東京を中心に不動産価格が高止まりしている。住宅コンサルタントの寺岡孝さんは「この高騰は1980年代のバブルとは構造的に異なり、価格が大きく下がることは期待できない。
そのため、マイホームの購入を待っても有利にはならないだろう」という――。
■下がるタイミングを待っていても無駄
「ここまで高いなら、いずれ下がるはずだ」
住宅購入を検討しながら、高止まりする価格を前に立ち止まる人は少なくないでしょう。
東京都では中古マンションの平均価格が1億円、首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)でも7000万円を超え、「バブル」という言葉が飛び交います。
しかし、現実はより冷徹です。価格は下がるどころか、構造的な要因によって高値圏で硬直化しています。
いま市場で起きているのは、単なる価格の乱高下ではありません。
これは、「価格が下がらないまま、購入できる層だけが急速に淘汰されている」という、市場による過酷な選別であるといえるでしょう。購入を先送りにするほど、あなたの相対的な立場は弱体化していく――これが、今の住宅市場の本質です。
「待つべきか、今買うべきか」という問いは、もはや意味をなさない時代です。重要なのは「市場がいつ下がるか」ではなく、「あなた自身が、今の価格帯で資産を維持し続ける耐久力を持っているか」です。
本稿では、独立系住宅コンサルタントの視点から、この構造の本質を解き明かし、購入判断に必要な思考軸を提示します。
■「令和のバブル崩壊」が起きない理由
多くの人が今回の価格上昇を「バブル」と呼び、調整局面を期待します。
確かに、2010年代後半から続く都市部のマンション価格上昇は、一見バブルのように映ります。
しかし、1980年代のバブルと決定的に異なる点があります。当時の価格上昇は投機マネーの流入が主因でしたが、今回はコスト構造の変化という「実需的な要因」が根底にあります。
① 供給側は「値下げ」ではなく「供給絞り」を選ぶ
デベロッパーにとって、今や「安く作って数で稼ぐ」モデルは完全に崩壊しました。都市部の用地取得は競争激化で困難を極め、資材費・人件費は2020年以降、驚異的なペースで高騰し続けています。建設現場の人手不足は深刻で、特定技能制度の拡充でも追いつかない状況が続いています。
デベロッパーにとって価格を下げることは、ブランド価値と収益性を同時に毀損する自殺行為。売れ行きが鈍れば、彼らは価格を下げるのではなく「供給を絞る」という戦略をとります。実際、首都圏の新築マンション供給戸数は、ピーク時の半分以下まで落ち込んでおり、これが、市場で価格が下がらない最大の構造的理由といえます。
■都内・新築なら「年収の18倍」が必要
② 購買力による「静かな脱落」が続く
市場の調整は、価格の下落という形ではやってきません。高騰する価格についていけない層が、検討リストから静かに脱落していくことでバランスが取られているのです。
これはデータにも表れていて、購入者層の年収分布は年々高所得側にシフトしており、「中間層の住宅取得困難化」が加速しています。

東京カンテイの調査では、新築マンションの年収倍率(物件価格÷平均年収)は全国平均で2023年に集計開始以来、初めて10倍を突破し、2024年には10.38倍と8年連続で拡大しました。
東京都単体では17倍に達しており、年収600万円世帯が都内の新築マンションを購入しようとすれば、年収の18倍超の物件を買わざるを得ない計算になります。つまり、「購入できる層だけが市場に残る」という構造は、この数字が物語っています。
待機期間中に起きるのは、市場の修正ではなく、インフレと住宅ローン金利の変動による「あなたの購買力の相対的な低下」といえます。
仮に5年間様子を見ている間に、物件価格が横ばいでも、インフレで手取りの実質価値は目減りし、金利上昇でローン返済額は増える。「待てば安く買える」という前提は、もはや成立はしません。
■金利上昇は追い風にはならない
③ 「金利上昇」は本当に価格を下げるか
「日銀が金利を上げれば不動産価格が下がる」という論も根強くあります。確かに金利上昇は購買力を下げますが、前述のコスト構造の変化は金利とは独立した要因であるため、仮に金利が上昇しても、デベロッパーは値下げではなく供給削減で対応する可能性が高いはずです。
金利が上がれば「欲しくても買えない人」が増えるだけで、価格そのものは大きく動かないシナリオが現実的といえます。
今の市場において合理的な判断を下せるのは、冷静な自己分析が完了している人だけです。
これから解説する3つの条件をクリアしていなければ、購入は避けるべきです。これらは「理想論」ではなく、現在の価格水準と金利環境を踏まえた、最低限のリスク管理の基準です。

