何と9年ごしの重版だそうである。
名古屋出身の論客、呉智英氏が2017年に刊行した『真実の名古屋論』がなぜ今また注目されているのか? それはひとえに氏が本書で完膚なきまでに叩きつぶしたはずの「トンデモ名古屋論」がいまだはびこっているから。
名古屋に住む筆者からすると、むしろ事態は9年前よりも悪化しているとすら感じられる。SNSでは根拠のない名古屋叩きが日々発信され(最近では「歩き方がキモすぎる」という意味不明のポストまであった)、信ぴょう性に乏しい名古屋めしパクリ説をなぜか地元メディアが何度もまことしやかに取り上げ、ネットニュースでは印象操作とすら思える名古屋下げ(昨年目立ったのは「名古屋インバウンドひとり負け」「インバウンド空白地」、今年に入っては「ラーメン空白地」などの見出しの記事)報道がくり返されている。
そんな憂うべき状況も、本作を読むと悲しいかないたしかたないと思わざるを得ない。事実に反するトンデモ名古屋論が幅を利かせている状況を、本書は「知の怠惰であり、知の堕落」と断じ、その原因を「悪口を言い合いながらゲラゲラ笑える関係が一番健全」なのに「それを一律に禁止する現代のおかしな『良識』」だと看破している。
ところが、ここに書かれた問題が解決するどころかどんどん深刻化していることは、ネットニュースやSNSに日々接している人であれば否応なく実感させられるだろう。つまり、トンデモな論説は日本中、いや世界中で飛び交い、日々野放図に拡散している。もともとその手の風説を流布されてきた名古屋が、いっそう悩み深い事態に直面しているのは当然といえば当然なのだ。そして、そんな世の動向の中、9年前に書かれた本書は古びるどころかますますタイムリーになっているのである。
◆「トンデモ名古屋論」にはこんないい加減なものも!
本作でやり玉に挙げられているトンデモ名古屋論には例えばこんなものがある。
大名古屋ビルヂングの「大」は名古屋特有の過剰な郷土愛の表現、「ビルヂング」という表記は名古屋の田舎臭さや後進性の象徴である(実際には、地名の上に「大」をつけるのは名古屋特有の習慣ではなく、各地の百貨店で「大北海道物産展」の類いがあるし、東京も「大江戸」「大東京」などという。ビルヂングは三菱地所のビルの共通名で日本中の主要都市に何百棟というビルヂングが建っている)。
愛知県庁舎は名古屋城を模してデザインされた異様な建物(帝冠様式と呼ばれる昭和初期に生まれた和洋折衷の様式で、神奈川県庁舎、東京の九段会館も同様の様式の建築)。
名古屋の嫁入りは派手。嫁入り道具の豪華さを近隣にお披露目して誇示する風習がある(昭和30年代までは全国で見られた。都市部ほど早く廃れたが、名古屋は一戸建ての住まいも多く、こうした嫁入り風習が比較的最近まで残った)。
名古屋には花泥棒と呼ばれる風習があり、開店祝いの花輪や花台から通りすがりの人たちが花を勝手に持ち帰る。名古屋の人は基本的にただでもらえるものが大好きなのだ(花盗みは全国的に見られる。そもそもただでもらえるものが嫌いな人がたくさんいる地方があるのだろうか)。
名古屋は文化不毛の町。なるべくしてなったもので、理由のひとつは市内に川がないからだ(!)(誰がどこで何を根拠に言い出したのか分からない。川がないから説にいたっては、名古屋の市街地にも郊外にも川は流れている)
◆フェイクニュースや陰謀論が世に蔓延る構造と同じ!
これらのトンデモ名古屋論は、名古屋で目にして奇異に映った事象を、他地方にはないことなのかを検証することなく名古屋特有の風変わりなものと決めつけ、それがまた裏を取ることなく再生産され、いつの間にか定説化したものが大半だ。
そして、なぜ名古屋にまつわる誤った俗説が多いかといえば、それは地元のマスコミが反論や批判をせずに何の根拠もない話に納得してしまっているから。加えてこれらの俗説をテレビや週刊誌など中央のマスコミも盛んに取り上げ、それはひとえに名古屋が「からかいやすいから」。
このように著者は、当の名古屋の安易な報道のあり方や、名古屋人のおよび腰な姿勢にも原因の一端がひそんでいると論じている。
そして、冒頭にも記したようにこれは名古屋に限った話ではない。名古屋に関する嘘やデマがまかり通っているのは、本書カバーにある通り「フェイクニュースや陰謀論が世に蔓延っている状況と同じ」なのだ。そして、あとがきにあるように「トンデモ名古屋論の背景には日本を覆う知的文化継承の暗闇が感じられる」。本書が今あらためて求められているのは、こうした現象が歯止めなく進行しているからに違いない。
◆「通説や俗説を疑うこと」の楽しさを知る本
しかし、希望はある。氏はまえがきで本書の狙いをこう記している。
「意外な事実を知ることができ、歴史や文化を見る目が鋭くなる」「通説や俗説を疑うことの楽しさを知る本である」「なんとなく通用している俗論を徹底的に批判することが極上の知的エンターテインメントであることを読者に知らしめる本なのである」。
決してよい方向へ向かっているとは思いがたい世の中ではあるが、そんな目的をもって著された本書に光が当たるということはすなわち人々の知への欲求は廃れていないということでもある。
名古屋はしばしばリトルニッポン=日本の縮図、と称される。都市部と地方部が適度に混在し、古くからの平均的な日本人のメンタリティや生活様式が守られ残されている土地だからだ。
つまり、名古屋を知ることは日本を知ることにもつながる。知的エンターテインメントを楽しむ気持ちで本書をめくれば、名古屋を通して、トンデモ論に惑わされず、正しく歩む道筋を見つけられるのではないだろうか。
文:大竹敏之
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