球界では、東北楽天ゴールデンイーグルスのオーナーで楽天会長兼社長の三木谷浩史氏とオーナー会議で再び激突するのではないか、と早くも話題になっている。
2011年11月、DeNAはそれまで4年連続最下位だった横浜ベイスターズの株式をTBSホールディングスから取得し、新生ベイスターズの運営に乗り出したが、その際、DeNAのプロ野球運営参入に猛反対したのが三木谷氏だった。三木谷氏は楽天の秋季キャンプを視察した際に、次のように持論を展開した。
「プロ野球の名前を使い、子供たちに課金システムがあるモバイルゲームをプロモーションしていいのか。(DeNAが運営する交流サイト『モバゲー』をめぐっては)被害者も出ている」
11年12月1日に開かれたオーナー会議で、三木谷氏の主張は他のオーナーの賛同が得られず、DeNAのプロ野球参入が承認された経緯がある。●亀裂が深まった原因
当時、参入反対の理由について三木谷氏は「自分の正義感」と説明していたが、あまりに執拗な反対ぶりに、それを額面通りに受け取る向きは少なかった。
反対の理由のひとつとしては、DeNA のライバルであるグリーへの肩入れが指摘されていた。グリーの創業者、田中良和氏は楽天の出身であり、グリーが株式会社となる際には楽天が出資するなど、両者の関係は近い。
オーナー会議でDeNAの新規参入が正式に認められるかどうか瀬戸際の11年11月、グリーはDeNAに対して取引妨害を理由に10億円を超える訴訟を起こした。田中氏は訴訟会見の席上、DeNAのプロ野球の参入について「違法行為を行っている会社が、公に認められることに関して危惧している」と痛烈に批判した。そのため、「DeNAの参入阻止に田中氏が協力した」ともいわれた。
また、南場氏は1990年、三木谷氏は93年に米ハーバード大学でMBA(経営学修士)を取得するなどの間柄で関係は良好とされてきたが、「週刊朝日」(朝日新聞出版/2011年11月11日号)は「ある事業を巡って反目し、今は口もきかない」と報じている。
その「ある事業」とはソーシャルゲーム事業を指しているとみられている。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で苦戦していたグリーが、生き残りをかけて転進したのがソーシャルゲームだった。07年5月に配信を開始した初のモバイルソーシャルゲーム「釣り★スタ」が大ヒットし、携帯電話向けゲームの課金システムで急成長を遂げる。
09年2月には、DeNAも「釣りゲータウン2」という釣りゲームの配信を開始したが、グリーは「釣り★スタ」に酷似しているとしてDeNAに配信差し止めと損害賠償を求めて提訴した。1審の東京地裁でグリーが勝訴、2審の知財高裁はDeNAが逆転勝訴した。最高裁は13年4月、グリーの上告を棄却し、グリーの敗訴が確定した。この訴訟が三木谷氏と南場氏の間の亀裂を深めた原因になったとゲーム業界ではみられている。●南場氏、経営トップ復帰との観測も
南場氏は11年5月、「病気療養中の夫の看病に専念する」との理由で、社長から取締役に退き、守安功氏が社長に就任した。これまで南場氏が表舞台に出ることはなかったが、昨春に夫が病気から回復したためフルタイムの現場復帰を宣言した。復帰した背景には、足元の経営が揺らいできたことに伴う危機感がある。
これまでライバル関係にあったグリーとDeNAも、12年にコンプガチャをめぐり消費者庁から景品表示法違反と指摘され社会問題化すると、利用者が激減した。
さらに、台頭するスマホゲームでは「パズル&ドラゴンズ」のガンホー・オンライン・エンターテイメントに先行されて苦戦し、DeNAとグリーは従来型の携帯電話向けゲームからスマホへの転換が遅れた。
そこでDeNAは現在、ゲーム頼みの事業構造からの脱却を急いでいる。今年8月、東大医科学研究所と共同で遺伝子検査サービスを始め、その旗振り役を務めているのが南場氏だ。DeNAは南場氏が創業した会社で、同氏が13.0%の株式を保有するオーナーだが、現在の会社でのポジションは一介の取締役でしかない。来年の株主総会で代表権を持つ会長か社長に復帰し、DeNAのさらなる成長に向けて陣頭指揮を執るとの観測も流れている。そうした経営トップへの復帰の一環としてベイスターズの球団オーナーへの就任が浮上したといえるが、「オーナー会議で南場氏と三木谷氏が激しいやりとりをすれば、結果として球界活性化につながるのでは」(球界関係者)と期待する向きもある。
(文=編集部)