「世界が注目するアニメ制作スタジオが切り開く未来」
Vol.5 ポリゴン・ピクチュアズ
世界からの注目が今まで以上に高まっている日本アニメ。実際に制作しているアニメスタジオに、制作へ懸ける思いやアニメ制作の裏話を含めたインタビューを敢行しました。
ポリゴン・ピクチュアズ代表作:『GODZILLA 星を喰う者』『BLAME!』『シドニアの騎士』『亜人』『ロスト・イン・オズ』『トロン:ライジング』『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』、他多数。
港区南麻布にあるポリゴン・ピクチュアズのエントランス
エミー賞受賞のトロフィーと盾。過去5度の受賞実績を誇る。
スタジオ内部。CG制作やデジタルアートなど工程別に座席を配置。なお作画用の紙は存在しない。
カラフルな仕切りの中で集中して作業することができる環境
スタジオ内で編集まで一貫して制作可能な体制を組んでいる
ポリゴン・ピクチュアズは、「誰もやっていないことを圧倒的なクオリティで世界に向けて発信していく」をミッションとして掲げるスタジオだ。
2014年に発表した『シドニアの騎士』で、日本と世界のアニメーション業界を揺るがした。セルスタイルのアニメーションがCGになって動き、マンガの表現もデジタルになって取り込まれる全く新しいスタイルだったからだ。その後も、『亜人』、『BLAME!』などを制作し、この路線を確立させる。
一方でポリゴン・ピクチュアズは1983年に設立され、現存するCGアニメーションスタジオで、世界で最も長い歴史を誇る。
いまも挑戦を続けるポリゴン・ピクチュアズで取締役副社長も務める守屋秀樹プロデューサーに話を伺った。
世界で最も歴史あるCGアニメーションスタジオ
――ポリゴン・ピクチュアズの成り立ちについて教えてください。
守屋秀樹プロデューサー(以下、守屋)
1983年に設立して、今年でちょうど設立35年です。現存するCGアニメスタジオの中では世界で一番歴史が長いです。長さだけで言えば、ピクサーよりも古いんですよね(笑)。
当初はCGツールを作るなどの活動をしていましたが、90年代には当社で企画した『ロッキー×ホッパー』がキャラクタービジネスで大成功しました。
でも自社企画ばかり優先して投資してきた結果、それは長く続かず、経営的な危機に直面。それで2000年頃から自社企画以外の仕事も始めるようになったんです。
その中でディズニーのTVシリーズ『プーさんといっしょ』を制作したことがきっかけになり、それ以降、ハズブロスタジオの『トランスフォーマー』シリーズ、ルーカスフィルムの『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』、ディズニーからはプーさんに続いて『トロン:ライジング』の発注があり、経営も安定するようになりました。
ちなみに『トランスフォーマー』シリーズは、これまでに100話以上も制作してきましたね。
――最近では、Amazonが企画した『ロスト・イン・オズ』の制作にも参加しました。
守屋
ポリゴン・ピクチュアズが日本の他のスタジオと違うのは、90年代にハリウッドの人たちも含めていろんな人がポリゴンに出入りしていたことでしょうか。そのネットワークのなかで海外のシリーズを作るようになれたんだと思います。
――2014年には日本的なルックのCG技術で『シドニアの騎士』を作り、その後に『亜人』、『BLAME!』、『GODZILLA』三部作と続きます。
守屋
日本にはセルルックCGアニメを作る会社が何社かありますが、近年では世界で一番多くの作品数を作ってきたスタジオだと思います。
『シドニアの騎士』と『亜人』は両方合わせて50話ですし、『山賊の娘ローニャ』も26話あって、いまは『蒼天の拳 REGENESIS』をやっています。
海外作品ですが、『トランスフォーマー ロボッツインディスガイズ』や、最近発表した最新作『スター・ウォーズ レジスタンス』も2DルックのCG作品です。
映画は『BLAME!』に加えて、『GODZILLA』三部作も作りました。僕らのセルルックCG技術も、この5年でだいぶ成熟してきたと思います。
――海外向けで手堅いビジネスをしていたのですが、それなのに競争の激しい日本のアニメに参入するんだと驚きました。
守屋
理由の1つは、海外の市況ですね。2010年ごろ、当社は海外のTVシリーズが仕事の大部分を占めていました。
でも、そんなCGを使った高予算の大型企画は世界にもそれほどなく、2012年後半になると、アメリカでは次の波として2Dのコメディーなど低価格のアニメ企画が多くなってきた。
「このままでは僕らの仕事はなくなってしまうかもしれない」という危機感がありました。
もう1つの理由として、ちょうどその頃に『トロン:ライジング』で日本的なアニメーションのルックを技術開発していたことがあります。