■「いま家を買ってもいい人」3つの必須条件
条件1:収入の「継続性」と「可変性」
単なる世帯年収1000万円超は、スタートラインに過ぎません。問うべきは「その収入は今後も続くか」「収入が途絶えても、別の形で価値を生み出せるか」という2点です。
ご承知の通り、AIやテクノロジーの急速な進化により、業界再編や職種の消滅が現実となっています。5年前に「安定職種」と呼ばれていた職業が、次の5年で大幅に縮小する可能性を真剣に考えなければならない時代。住宅ローンは人生における「最長の固定負債」ですから、安定性を過信せず、自身の労働市場における価値を継続的に更新できるかどうかが、購入判断の根拠となります。
【チェックポイント】

□現在の収入源は1社・1職種に依存していないか

□副業・フリーランス転向・転職市場での自身の評価を把握しているか
条件2:「長期居住」という実用価値の確保
1億円超の物件を短期的なキャピタルゲイン目的で買うのは、極めてリスクが高いです。今の価格帯での購入は、あくまで「生活の器」としての価値を最大化する行為と捉えるべきでしょう。
具体的には、10年、20年居住を想定した場合に「支払う賃料の累計」と「住宅ローン返済総額+管理費・修繕積立金」を比較すること。都心の立地・広さによっては、購入のほうが、明確に経済合理性が高いケースは今でも存在します。
ただし、「どこでもいいから買いたい」ではなく、実際に長期間暮らせる場所・広さ・環境であることが前提です。
【チェックポイント】

□子育て・親の介護・勤務地の変化を想定した上で、10年後もその物件に住んでいるイメージが持てるか
条件3:銀行の審査枠を無視する「自己規律」
「借りられる額」と「返せる額」は全くの別物。銀行の審査はあくまで「倒産しないライン」を測るものであり、「豊かな生活を送れるライン」ではありません。
住宅が「資産」になるか「負債」になるかは、月々の返済が生活の自由度を奪わないかにかかっているのです。
目安として、返済額が手取り月収の25%を超える場合は要注意。30%を超えると、突発的な出費・収入減への耐性が著しく低下します。無理な背伸びをしてローンを組むことは、人生の決定権を30~50年間にわたって銀行に差し出すのと同義です。
【チェックポイント】

□手取り月収に対する返済比率を計算したか

□ローン返済後の月次キャッシュフローが、生活費・教育費・老後資金の積み立てを賄えるか
■「賃貸派」はお得なのか、数字で検証
「買えないなら賃貸で十分」という考え方は、感情的には理解できます。しかし、「賃貸ならコストが低い」という前提は、今の東京市場では危ういと言えます。実際に数字で比較してみましょう。
比較の前提条件

対象:東京都内(城南・城西エリア)、3LDK・70m2前後のファミリータイプ

【購入ケース】新築マンション購入価格 1億3000万円(東京カンテイ調べ・2025年東京23区新築マンション価格帯に基づく) / 頭金なし・フルローン / 借入1億3000万円 / 変動金利1.0%(2026年4月時点・メガバンク~ネット銀行の相場中間値) / 40年ローン / 月返済額 約32.9万円

