪問介護では、利用者宅間の移動負担や季節による繁閑などから「年間を通じた安定的な経営が難しい」とも指摘している。
こうした認識のもと、改正案では「特定地域サービス」を新設。管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件の緩和を可能とし、月単位の定額報酬を導入できる「包括的な評価の仕組み」も盛り込まれた。厚労省は「職員の負担や質の確保への配慮が前提」と説明している。
さらに、給付の特例を活用してもなおサービス提供の維持が困難なケースに対応するため、市町村が地域支援事業(介護予防や生活支援を市町村が独自に行う仕組み)として居宅サービスを実施できる「特定地域居宅サービス等事業」も創設。介護保険財源を活用しつつ、給付に代えて事業として実施する仕組みだ。

「サービスの質や保障に格差が生じる恐れ」

だが、家族の会は上述した厚労省の資料などで「中山間・人口減少地域」とされていた対象範囲が、法律案では単に「特定地域」と表記されている点を指摘。「たとえ人口が減っても介護を必要とする方々は増え続けるのが実態」としたうえで、次のように訴えた。
「人員不足を理由とした基準緩和や給付からの事業移行が行われれば、居住地域によってサービスの質や保障に格差が生じ、どこで暮らしても等しいサービスを保障するという介護保険の理念がなし崩しになる恐れがあり、私たちは大きな不安を覚えます。

苦境にある事業所への支援が必要であれば、それは法改正による恒久的な措置ではなく、臨時的・応急的な公的支援によって解決されるべき課題です」
加えて、孤立死や介護殺人、高齢者虐待が社会問題化していること、「介護離職」する家族も減らないことに触れ、「人員配置基準の緩和や給付の事業化ではなく、安定的な人材確保施策にこそ注力し検討を」と求めた。

人材確保施策の見直しなど要求

家族の会は要望書で介護保険を「全国約7800万人の被保険者が納める保険料で支える社会保険方式」と位置づけ、「その根幹は『誰もが必要なサービスを平等かつ公平に受けられること』にある」と強調。そのうえで下記の2点を求めている。
1点目は「特定地域」創設で介護職員を減らすのではなく、必要な介護職員を確保するための人材確保施策の見直し。2点目は、住む地域や暮らす居宅の形態にかかわらず、全国の認定者に公平・平等な給付を維持するための施策の検討だ。
家族の会は要望書の最後に、次のように結んだ。
「住む市町村により受けられる介護サービスの内容差や、自宅や住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅といった住まいの形態による負担に差が生じることは、制度の信頼を揺るがしかねません。
どのような『居宅』に暮らしていても、被保険者が平等かつ公平に給付を受けられる体制を維持するための施策を検討してください」


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