ついに最終回が放送され、この作品らしく、にぎやかな形で大団円を迎えた「戦国コレクション」
後藤圭二監督、脚本の雑破業さん、新井輝さん、金澤慎太郎さんによるスペシャル対談も、このPart.3がラスト。
最終回の話題はもちろん、残念ながら実現しなかった「幻の戦コレ」についても、話を聞く事ができました。
Part.1Part.2はこちら)

――雑破さんが「あんなのずるい」と仰った23話は、金澤さんの担当回ですね。幼稚園児の尼子経久が、砂場で他の園児と陣地争いしていく様を、重厚なナレーションとともに、戦国絵巻風に描いていく。
雑破 あんなの面白いに決まってるじゃん(笑)。
――僕も、腹を抱えて笑いました。尼子経久を主役に、砂場で陣取り合戦という発想はどこから?
金澤 最初は、8話が尼子経久の回で、鳥取砂丘の不思議な話を書いてたんです。
それが、なにかの拍子で秀吉の話になって。
新井 たしか、秀吉は早めに出そうみたいな話になって。
後藤 そうですね。
雑破 砂場の話っていうのは、原作のカードについてる冠名が「お砂場」だからだよね。
――それが、陣地争いの話になっていったのは、なぜですか?
金澤 そうなったきっかけは、分からないですね。特に何も考えてなかったです。

――そうなんですか? 舞台は幼稚園の砂場で、戦う相手も園児ですが、「戦コレ」の中で、一番、戦国ものらしい話ですよね。
金澤 でも、特に「戦国らしく」とかの使命感もなく。手なりで書きました。
――「手なり」で書いた脚本だったのですか……驚きました。では、次は、作品の中で取り上げたかったけど出せなかったキャラや、ボツになった幻のネタなどがあれば教えてください。
後藤 一番やばいのは、幻の大谷吉継回ですかね。

金澤 あ、そうですね。
――大谷吉継は、18話の主人公ですね。
後藤 18話とはまったく違う、金澤さんの書かれたお話があったんです。あれは、絶対に放送できない。
――放送された18話は、待田堂子さんの脚本ですよね。感動的な話で、映像も素晴らしいのですが、薄幸な吉継が本当にかわいそうで……。

後藤 幻の方も、十分にかわいそうでした(笑)。
新井 かわいそうというか、ひどい話(笑)。
雑破 あれは、ねえ……。
金澤 書いた本人を含めて、ほぼ全会一致で「これはダメだね」って。
新井 プロデューサーも、「2アウトまでならどうにかと思ったけど、3アウトだからなあ」と、言ってました。
――どんな話なんですか? 気になります!
金澤 まあ、3アウトの要因を言うと、麻薬と戦争と宗教です。

――たしかに、3アウトだ(笑)。 
新井 僕は、個人的にやろうと思ってたのは、「12人の怒れる真田十勇士」です。
――真田十勇士が、一つの部屋に集まって、何らかの事件について議論するんですね。面白そうです。
新井 でも、途中から、1話の中であんまりたくさん(新規の)戦国武将を出すのは止めようって事になったんですよね。たしか5話の後だと思うんですけど。