【賃貸ケース】同エリア同等スペック相場 月額家賃 約35万円(管理費・共益費込み)/ 2年毎更新料 家賃1カ月分
まず、月額のコストを比較したのが図表1です。購入ケースは37万4000円、賃貸ケースは37万9000円となり、支出はほぼ変わりません。
■30年住むと、購入のほうが1760万円お得
次に、30年間の累計コストを比較したのが図表2です。
このように比較すると、30年間の支出総額は賃貸より購入が約1760万円安いという結果になりました。そして、決定的な違いは「30年後に物件という資産が手元に残るかどうか」です。

累計コストで購入が有利とはいえ、個人の状況によって最適解は異なります。図表3を参考に、自分のケースを確認してみてください。
■高齢者の賃貸探しはなかなか厳しい
変動金利1.0%の現在条件では、30年間の支出総額で購入が賃貸より約1760万円安くなります。月額でも購入が僅かに安く、さらに30年後には物件が手元に残る計算。純粋なコスト比較では現時点で購入に軍配が上がります。
ただし、これは変動金利が今後も大幅に上昇しない前提のシナリオ。日銀の追加利上げが続けば、この差は縮まっていきます。
また、賃貸に潜む最大のリスクは老後です。現時点で日本の賃貸市場は高齢者の入居を敬遠する慣行が根強いものです。年金収入のみとなった70代での転居先確保は、今後さらに難しくなる可能性があります。
購入か賃貸かの二項対立で考えるのをやめましょう。まず問うべきは「今の自分の財務状態と人生設計において、どちらがリスクを最小化できるか」――その答えは、図表3があなた自身に教えてくれるはずです。

■市場に振り回されず、「自分軸」で決断する
住宅購入において、市場のトレンドは参考資料に過ぎません。本質は「市場の価格」ではなく「あなた個人のキャッシュフローと人生設計」にあります。ここまでを通じてお伝えしたかったことを整理しましょう。
・価格は構造的に下がりにくい

コスト構造の変化とデベロッパーの供給戦略が、今の高値を支えている
・「待つ」ことが有利とは限らない

待機中にインフレと購買力低下が進み、相対的な立場は悪化しやすい
・「ギリギリの借り入れ」は将来の選択肢を殺す

返済比率の管理と収入の多元化が、購入後のリスク管理の核心
「今すぐ買うべきか、待つべきか」という二元論から脱却しましょう。必要なのは、外部環境に左右されない「思考の自立」です。自身の年収、キャリアの堅牢性、ライフステージ、そして未来のリスク許容度を冷徹に計算し、価格というノイズを遮断すること。
住宅購入は「消費」ではなく「戦略的な意思決定」です。感情やタイミングに流されず、自分自身の財務的・人生的な基盤を整えた上で判断を下す人だけが、1億円時代のマンション市場において真の意味での勝者となれるでしょう。
あなたの決断が、単なる物件購入という消費行動ではなく、人生を強固にするための戦略的な投資であることを切に願います。

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寺岡 孝(てらおか・たかし)

住宅コンサルタント

1960年東京都生まれ。アネシスプランニング株式会社代表取締役。住宅セカンドオピニオン。大手ハウスメーカーに勤務した後、2006年にアネシスプランニング株式会社を設立。住宅の建築や不動産購入・売却などのあらゆる場面において、お客様を主体とする中立的なアドバイスおよびサポートを行っている。これまでに2000件以上の相談を受けている。NHK名古屋「ほっとイブニング」「おはよう東海」などTV出演。東洋経済オンライン、ZUU online、スマイスター、楽待などのWEBメディアに住宅、ローンや不動産投資についてのコラム等を多数寄稿。著書に『不動産投資は出口戦略が9割』『学校では教えてくれない! 一生役立つ「お金と住まい」の話』『不動産投資の曲がり角で、どうする?』(いずれもクロスメディア・パブリッシング)がある。

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(住宅コンサルタント 寺岡 孝)
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