台風崩れの熱帯低気圧と秋雨前線の接近で、東京が大雨に見舞われた9月上旬の月曜日。ウクライナ戦争の現実を赤裸々に記録した「戦場0地点」と、日米地位協定の問題に焦点を当てた「東京上空300メートル」という2本のドキュメンタリー映画を続けて鑑賞した。

世界と日本の“今”を改めて考える機会となった。

緊迫感あふれる本物の戦闘映像

「戦場0地点」は、ウクライナ出身の映画監督・ジャーナリストのミスティスラフ・チェルノフ氏が、自ら戦争の最前線に飛び込み、撮影したドキュメンタリー。原題は「アンドリーウカへの2000メートル」。アンドリーウカはウクライナ東部・ドネツク州にある小集落。映画は、ウクライナ軍の歩兵部隊が多くの犠牲を出しながらそれまでの前線から2000メートルを進み、集落を占領するまでを描いている。

これまでも、歩兵を主人公とする戦争映画はフィクション、ノンフィクション合わせ数多く見た。ノルマンディー上陸作戦を描いた「プライベート・ライアン」の戦闘シーンは壮絶で残酷なシーンも多かったが、フィクションと分かっていたので冷静に見ることができた。ドキュメンタリーは、その多くは最前線の後方で撮影されたもので、歩兵戦の臨場感は乏しかった。

しかしこの映画は、チェルノフ氏が自ら部隊に同行して戦闘の現場で撮影したり、兵士のヘルメットに装着したカメラで記録したりした本物の戦闘現場の映像で構成されている。その臨場感と緊迫感は半端ない。映画の冒頭、彼が潜んでいた塹壕(ざんごう)の数メートル先で迫撃砲弾がさく裂、さらに乗っていた装甲車が攻撃を受けて動けなくなる場面が続き、自分が戦場に投げ込まれたような感覚に思わず手に汗を握ってしまう。

そして、アンドリーウカへの2000メートルは、苦難に満ちた道のりだった。集落に向け前進するウクライナ軍部隊は、塹壕に潜むロシア兵から激しい銃撃を浴びる。

続出する負傷者、目の前で戦死する仲間。手りゅう弾のさく裂。「降伏しろ!」の声に応じて手を挙げて塹壕から這い出すロシア兵。アンドリーウカに突入すると、両軍の兵士の遺体がそこかしこに転がっている。カメラはこうした歩兵戦の現実を、容赦なく記録する。

2022年2月のロシアのウクライナ侵攻に始まった戦いは、ミサイルやドローンによる軍事施設や経済インフラへの攻撃という近代戦のイメージが強いが、ウクライナ東部の最前線では、第1次世界大戦をほうふつとさせる塹壕戦、歩兵戦が展開されている。その現実を改めて思い知らされた。

映画「戦場0地点」「東京上空300メートル」で世界と日本の今を考える

米軍ヘリの違法飛行が横行

「東京上空300メートル」は、毎日新聞の調査報道から生まれたドキュメンタリー映画だ。題名は、東京・六本木の米軍施設「赤坂プレスセンター」と、東京西部にある横田基地を往復する米軍のヘリコプターが、300メートル以下での飛行を禁じる日本の法令を無視する形で低空飛行している事実に由来する。高さ243メートルの都庁ビルの最上階より低い高度で米軍ヘリが新宿の高層ビル街を飛び回る映像は衝撃的だ。

映画は、在日米軍の基地の使い方や、米軍人の権利義務などを規定する日米地位協定が、米軍に特権を与え、日本側にさまざまな不利益をもたらしている現実をあぶり出す。そして、協定の見直しを求める動きは、いわゆる左派の人たちだけでなく、対米独立を主張する右派の間にも広がっていることを伝える。

映画で特に印象に残ったのは、横須賀で米兵の性暴力の被害を受けたオーストラリア出身のキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんが、「在日米軍は日本の法令を尊重する」となっている日米地位協定16条を、「法令を順守する」に改正するよう活動している姿だ。

「尊重する」と「順守する」では意味するところは大きく異なる。外国人の女性がこのように運動しているのに、これまで16条の問題点をほとんど認識していなかった自分に恥じ入るばかりだ。
映画「戦場0地点」「東京上空300メートル」で世界と日本の今を考える

「国のために戦う」日本人は13%

「戦場0地点」のプログラムには、チェルノフ監督のインタビューが掲載されている。最も心に刺さったのは、「この戦争は『進展がない』ようにも見えますが?」との問いに対し、「そこには同意しません。これは領土争いではなく『生存のための戦争』です。…ウクライナ人は生きるために戦っています」と反論した部分だ。ウクライナ人の彼にとって、そして多くの彼の同胞にとって、自らの存在を懸けた戦いであることを思い知らされた。

このやり取りを読んで、唐突に日本はどうなのかが気になった。1981年から実施されている世界価値観調査の最新版で、「もし戦争が起こったら国のために戦うか」という質問に対し「イエス」と答えた日本人は13.2%にとどまり、世界79カ国中断トツで最低だったという(ちなみに中国は88.6%、韓国は67.4%、米国は59.6%がイエスと回答)。80年以上戦争を経験していない日本で、いきなり「国のために戦うか」と問われても実感に乏しいだろうから、この結果について安易に評価することは控えたい。ただ、SNS上で飛び交う勇ましい言説との違和感は指摘せざるを得ない。

「東京上空300メートル」のキャッチコピーは「問われているのは、この国のあり方だ」。

その人の政治的な立ち位置にかかわらず、この2本の映画は、国のあり方を、そして自分と国の関わりについて、改めて考えるきっかけを与えてくれる。興味のある方は映画館に足を運んでほしい。

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