そこで「この表現を駆使して日本的なルックの作品を作って、自社が主導する企画、そしてライツビジネスに再チャレンジできないか」と考えていました。
さきほどの海外市況の件もあって、最終的に「日本のアニメに進出してみよう」とこのころ決断したんです。早速、色々な国内のアニメ関係者と話をしはじめました。けれども実際はなかなかスムーズに「制作決定!」とはいかなかったんです。
当然ですよね。当時は他スタジオの制作作品も含め、CGの大人向けアニメはなかったので、「どんな見た目になるの?」「CGで売れるの?」と何度も聞かれ、時間もかかりました。
それでも「分らないけどきっといいものができるから、ポリゴンを信じてほしい」としつこくお願いをし続けていました(笑)。
縁あって最終的にはキングレコードさんがアニメ制作の大部分の出資を引き受けてくださって、出来上がったのが『シドニアの騎士』なんです。
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『シドニアの騎士』の挑戦 そして『亜人』から『GODZILLA』まで
(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
――『シドニアの騎士』の作品選定はどういったかたちだったのですか?
守屋
まず知り合いをつたって講談社さんに相談しました。講談社さんからは「ポリゴンは『トランスフォーマー』や『スター・ウォーズ』のアニメシリーズを作っている実績があるから、日本の深夜アニメに参入するなら、SFロボットものを第1弾にするのが視聴者は分かりやすいよね」というアドバイスをいただきました。
ポリゴンとしても「世界で受け入れられる作品を作りたい」というのがあって、海外でも人気の弐瓶勉先生のマンガ作品『シドニアの騎士』をアニメ化するのがベストだという判断になったんです。
ちなみに当時アニメ化の許諾をいただくために、「セルルックCGで深夜アニメのシリーズ作品を作るのは初めてなのですが、ポリゴンを信じてアニメ化を許可してください」という無茶な話を、原作者の弐瓶先生にもしたんです(笑)。
シドニアで副監督を務めた瀬下寛之さんや、プロダクションデザイナーの田中直哉さんが休み時間に描いてくれた、大量のシドニアのスケッチをご覧いただき、なんとか熱意を伝えてアニメ化の承諾をいただきました。
――『シドニアの騎士』では、日本で初めてNetflixで配信をしたことも話題になりました。
守屋
2012-13年当時、日本の一般的な2Dアニメ作品の海外ライセンス販売の金額は、あまり高くありませんでした。Netflix ジャパンもAMAZONでの配信などもなかったころで、各国での日本アニメの売り先はほぼ決まっていたんですね。
『シドニアの騎士』は、当社も出資し、アメリカのセールス窓口を担当することになっていました。
ポリゴンはアニメのライセンス活動の実績もない代わりに、しがらみもない。そこで、これまでと違ったアプローチをして、大きなマネタイズができないか検討しました。
そして「アメリカではNetflixという配信サイトが凄く伸びているらしい。
このときは、それまでに培ったアメリカの人脈が生きました。何人かを経由して、Netflixの方と会って直接話をできるチャンスを得たんです。
そうしたら担当者は僕らが制作した『トロン:ライジング』をよく知っていて、「これからアニメに力を入れていきたいし、ポリゴンの制作クオリティは信頼している」と言ってくれました。
こうして『シドニアの騎士』は、Netflixが欧米地域をまとめて契約した第1弾のアニメになりました。
――『シドニアの騎士』の後に『亜人』の制作と続きます。
(C)桜井画門・講談社/亜人管理委員会
守屋
シドニアは制作途中でしたが、キングレコードさんや講談社さんにシドニアの試作映像をご覧いただいたところ、感動してもらえまして、『亜人』の話につながったんです。
『亜人』は場面転換の多い現代劇のロードムービーで、CGで描くには大変な作品です。でも、日本アニメでは新参者の我々ですから、シドニアだけで終わらせないように連続でリリースしていく必要があり、なんとか社内を説得し制作をすることになりました。
一方、『シドニアの騎士』シーズン2の監督作業で忙しかった瀬下さんにもお願いして、総監督になってもらいました。
瀬下さんとは「世界各国で支持されるように、ドキュメンタリータッチのサスペンスアクションとして描くのがいいんじゃないか」といった作品コンセプトの相談をしましたね。
いわばアメリカのTVドラマ『24 -TWENTY FOUR-』シリーズのような緊張感のある雰囲気のアニメにしたかったんです。
――2014年には、宮崎吾朗監督の『山賊の娘ローニャ』も制作していますよね?
