ワールドカップ明けの2026-27シーズン、選手の移籍はいつも以上に活発化するように見えた。ワールドカップは国別対抗戦だが、移籍シーズンのいま振り返れば、選手の品評会のような個人戦的な要素も含まれる。

そこでの活躍度を物差しに、選手は評価される。欧州サッカーの階段を昇ったり、下がったりする。

 ワールドカップで32強に終わった日本。チームとしてはいささか物足りない結果に終わったが、個人戦としてはどうだったのか。幕を閉じた欧州の移籍市場にその答えをうかがうことができる。ワールドカップを弾みにした選手もいれば、それが叶わなかった選手もいる。

 日本人で評価を高めた選手、プレーヤーとしての格を上げた選手はわかりやすい。パルマからアストン・ヴィラに移籍した鈴木彩艶である。セリエAの13位チームから、プレミア4位チームへの移籍である。2階級特進と言うべきジャンプアップである。さっそく先のアーセナル戦に先発出場を果たし、早くも正GKの座を掴んだかに見える。

1位・鈴木彩艶、2位に滑り込んだ中村敬斗...日本人選手の欧...の画像はこちら >>
 来週開幕するチャンピオンズリーグ(CL)への出場も確実視される。
今季のCL出場クラブに所属する日本人選手は、鈴木を含めて7人を数えるが、クラブの格と出場時間の可能性を天秤に掛ければ、伊藤洋輝(バイエルン)、遠藤航(リバプール)をしのぎ、日本人選手として1番上のレベルに立つことになる。

 鈴木のワールドカップにおける活躍がいま、あらためて想起される。32強を「物足りない結果に見える」と述べたが、鈴木がいなかったらそれさえ叶わなかった可能性がある。実際、選手としての格の上昇度で鈴木に迫る選手はいない。鈴木のひとり勝ちと言っていい状況に、日本サッカーの実情を垣間見る気がする。

 上昇度の高い2番目の選手は、市場閉幕後の9月2日(現地時間)、フランス国内の特例によりスタッド・ランス(フランス2部)からリヨン(フランス1部)への移籍が発表された中村敬斗だ。リヨンは昨季リーグ4位でCL出場権こそ逃したが、同リーグきっての名門。こちらもジャンプアップと言っていいだろう。次はここでどれだけ活躍できるかが焦点となる。

【プレミア移籍は「格上げ」】

 上昇の3番手はフェイエノールト(オランダ1部)からリール(フランス1部)入りした上田綺世になる。今季は両チームともCLに出場するが、リーグフェーズで消えそうなフェイエノールトに対し、リールは16強が狙えそうな力がある。そこでどれほど出場時間を伸ばせるか。

選手としての正念場を迎えていると言えるだろう。

 上田に続く選手は前田大然だ。セルティック(スコットランド1部)からイプスウィッチ(プレミアリーグ)へ。すでに左ウイングとしてスタメン級の扱いも受けている。健闘を讃えずにはいられない。UEFAランクで現在、断トツで1位を行くプレミアリーグでプレーすることはサッカー選手として格を上げたことを意味する。日本代表から外せない選手として太鼓判を押されたことになる。格的には久保建英(レアル・ソシエダ)、堂安律(フランクフルト)、伊東純也(ゲンク)らをしのぐ存在になったと言えるだろう。

 スポルティング(ポルトガル1部)から今季のプレミア昇格組であるハル・シティに移籍した守田英正も、ステップアップの階段を上がった選手に数えることができる。守田を日本代表に選ばない理由として、森保一監督は「5大リーグ」を強調した。スポルティングはその枠から外れているからだと、苦しい説明をしたが、プレミア所属の選手となれば、外すことはできなくなる。

 移籍組ではないが、坂元達裕にも同じことが言える。

ハル・シティと同様に今季、イングランド2部(チャンピオンシップ)からプレミアに昇格したコベントリーで右ウイングを張る頭脳派。このレフティも"外せない選手"になった。代表でポジションが重なる堂安、伊東に選手としての格で勝る存在になっている。森保監督がこれをどう扱うか。

