最近、ダシがブームを起こしているのをご存じでしょうか? 有楽町に味の素が作ったダシ体験コーナーである「だしCafe」が2010年10月1日に、2010年10月28日には日本橋にダシ専門のバー「だし場」というお店が立て続けにオープンしています。どちらも日本料理で「ダシ」をテーマにしたお店なのです。


だしは日本料理の「命」であると言います。ある程度の年齢の方は、その昔放映されていたテレビ番組「料理の鉄人」において、和の鉄人道場六三郎氏が「命のダシ」を大量の鰹節でとっていた姿を思い起こせるのではないでしょうか。

また、数々の料理漫画やドラマでネタにされる、ダシをとらずに味噌汁を作ってしまうと物足りない味になるなど、ダシは最も身近な味で、なくてはならないものだったりします。そういったことを考えると、ダシブームが起きるのは必然なのかもしれません。

そんな、ダシブームの先駆けとなった漫画作品があります。それが、「ビジネスジャンプ」誌連載中の「ダシマスター」(原作:早川光 漫画:松枝尚嗣 ビジネスジャンプ公式)なのです。


原作の早川光さんは 『きららの仕事』シリーズや「私は利休」などの料理漫画の原作をてがけている方です。実は『ミネラルウォーター・ガイドブック』『ミネラルウォーターで生まれ変わる』といったミネラルウォーターや水に関する著作もあり、水と料理について研究を続けていった集大成がこの「ダシマスター」になります。

漫画の松枝尚嗣さんは元々は堀井覚司という名前で活動されていたのですが、1997年に松枝尚嗣と名前を変えて活動されています。『ペルソナ〜罪と罰〜』は最近新装版が出版されました。実家が仕出し屋で生まれも育ちも現在も料理関係の人に囲まれているけれども、グルメ漫画はこの「ダシマスター」が初挑戦になります。


さて、そのダシマスターとはこんなお話です。



主人公のごく普通のOL、高原承子は会社のお昼休みにふらりと入ったカレー屋のチキンカレーに衝撃を受けます。それは、今までに食べたこともないような美味しいカレーでした。そのカレーを作った男こそ、ヨーロッパ社交界を震撼させた伝説の出張料理人にしてダシマスターの異名をとる「ヤタ・ダイゴ」だったのです。

ひょんなことからダシマスターの依頼交渉窓口になった承子。果たして今回ダシマスターに寄せられた依頼は……?


ダシマスターはその異名通り、さまざまなものからダシをとります。鰹節や昆布といったものだけではなく、牛や鶏や豚といった肉類や、はては梅干しからもダシをとります。
そう、ダシマスターはあらゆる素材から、その素材の命を宿した最高のダシをとるのです。

しかも、単なるダシだけにとどまりません。同じ「旨みの抽出」という意味では同じなことから、ダシマスターはお茶やコーヒーを淹れる達人でもあります。さらにはカレー、パスタ、ハンバーグ、ステーキなど、一見ダシが関係していないように見える料理も、その魔法とも言えるダシで極上の味に仕立て上げてしまうのです。

そして、ダシマスターがダシを完成させた瞬間には決め台詞&ポーズが飛び出します。

例えば鶏のダシをとるときを見てみましょう。
ダシマスターは鶏一匹を丸ごと煮込み、おたまでスープをすくい、丁寧に表面のアクと脂のみを落として、またスープを鍋に戻していきます。そう、単にアクを採るだけではなく、旨みだけを鍋に戻していくのです。そしてそれを丁寧に繰り返すことにより、ダシの一滴一滴には鶏の命が吹き込まれていくのです。

そして鶏のダシを完璧に出しきったことを確信した瞬間、ダシマスターはおたまを目の前にかかげます。

「鶏の命が宿った…!!」

そうしてできあがったダシは、鶏の美味しさが全部宿っているのです。

この作品を読んだ後にはこのポーズをとりながらダシをとってしまうこと請け合い。
実際、筆者の周りではとりあえず何でもダシをとって命を宿らせるブームが起こったりしました。


そんなダシマスターの最新6巻が先月発売されました。ダシマスターの実家の料亭「瑞鹿」との対立も深まり、いよいよ直接対決が始まります。「瑞鹿」側の最先端科学料理を駆使するNY帰りの料理人VSダシマスター。相手の斬新かつ視覚で魅せる料理には、さしものダシマスターも苦戦は必至です。もう2人の対決から目が離せません。


ところで、最近「○○の命が宿った」の決め台詞&ポーズが無いのが寂しいのです。復活してくれないかな……
(杉村啓)