雑破 というか、(伊東)一刀斎みたいな、もったいない使い方は止めようって話になったんです。
――一刀斎、5話のクライマックスで、1シーンだけ出てくるんですよね。
新井 そんな感じで、戦国武将は大事に使おうって話になったので、十勇士は無理かなって。そもそも、当時はまだ、ゲームの中で十勇士のカードが全員揃ってなかったし。
金澤 あと、ウェスタンの話も考えましたね。剣士たちが集まってるみたいな。
雑破 マカロニウェスタンはやりたかったね。
――それも見たかったです。さて、対談を行っている今の時点では、僕はまだ最終回(26話)の映像を見てはいないのですが。雑破さんの書かれたシナリオを読ませて頂いて、すごくにぎやかで、「戦コレ」らしい終わり方だなと思いました。この結末の方向性は、早くから固まっていたのですか?
雑破 最終話あたりは、19話、20話と、まとめて書いたような感じでしたね。
――最終回のフィナーレでは、登場した武将が全員出てくるんですよね? 一刀斎も。
金澤 いっそのこと、一刀斎だけいないのも、面白かったかもしれないですけどね(笑)。
雑破 あ、さっきのやり残した話じゃないですけど。(同じように出番が少なかった)風魔小太郎は、(25話の)今川義元の話で拾ってやれたんですけど。一刀斎は、どこかで拾おうとずっと思っていたのに、最後まで拾えなかったんです。そこは心残りですね。
――では、フィナーレで一刀斎が映画スターになってるのは、その償いですか?。
雑破 はい。尺の都合もあると思うのですが、監督には「できたら一刀斎はなるべく多めに出してあげてください」と伝えました。
後藤 大丈夫です。ちゃんと出てますよ。
――良かった。では、そろそろ締めの質問に……。皆さんにとって、「戦国コレクション」とは、どんな作品ですか?
雑破 アニメの仕事をしてる時によく思うのが、無茶ぶりされるのは良いよねってことで。ひとりで小説を書いたり、マンガの原作を書いたりするより、アニメの方が当然いろいろなオーダーがあるんです。それは大変ですけど。逆に自分だけでは絶対に思いつかないことが思いつけたりする。追い詰められた結果、思わぬ力が目覚めるみたいな。「戦コレ」に関して言えば、1話のアバンで描いた話を、どう着地させるのかっていう課題があって。そこで悩み抜かないと、あの19、20話は出てこなかった。あの2本は、自分としてはすごく手応えのあった回なんですよ。逆に言うと、良いお題をもらえたおかげで良い回答が出せた。それが、良かったなと思います。
――1話のアバンについては、監督のアイデアですか?
後藤 戦国もののアニメと見せかけて、現代に飛ばされてしまうという前振りを、ああいう形にしちゃったので。雑破さんに「すいません」と投げて、その後を考えてもらった感じですね。
――では、金澤さんは?
金澤 僕は、今回が初めてのアニメ脚本の仕事だったのですが、本業の都合で匿名での参加になってしまって。でも、そのおかげで、他人が責任をとってくれる犯罪行為みたいな感覚で、楽しませて頂きました(笑)。たぶん、もう二度目はないと思うので、一度きりな機会の分、楽しんだ感じです。
雑破 やり逃げか!(笑)
金澤 次やったら、責任取らなきゃいけないんだろうなって。
新井 そうだね。評価を受けてからの仕事だとね。
雑破 また、名前を変えてやれば良いじゃん。
――アニメ脚本家としての楽しさも、堪能されたわけですね。
雑破 伸び伸びとやってたよね~。
金澤 いや、そういう役割だったってところもありますよ。ちゃんと、空気を読んでます(笑)。僕らが率先して無茶しないと。他の方は(脚本家として)名前のある方々なんで。
新井 そうですね。バラエティ感の一環としてね。
雑破 まあ、真面目な話を言うと。新井さんと金澤さんが、普通のアニメには無いところを出してくれたので、バラエティ感を出すという意味では、アイデア的にすごく助かりましたよね。みんながみんな、きっちりやろうみたいな感じだと、監督の考えられていた感じではなく、普通のアニメになっちゃうので。でも、そのあたりを全然考えない人たちがいて……(笑)。
新井 考えた、考えた。
金澤 すごい考えてましたよ(笑)。
雑破 結果的に、すごくありがたかったです。
新井 全然、褒められてない(笑)。
――では、新井さん、お願いします。
新井 僕もアニメの脚本は初めてだったので。良い年の大人なのに、「常識で考えて下さい」って叱られるという貴重な体験を(笑)。
雑破 人間、40歳を越えると、なかなか叱ってもらえないよね(笑)。
新井 5人の脚本家の中で、僕が一番アニメから遠いところにいた人間だったので。久々に、人に教わる立場として仕事をしたのは、すごく勉強にもなったし。本当に必死でしたね。でも、そういう受け取る側として参加するのが本当に久々だったので。ちゃんとできるのかなって心配もあったんですけど。参加できて良かったし、面白かったです。
――では、監督、お願いします。
後藤 今までも何本か監督をやったんですけど。今回は、スタッフのみなさんが好きにやってみて下さい、という形で作っていて。それは、脚本の方々だけじゃなくて。絵の方も、音の方も。全体的に、あまり自分のこだわりみたいなものを出さないようにしてみようと思ったんですね。
――それは、どうしてですか?
後藤 今までは、自分の中でイメージを作って、「この作品はこういうものだ」って考えながら監督をしていたんですが。ここ何年かいろいろな作品に関わる中で、別にそうしなくても、作品は成立するんだなと思うようになったんです。今回、美術にしても、柴田くんのキャラクターにしても、自分が思い描いているのとは違うものが来てはいるんです。ただ、僕が思うものと違うだけで「戦国コレクション」としては外れてないし、これはこれで面白い。だったら、これでやろうって。だから、自分では完全にはイメージができていなくて。できあがった時に初めて、「戦国コレクションって、こうなるんだ~」って。
――「戦コレ」は、美術に関しても本当に凝った絵が多いですよね。それも、監督からというより、美術スタッフサイドから?
後藤 信長が落ちてくるキービジュアルの美術は、「こんな感じで」って、資料を出して書いてもらったんですけど。そこからは、美術さんの方から、「こんな感じですかね」って、上げてくれたりして。各話各話で話がけっこう変わるので、「この話数はシリアスだから、モノトーンぽく」とかのオーダーはさせてもらってますが、あとは、好きにやってもらいました。画面に家紋が入ってるのは、美術さんが「こういうの入れてみましたけど、どうでしょう」って、やってくれたんです。
――そうだったんですか!
後藤 そういう意味では、自分も面白かったし。みんなが自由に、楽しそうにやってくれてたので。非常に楽しかったなと言うのが、一番大きなところです。自分としても、新しい仕事の仕方みたいなことができたし。まあ、もう少しだけ最終回の作業が残ってるんですけど(笑)。これが終わったら、「良かったな~、みなさん、ありがとうございます」って、大きな声で言えると思います。
――では、最後に監督から、読者と「戦コレ」ファンへのメッセージをお願いします。
後藤 作っている側も、みんな楽しんで作れたと思う作品なので、見て下さった方たちも、そういう楽しさを感じてもらえていたら嬉しいですね。ありがとうございました。もし、まだ見てない方は、とにかく気楽な気持ちで、一度、見ていただけたら嬉しいです。
(丸本大輔)