 ワールドカップ代表組ではアンデルレヒト(ベルギー1部)からフライブルク(ブンデスリーガ)に完全移籍した後藤啓介も、わずかだが格を上げた選手と言える。

【"後退した感"があるのは】

 代表選手以外では、NEC(オランダ1部3位)からPSV(同1位)に移籍した佐野航大に注目が集まる。移籍が叶わなかったマインツ(ブンデスリーガ)の兄・佐野海舟より、少なくとも選手としての格は上がったことになる。チャンピオンズリーガーとしての活躍も期待できる。

 同様に森保監督がワールドカップメンバーから外した佐藤龍之介も飛躍を遂げた選手になるだろう。FC東京からバレンシア(スペイン1部)へ。バレンシアにかつてのような勢いはないとはいえ、出場機会に恵まれれば、代表チームに加えなければならない選手としての格を備えたことになる。佐野航大、佐藤に関していえば、欧州市場より森保評のほうが辛めだったと言える。

 スラビア・プラハ(チェコ1部)からボルシアMG(ブンデスリーガ)へ期限付き移籍で加入した橋岡大樹、さらにはヘント(ベルギー1部)からボルトン(イングランド2部)に移った伊藤敦樹も成功組と言える。

 イングランド2部(チャンピオンシップ)は、リーグとしていまや侮ることができない序列になっている。レベル的にはもっぱらUEFAランクで4位、5位ぐらいには入りそうだと言われている。森下龍矢(ブラックバーン)、松木玖生(サウサンプトン)、岩田智輝(バーミンガム)、平河悠(ブリストル)など、そこでプレーする選手をどう格付けするか。そこに昨季までセルティックでプレーした旗手怜央(バーンリー)も加わった。この移籍も、けっして降格には見えないのである。

 アヤックスからクリスタル・パレスへ移籍した冨安健洋は、これまでの経緯を踏まえれば昇格というより、失地回復と言ったほうが適当か。

 現状維持と言えるのはワールドカップ出場組では鎌田大地(クリスタル・パレス)、伊東(ゲンク)、田中碧(リーズ)、町野修斗(ボルシアMG)、鈴木唯人(フライブルク)、瀬古歩夢(ル・アーブル)、渡辺剛(フェイエノールト)、佐野海舟(マインツ)など。ブレーメン(サウサンプトンからのレンタル)から、このほどセリエAのカリアリでプレーすることが決まった菅原由勢もこのなかに含まれるだろう。

 逆に、"後退した感"を覚えるのは、小川航基(NEC→FC町田ゼルビア)、板倉滉(アヤックス→ボルシアMG)、塩貝健人(所属のヴォルフスブルクはブンデスリーガ2部へ降格)らだ。

 また、移籍が叶わなかった堂安(フランクフルト)や5シーズン連続で同じチームでプレーする久保(レアル・ソシエダ)、さらに谷口彰悟(シント・トロイデン)、鈴木淳之介(コペンハーゲン)らは、後退に近い現状維持に見える。

 そして遠藤(リバプール)だ。

出場時間の少なさはリバプール所属という格の高さと相殺しても懐疑的になる。格にこだわるあまり、実際にプレーしてこそサッカー選手であるという本質から逸脱している格好だ。現役選手としていい晩年を過ごしてほしいと思う。

 移籍は選手としての生命線。格を高める場であり、勢い、弾みをつけるまたとない機会になる。失敗すれば当然、勢い、弾みは失われる。代表選手を招集する際のポイントでもある。森保監督は、9月の代表戦(ウルグアイ戦、ベネズエラ戦)では「その時のベストメンバーを選ぶ」と言っているが、「ベスト」の定義のなかに、旬の選手をより多く加えてほしいものである。

杉山茂樹●文 text by Shigeki Sugiyama

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