今夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)は公立校が9校出場しているが、そのうち4校は商業高校である。
高岡商(富山/4年ぶり23回目)
八幡商(滋賀/15年ぶり8回目)
佐賀商(佐賀/8年ぶり17回目)
大分商(大分/13年ぶり16回目)
かつて高校球界で栄華を極めた商業高校も、近年は全国的に苦戦が続いていた。
商業高校は復活の機運があるのか。今大会、15年ぶりに甲子園に帰ってきた八幡商のケースから紐解いてみたい。
【商業高校は誤解されている】
「入ってくる選手の質は、はっきり言って15年前とは全然違いますね」
そう語るのは、小川健太監督。柔和な童顔ながら今年で45歳、八幡商のOBでもある。かつては野洲の部長として、2012年夏の滋賀大会準優勝を経験した。
「いわゆる『Sランク』『Aランク』というレベルの選手は施設の整った私学や、寮生活を求めて県外の高校に進んでしまいます。ウチを選んでくれるのは『Bランク』の選手たちですね」
春の選抜で3回のベスト8進出実績がある八幡商。15年前に出場した夏の甲子園では、9回表に逆転満塁本塁打で名門・帝京(東東京)を破る伝説的な試合を演じた。そんな伝統校も、選手勧誘に苦戦する時期が続いていた。チームを預かる小川監督は、苦笑交じりにこう漏らす。
「皆さん、昔の八幡商の感覚でいらっしゃるので、結果が出ないと『何してんねん』というお叱りの声もいただきます。プレッシャーは常に感じます」
そもそも、なぜ商業高校に生徒が集まりにくくなっているのか。
だが、小川監督は「商業高校は誤解されています」と強く訴える。
「商業高校イコール就職のイメージがありますが、進学する生徒も多いです。指定校推薦が充実している商業高校だって多いですよ。資格試験で取得した実績を生かして、小論文と面接で受験できる大学もあります。中学校を回って募集活動する時は、その点を強調しています」
堅守が光るレギュラー遊撃手の山口琉希(2年)は、「文武両道」に惹かれて八幡商への受験を決めている。
「ただ野球が強いだけではなく、勉強もしっかりできる高校に行きたかったんです。八幡商なら進学に有利だし、就職の求人もたくさんくると聞いて魅力に感じました。県外の高校からの誘いもあったんですけど、地元の八幡商に行こうと決めました」
センターラインを固める小林大佑(2年)も「進路の幅が広がる」と商業高校の魅力を語る。簿記2級を取得し、現在は1級の検定に向けて勉強中だという。
「父が八幡商の野球部OBで、いろいろと学校について教えてもらいました。父の時代よりいい選手は集まらなくなっていますが、今の自分が甲子園を目指すにはいい学校だと思いました」
小林は身長165センチ、体重60キロの小兵である。
【明徳義塾中から八幡商へ来た理由】
チームの主砲である辻井煌大(こうだい/3年)は、かなり特殊な経歴だ。中学時代は明徳義塾中(高知)でプレー。しかし、高校はそのまま明徳義塾に進学しなかった。
「高校で通用する自信がなかったんです。そんな時に『地元で甲子園を目指せるところがあるよ』と八幡商の存在を教えてもらいました」
明徳義塾中では寮生活を送り、八幡商では自宅から通学している。辻井はそれぞれのよさがあったと振り返る。
「親元を離れて寮生活を送ったことで、仲間たちと密なチームワークを築けました。今は自宅から通っていますけど、近所の人や市内の人から温かい声をかけてもらって、『支えてもらっているな』と実感できます。この人たちのために野球をやろうと、原動力になっています」
名門から声がかからなかった選手たちが、どのようにして甲子園出場を勝ち取ったのか。キーワードは「守備」である。堅い守備で失点を防ぎ、粘り強く勝機を探る。
「選手たちは自分たちの能力をしっかり分析して、『できることは何か?』を整理しています。高校野球での勝ち方を理解して、実行してくれました」
戦い方を学んだチームがある。2024年夏に全国制覇を果たした京都国際だ。小川監督は「低反発バットでの勝ち方を気づかせてもらった」と明かす。
「5~6回は練習試合をさせてもらいました。投手が抑えて、守備でしっかりと守って、足を絡めて点を取る。京都国際さんから学ばせてもらいました」
投手陣を支えたのは、田上晴也(3年)、久保田渓五(2年)、高木大世(3年)の3投手。とくに田上は最速145キロを計測し、卒業後は強豪大学に進学予定の本格派右腕だ。
現在は身長183センチ、体重80キロと立派な体躯を誇る田上だが、大津市立日吉中の軟式野球部に所属した中学時代は、身長が170センチにも満たなかった。それでも、小川監督は田上をスカウトしている。
「お兄ちゃん(航/青森大)も大きかったし、お父さんも大きいから、彼もきっと大きくなるだろうと予測しました。
もうひとりの中心格である2年生左腕の久保田も、中学時代は彦根市立稲枝中の軟式野球部でプレーした。田上、久保田とも軟式出身の、まさにたたき上げの投手陣である。
滋賀大会では、昨夏の代表校である綾羽を準々決勝で破って勢いに乗った。準決勝では滋賀短大付に3対2で競り勝ち、決勝は彦根総合を6対2で破った。
【八幡商が踏み出した新たな一歩】
15年ぶりの甲子園。8月7日の健大高崎(群馬)との試合前、小川監督はこんな思いを語っている。
「昨日も練習していて、町の方からたくさんの声をいただきました。子どもたちも応援されている雰囲気を感じていると思います。今日は地元からたくさんの応援が来ると思うので、力に換えてもらいたいですね」
試合は先発した久保田がチェンジアップを駆使して、4回1失点と好投。中盤まで接戦が続いたが、5回裏に落とし穴が待っていた。エースの田上がリリーフのマウンドに上がると、制球が定まらずに一挙6失点の乱調。田上は「立ち上がりの課題を改善できなかった」と肩を落とした。
それでも、6回以降は「ストレートを張られていたので配球を変えた」と立ち直り、田上は無失点に封じる。8回二死からは3番手の高木がマウンドに上がり、甲子園出場の原動力になった3投手が揃い踏みを果たした。
試合は1対7で完敗。それでも、小川監督は「ここからですね」と前を向いた。
主将の桑原太暉は、後輩たちに望みを託した。
「2年生はベンチ入りメンバーも多く、能力の高い選手も多いですから。また強い八幡商を取り戻してもらいたいです」
地域に応援される、守りの野球を掲げる商業高校。そう聞くと、まるで昭和にタイムスリップしたかのようだが、アップデートは確実に進んでいる。
「強い八幡商」が今後も定着すれば、滋賀の高校野球界はますます盛り上がるはずだ。
菊地高弘●文 text by Takahiro Kikuchi










![Yuzuru Hanyu ICE STORY 2023 “GIFT” at Tokyo Dome [Blu-ray]](https://m.media-amazon.com/images/I/41Bs8QS7x7L._SL500_.jpg)
![熱闘甲子園2024 ~第106回大会 48試合完全収録~ [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/31qkTQrSuML._SL500_.jpg)