太平洋の奥底に開いた海溝、そこから突如現れた巨大怪獣の群れ。大都市をブッ壊して荒れ狂う怪獣たちと戦うため、人類は〈イェーガー〉と呼ばれるロボットを開発した。
環太平洋諸国(パシフィック・リム)がそれぞれの威信をかけたイェーガー軍団と、ビルよりデカいモンスターの群れが、いま人類の命運をかけて激突する!

巨大怪獣と巨大ロボット。それぞれ単体でも銭が取れる題材だ。これらを同じ映画にブチ込んだらどうなるか。例えるならば、みんなの大好きなカレーの上にみんなの大好きなハンバーグがドンと載っているようなものだ。恐ろしいのはそのハンバーグカレーが開幕早々出てくるということ。前述のような物語の設定は冒頭のナレーションでさっさと処理される。いつ怪獣やロボが出てくるかと気を揉む必要はない。いきなり出てくる! しかもその後130分の上映時間、そんな大バトルがこれでもかと描かれる。ハンバーグカレーおかわりである。盛りはどんどんデカくなり、最終的にはトンカツなども載ってくるのだから狂気の沙汰と言うほかない。

繰り返し描かれるロボと怪獣の戦い、そのほとんど全てが素手の殴り合いだ。コマーシャルにも登場するロボのロケットパンチ。
あるいはその辺の港に浮かんでいたとおぼしきタンカーで怪獣のド頭をフルスイングするロボ。デカくて悪いものが出てきたら、とりあえずブン殴る。このストロングスタイルなアクション描写に、涙と変な笑いが止まらなくなる。

ロボの操縦は『ジャンボーグA』やら『闘将ダイモス』といった古の日本製テレビ番組でお馴染みの、パイロットの動作がそのままロボに伝達される方式で行われる。いま思えば、これは俳優たちのアクションをそのままロボの動きとして見せられる素晴らしい発明だった。30年以上前に日本で確立されたこの方法を、監督ギレルモ・デル・トロが迷わず採用したことは疑いようがない。

そうしたことに代表されるように、日本の特撮やアニメ作品からの影響ばかりが取り沙汰されがちな作品ではある。しかし、あれこれ元ネタ探しをするよりも、メキシコ人のデル・トロが自身幼いころから見続けてきたという日本のこども番組やこども映画、それを全部食って咀嚼した結果、あのデル・トロの巨体からドカンと出てきた成果物として『パシフィック・リム』は素直に観たい。何がどれとは言えないが、何だか懐かしい感触がする。そしてその懐かしい感触が超ド級のスケールで帰ってきたというこの事実。今日まで生きていて良かった!

何しろそんなことより重要なのは、映画の基調がだいたい精神論にあるということだ。2時間強の映画のなかで、海の底から次々に現れる大怪獣は際限なく強くデカくなっていく。
滅多矢鱈に進化するモンスターに、じゃあ人類が何をもって対抗するのかといえばド根性なのである。

怪獣と戦う主人公たちは決して「俺たちは何のために戦うんだ……」とかいったような、とって付けたような葛藤を見せない。主人公は映画が始まるなりちょっと挫折するが、すぐに自分のすべきことを見つけて立ち上がる。実に潔い映画である。そもそも何のために戦うって、目の前にクソ馬鹿でかい怪獣が迫っているのだ。これを打倒しなければいよいよ世界が滅びてしまう。だからやれるだけのことをやるしかない。たとえば怪獣をブン殴るとかそういうことをである。そんな単純に熱い映画だ。

物語のシンプルさと同様に見せ方も分かりやすい。CGで作られたアレコレの情報量が多すぎて、画面上でいったい何が起こっているのか全然分からん! ということがない。監督デル・トロは『パンズ・ラビリンス』やアメコミ・ヒーロー映画『ヘルボーイ』2部作で異形のものに寄り添う優しさを見せてきた。
だが今回はデカいものがボコスコ殴り合うことの気持ちよさに針を振り切ってみせる。もし本作に人間ドラマが欠けているとか、そのせいで物語に深みがないとかいう批判をする人があれば、あんたはそういうアレコレを大怪獣対巨大ロボットの映画で本当に観たいのかねと問いたい。

そんなわけで夏休みは、この特盛ハンバーグカレーを3Dで、しかも1センチでも大きな画面で堪能しよう。夏休みなんかないわ! と心が折れそうになっている方には尚更お薦めします!
(てらさわホーク)
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