守屋
『シドニアの騎士』を制作中のころ、スタジオジブリから連絡をいただきました。元ジブリで『もののけ姫』などの美術監督を務められた田中直哉さん、また、『ハウルの動く城』などのデジタル作画監督を務められた片塰満則さんが当社にいたこともあって、スタジオジブリの鈴木敏夫さん、宮崎吾朗さんに声をかけていただいたんです。
宮崎吾朗さんが「CG作品にチャレンジしたいので手伝ってほしい」と。当社としてはジブリ的なタッチをCGで表現するのは難しそうだけれど、『亜人』のとき同様、「とりあえずチャレンジしてみましょう!」と制作を決めました(笑)。
本作は「制作協力:スタジオジブリ」となっていますが、実際、プロダクションデザインなどジブリさん主導で進めています。今思えば、スタジオジブリと他のスタジオが協力して作られた作品は日本でも多くないので、思い出深い作品になりましたね。
こうしてシドニアも含めて、2012~14年ごろには、日本のセルルックアニメーションシリーズをほぼ同時に3本作ることになったわけです。
さらに弐瓶勉先生原作の『BLAME!』の制作が決まり、『シドニアの騎士』をご覧いただいた東宝さんが声を掛けてくれて『GODZILLA』三部作の制作も決まりました。
(C)2018 TOHO CO.,LTD.
守屋
短期間で日本的なセルルックCG作品制作が、当社のアニメーション事業の軸になったわけですが、過去に『プーさんといっしょ』がきっかけとなって、海外TVシリーズを多く制作させていただいたように、『シドニアの騎士』きっかけで多くの作品に携われるようになって本当に良かったですね。
守屋
そういえば去年、セルルックCGで嬉しかった話がありました。元ポリゴンのスタッフがピクサーで働いているのですが、「ピクサーの試写室でポリゴンが制作した『BLAME!』をセルルックCGの勉強に放映したい」と相談してきてくれたんです。
「僕らがピクサー作品と同じものを作るのは難しいけど、逆にピクサーが作れないポリゴンの特徴は何か」と考えることは何度かあったので、この出来事はヒントになりました。
(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
「コミックやアニメなどの日本で培った文化を制作マインドに持っていて、かつグローバル意識の高いCGスタジオ」という立ち位置は、世界各国の制作スタジオの中でポリゴンのひとつの特徴と考えており、これからも強化していきたい点ですね。
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誰もやってないことを圧倒的なクオリティで世界に向けて発信
――たくさんの作品が出てきましたが、これを制作するスタジオはどういった体制ですか?
