5月16日、令和ロマンの約7年ぶりの単独ライブ「RE:IWAROMAN」がKアリーナ横浜で開催された。公演の中では、松井ケムリ氏が2026年7月24日に自身の描き下ろしとなる絵本『ちがうちがう』を刊行することが発表された。
“ツッコミ”を絵本にするという挑戦
――まずは絵本を刊行することになった経緯から聞かせてください。
松井ケムリ(以下同) 単独ライブを開催するにあたって何か新しいことに挑戦しようという話の中で、スタッフさんから「絵本はどうですか?」と提案してもらったんです。自分では考えたこともなかったですけど、「めちゃくちゃいいな」と思いました。
人間が生きていて、絵本を出すタイミングなんてなかなかないじゃないですか。だから良い機会だな、と。(昨年誕生した)自分の子どもに読み聞かせられる絵本を作れたら素敵だなと思って、描かせてもらいました。
――お子さんはもうすぐ1歳になられる頃ですが、普段から読み聞かせされているんですか?
結構してます。意外と好き嫌いがはっきりありますね。楽しい絵本は自分でもページをめくろうとしてきて。ただ、まだ1歳なんで、うちの子が読むような絵本は大人からすると全然意味わかんないです。「きらきら……」とか読み聞かせてます。
――1歳向けだとそうですよね。
いろいろ読みましたね。『パンどろぼう』(柴田ケイコ/KADOKAWA)とか『大ピンチずかん』(鈴木のりたけ/小学館)とか「ノンタン」シリーズ(キヨノサチコ/偕成社)とか。あと、「100かいだてのいえ」シリーズ(岩井俊雄/偕成社)という縦に開く絵本があって、これも面白かったです。
今まで気づいてなかったんですけど、絵本って大人が声に出して読み上げることを前提に作られてるんですよね。字がまだ読めない子もいるから、ページの絵と字の内容が一致してなくていいんですよ。
そのページの絵には描かれていない次の展開が文字で書いてあっても、それを読みながら次をめくればいいようにもなってる。そこは一般書と明確に違うところで、面白いなと思いました。
――たしかに、大人向けの本とは全然構造が違いますね。
それと絵本をいろいろ読んでみて、子どもが自分で何か言えるような本が人気なんだと思いました。たとえば「100かいだて」シリーズにはタワー状の建物が描かれていて、その中でいろんな人がいろんなことをしてるんですよ。
それを見て子どもは「あ! ◯◯してる!」って自分で気づいて騒げるじゃないですか。そういうふうに、描かれているものに自ら興味を持てる仕組みが大事なんでしょうね。
「僕はめっちゃ絵がうまいわけじゃないので…」
――それらを踏まえて、今回の本はどんなコンセプトで作られたんでしょうか。
内容としては、“神様”が作ったおかしな世界に主人公の少年“ただしくん”がツッコミを入れていくというストーリーです。絵本の中では「ツッコミ」とは言っていないんですけどね。単独ライブに合わせて発表することやそもそも僕が描くというところで、自分の「人(ニン)」(芸人が生まれ持っている人間性・個性・キャラクター)みたいな要素も少し入れながら、さっき言ったような人気のエッセンスを掛け合わせて作らせてもらいました。
――絵本は絵柄も重要になると思いますが、ケムリさんが描かれたそうですね。どうやって決めたんですか?
僕はめっちゃ絵がうまいわけじゃないので、コピー用紙にクレヨンとかパステルとか鉛筆とか太さの違うボールペンとかサインペンとかいろんな画材を使っていっぱい描いて、描きながら「これがいい」って決めていきました。
主人公のただしくんの感じは結構お気に入りです。丸っこさとかちょっと困ってる雰囲気がかわいくて、ツッコミっていうところとも相性がよさそうだったんで、この絵になりました。なんとなくヨネダ2000の誠みたいな感じでいいな、と(笑)。
――たしかにちょっと似てます(笑)。描いていて苦労したのはどんなところですか?
神様のビジュアルを決めるのが難しかったです。いろんな方が描かれた神様の絵を見てみたんですけど、やっぱり宗教的な神様っぽいモチーフのものが多くて、クセのない神様って案外少ないんですよ。しかも描いてて気を抜くとすぐサンタクロースになっちゃって……デフォルメされた中で神様感をいかに出すか、結構大変でした。
――個人的には、途中で出てくる虫の絵が妙に細密なところに虫好きのケムリさんらしさを感じました。
あ、そうなんですよ。クワガタなんてマジで何も見ずに一瞬で描きました。多分、見る人が見たら「ヒラタクワガタだ」ってわかると思います。テントウムシやハチも、ちゃんと頭・胸・腹に分かれてるあたりに虫好きが出てますね。こだわったわけじゃなくて、描いてみたら自然とそうなりました。虫以外も、どれも描いていて楽しかったです。
――単独ライブでは『ちがうちがう』を子どもたちに読み聞かせる映像が流れましたが、リアクションはどうでした?
各ページにツッコミが文字で書かれているんですけど、絵を見た子どもたちはもっと別の細かいことを言ってくれるんですよ。それが面白かったです。あと、新たな学びが一個あって。年齢が結構下の子だと、変だと思ったところを指さすだけなんですよね。
気づいていても口には出さない。
子どもが生まれて気づいた「本」の大切さ
――情操面でも学習面でも絵本が与える影響は大きいといわれています。
絵本を読むことは教育においてすごく大事なんじゃないかって、子どもが生まれてから気づき始めました。絵本に限らず、本ってマジで大事だなと。だから子どもにとって本が身近なものになるように読み聞かせをしてるところはありますね。で、飽きたらすぐやめるようにしてます。「本=嫌なもの」になってほしくないんで。
――なるほど。
いろいろ話を聞いたり調べたりして、僕の中で「教育というものは、どうやら子どもに自分からやらせることがとにかく大事っぽい」って結論が出たんです。「自分で選んだ」ということがすごく大事なんですって。だから、周りに本はたくさんあるけど「読め」とは言われてない、そんな環境を目指したいと思ってます。
――本を読まない/読めない人が増えているとされますが、ケムリさんは読書を重要視されているんですね。
「本を読んだら頭が良くなる」っていう単純な考え方が自分の中にあって(笑)。でも実際、その考えを補強するような話は結構多いじゃないですか。「すごい頭いいな」と思う人は大体みんなめっちゃ本読んでるし、思えばうちの父親もめちゃくちゃ読書家だったんですよ。書斎の壁が全部本棚で。それを見ていたから「本って絶対読まなきゃいけないんだ」って自然と思っていた気がします。
――今度は自分がその背中を見せる番だ、と。
そうですね。僕も子どもの前で本を読んでいる姿を見せようと思って、最近は電子書籍から紙の書籍に戻してます。この数か月は忙しくて全然読めてないんですけど……。
――単独が終わって落ち着いて読めるようになるといいですね。最後に、『ちがうちがう』はどんなふうに楽しんでもらいたいですか?
ここに書いてあるツッコミは必ずしも正解ではないというか、いってみればいちばん簡単なツッコミをしてるんです。だから書いてあることにとらわれず、読みながらツッコんでいってほしいですね。
取材・文/斎藤岬 撮影/下城英悟
『ちがうちがう』(集英社)
松井ケムリ

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