テレビはまだまだトガっている。心に“刺さった”番組を語るリレー連載「今週のトガりテレビ」。
粗品がプロデュースした新しいお笑いバトル
「お笑い界が前に進む瞬間を、ぜひご覧ください」
番組を告知する取材の中で、視聴者へのメッセージを問われ、霜降り明星・粗品は、たった一言、そうハッキリ答えていた。
並々ならぬ自信がうかがえる。
それは、5月23日にフジテレビで放送された『ツッコミスター』という特番。その名のとおり、「ツッコミ」の面白さを競う大会だ。粗品のYouTubeチャンネルで行なわれていた「ツッコミマン」を、テレビの豪華なセットと演出で番組化したもの。
それが深夜やローカル枠ではなく、いきなり土曜21時から23時10分までの「土曜プレミアム」という、テレビのド真ん中で行なうというのがまず偉業だ。
しかも、もともと粗品自身の企画のため、キャスティングから審査方法を含めた大会のルールはもちろん、お題の選定から音楽やSE、観覧客の選別に至るまで、粗品が深く番組作りにかかわっている。
特にその出場者の人選はあっと驚くものだった。
『M-1』王者のたくろう・赤木裕やエバース・町田和樹、真空ジェシカ・ガク、オズワルド・伊藤俊介、さや香・新山、トンツカタン森本といった面々は、テレビでもおなじみといえるが、ママタルト・檜原洋平、パンプキンポテトフライ・谷となってくると、ゴールデンタイムではなかなか見られない芸人。
さらには、ド桜・村田大樹、ゼロカラン・ワキユウタ、シモリュウ・前田龍二と一気にマニアック度が増していき、三遊間・さくらいに至っては「全国放送のテレビに出ること自体が初めて」だという。
粗品が「ツッコミがとにかく面白い、自信をもってお送りできる精鋭」と評する12名(ちなみに前田と檜原は「ツッコミマン」の優勝経験者)。出演者の平均年齢は33.7歳だ。
「2000年以降のテレビの中でいまもっとも渋いメンバーがテレビに出てるんで、お笑いの未来に一石を投じたいです」
そう檜原が言っていたように、昨今見慣れたテレビのお笑いの風景とはまったく違っていた。
おそらく、このキャスティングを実現するのには、一悶着あっただろう。局側としてはもっと知名度のある人を並べて“安心”したい。当然、誰もが認める中堅やベテランの「ツッコミスター」を招聘する案もあったはずだ。
「192」という数字に対してツッコミを入れる芸人たち
それでも粗品はきっと、若い世代だけでやることに意義を見出していたのであろう。それこそが「お笑い界が前に進む」ことだと。
さらに、審査も粗品ひとりでおこなった。当然、賛否は分かれる。
「粗品の好みじゃないか」「贔屓してる」「公平じゃない」……そんな批判が来るのは、織り込み済みだったに違いない。
お笑いがどこまでいっても主観的部分を排せない以上、完全に「公平」なジャッジはあり得ない。ならば、自分ひとりが担うことで、その世界観の「純度」を高めることを重視したのだろう。そのおかげでテンポも良かった。
面白いツッコミには「スター」が与えられ、マイナスポイントとなる「マイナ・スター」もあるのが特徴のひとつ。
そして、「お笑い界が一歩前に進むかのような」秀逸なツッコミには「ゴールデン・スター」が与えられる。これが出ると「勝ち抜け」が決定される(勝ち抜け人数以上の人にゴールデン・スターが出ると、その中からスターの数で勝敗が決まる)という、ギャンブラーの粗品らしい一発逆転が可能なルールも加えられている。
もちろん、これまでも「ツッコミ」を競う企画は、たくさんあった。そんな中でこの番組で特異なのは、そのお題。ただの何の意味のない「色」や「数字」に対してツッコむのだ。
たとえば、「192」という3桁の数字。
これにまずワキが「NBAで見る日本人、やっぱ小さいなあと思って調べた時の腰抜かす身長か!」とツッコむ。
続いて檜原が「部屋の中でもジャギみたいな服を着て生活してるやつが、退去の時に原状回復で請求される傷の箇所か」、赤木が「ブラジルの高速道路では、これくらいのスピード当たり前さ、か!」と身長、速度などに見立ててツッコんでいく。
そして村田が「使ってへん方の口座の残高か!」とツッコみ、ゴールデン・スターを獲得するのだ。
「俺、これがやりたかったんよ」
ツッコミとは、よく「ボケをわかりやすく翻訳すること」などと言われる。つまりは、物事の視点や解釈を当意即妙に表現することだ。
何しろ、決勝戦のお題は「なし」なのだ。
「俺、これがやりたかったんよ。これやりにお笑い界に入ってたからなあ。これやりたいヤツばっかりやと思うねん。でも、これやれるヤツおらんねん」
番組収録直後に撮影したYouTubeで、粗品は高揚した面持ちでそう語っていた。万人向けでは決してない、けれど、自分が面白いと信じたものを真っ直ぐ表現することができたという達成感に満ちていた。
番組のMCを務めるだけでなく、企画段階からその中枢にかかわるということは、そのすべてにおいて矢面に立つということ。仮に面白くなければ、批判は自分に集中する。その覚悟がなければできなかったはずだ。
実際、SNS上では賛否両論が巻き起こり、「否」の意見は粗品に対するものが大勢を占めている。
すべてが上手く行っていたかといえば、そうではないかも知れないが、回を重ねてここから新たな“スター”が生まれれば、それ以上の成功はない。
かつて、テレビは視聴者の“半歩先”を歩もうとしていた。そうして新しいものを生んでいった。
そうするためには、時に半ば強引とも言える「個」の力が必要なのだろう。
もちろん、老若男女に向けて放送されるテレビだから、そんな番組ばかりになったら、それはそれで問題かもしれない。だが、ひとつやふたつ、『ツッコミスター』のような番組がゴールデンタイムで放送されるのは、テレビの未来にとって重要で、何より痛快だ。
文/てれびのスキマ(戸部田誠)

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