守屋
スタッフ全体では250~300人くらいいまして、マレーシアにもSilver Ant PPIという子会社スタジオを持っており、そこで70-80名ぐらいのスタッフが働いています。
東京とマレーシアはグループ企業なので、双方で作ったデータを数時間後には作業ができるようなシームレスなデータシェア環境を構築しています。
東京では社員が200人ぐらい。加えてプロジェクトごとに契約する業務委託の人が50~100人ぐらいおりまして、日本では最大規模のCGスタジオになっています。
細かくいうと、プロデューサーは僕も含めて10人ぐらい、ラインプロデューサーやプロダクションマネージャーなど制作管理に関わるスタッフ40人ぐらいで大小あわせて同時に20~30案件をその中で回しています。
制作管理のセクションは他のスタジオに比べて人数が多いと思いますが、当社は社員も多く、1日の遅れが経営的なインパクトにもつながるので、日々進捗を細かく追って、常に制作スケジュールを遵守するように心がけています。
また、R&D/システムを担当するテクノロジー部門が20名くらい、総務や財務などの管理部門が10名くらいですね。
それから海外からの仕事が全体の半分ぐらいあるのもあって、トランスレーターチームが10人くらいおり、常にメールやテレビ会議で通訳する体制を取っています。
アーティスト系のスタッフは時期にもよりますが、業務委託の方も含めると150-180人くらいでしょうか。
当社の特徴としては、他のスタジオの場合だとスタッフはプロジェクトごとに完全に分かれて制作にあたることが多いのですが、僕らは部門ごとに分けています。例えば3Dモデル部門では、全ての作品の3Dモデルを担当するわけです。
――作品ごとの体制ではないんですね。
守屋
もちろんプロジェクトごとにチームはありますが、制作を工程別/部門別に分けることで、それぞれのプロジェクトで得たノウハウを次の仕事に活かせるようにしています。
また、可能な限り、アーティストには色々な作品に関われるようにしてあげたいと考えていますから、他の仕事が見える環境のほうが、アーティストの将来を考えてもいいんです。
実際、例えば『トランスフォーマー プライム』や『山賊の娘ローニャ』をやっていたアーティストが、次の作品として『GODZILLA』をやっていたりします。
アーティストにはスキルアップをしたい人が多いので、いろんな作品に関われるチャンスがあるほうが各人のモチベーションは高くなりますね。
スタジオの規模がそれなりに大きくないと、色々な種類の案件は受注できないので、こうした仕組みはそもそも作れません。これは我々の強みのひとつでしょうね。
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挑戦を続けるポリゴン・ピクチュアズ
――新しい試みとしてVRにも力をいれています。
守屋
講談社さんと「講談社VRラボ」という会社を立ち上げました。
ですが、新メディアとしてVRだけを考えているのではありません。今年はグリーさんとも資本業務提携を結び、様々なメディアに3Dモデルを展開できる仕組みの開発に着手しました。
僕らは3Dで作品を作っているので、この強みを、もっといろいろな形で活かしたいんです。例えばアニメ用に作った3Dのキャラクターモデルは、ゲームやVRなどにスピーディーに転用できるんじゃないかと。
最終的には、3Dモデルを1つ作ったら、ワンタッチで各メディア用に変換できるようなシステムを開発する予定です。
これまで複数のメディアでコンテンツ展開するとき、大きなタイムラグが発生することが課題でした。
例えば、アニメが放送されて、その後ゲームの制作が決まったけど、ゲームが発売できたのはアニメから2年後だったといったケースは多い。
3Dモデルを可能な限り活用して、こうした複数のメディアでのコンテンツ展開を短期間でおこないたいと思っているんです。
将来的には、グリーさんと共同開発するシステムを活用して、VRを含む新メディアやゲーム、3Dキャラクターを使ったライブ活動など、アニメの枠を超えたコンテンツ展開をしていきたいと考えています。
――最後に、世界中のアニメファンにメッセージをお願いします。
守屋
おそらく皆さんはスタジオジブリやピクサーの作品は、複数の作品を観ていらっしゃると思います。もし、この記事をきっかけに「ポリゴン・ピクチュアズ」というスタジオに興味を持ってもらえたのなら、例えば『シドニアの騎士』『GODZILLA』は観たことがあるという方は、是非、『BLAME!』『ロスト・イン・オズ』など、我々が制作した他の作品も観てもらいたいですね。
どの作品も日々のトラブルを乗り越えて、何か新しいチャレンジに挑戦するように努力して作ってきた大切な作品ですので。
現在、アニメ、ゲーム、イベント、VR、VTuberと、僕らの仕事も垣根を越えて広がってきています。
会社のホームページでも随時発表していきますが、当社が関わる様々なプロジェクトに注目してもらえるとうれしいですね。
僕らのビジョンには「誰もやってないことを圧倒的なクオリティで世界に向けて発信する」というのがあるんです。
今後もいろんなスタイルに挑戦して、ポリゴン独自の表現で、世の中が驚くような映像を生み出していきたいですね。
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