新型コロナウイルス流行の影響により、飲食業界各社が苦境に立たされているが、テイクアウト需要も高そうな大手牛丼チェーンの「吉野家」「すき家」「松屋」、いわゆる“牛丼御三家”も例外ではないようだ。
まず直近3カ月の既存店売上高の前年同月比を見てみよう。
【吉野家】
・5月:7.3%減
・6月:12.3%減
・7月:5.7%減
【すき家】
・5月:9.2%減
・6月:8.7%減
・7月:2.7%増
【松屋(松屋フーズ)】
・5月:23.2%減
・6月:16.8%減
・7月:11.6%減
すき家は7月に前年の売上高を上回り復調の兆しを見せているものの、吉野家と松屋は前年割れ続き。特に松屋に至っては、毎月2桁以上の減と悲惨な結果となっている。
また、吉野家グループは業績悪化を受け、今年度中に国内外のグループ店舗約3300店のうち、最大150店を閉店すると発表している。国内の吉野家の閉店予定は40店舗とされているが、いずれにしても普段利用している店舗が閉店の憂き目にあう可能性もあるということだ。
新型コロナの影響で大きなダメージを受けている牛丼チェーンだが、新型コロナ第二波、第三波以降にどう対応していけばいいのだろうか。フードアナリストの重盛高雄氏に解説してもらう。
最初に吉野家、すき家、松屋の近年の戦略を振り返ってみよう。重盛氏によると、「新型コロナ流行以前から各社の取り組みは、それぞれ差別化が図られている」という。
「吉野家は客層を広げていこうという戦略が見受けられますね。例えば器の大きさの変更や、子供向けにポケモンとコラボした『ポケ盛』といった牛丼メニューの開発などを行っています。また一部店舗では若い女性でも入りやすいように、向かいの客と視線が合いにくいような形にカウンターを設計するといった取り組みも進めていますね。
松屋でも新しい客層を呼び込むために、テーブルの非対面と対面の部分を臨機応変に分けて工夫しています。
すき家は近年、毎月配布している定期券の普及に力を入れており、それがだいぶ浸透してきている印象です。ですから、その定期券の取り組み以前よりも、確実に固定客がついているというのが強みといえますね。また、他チェーンに比べ期間限定メニューや数量限定メニューにも力を入れています。やはりそういった普段と違うメニューなどがあると目に留まりやすく、集客効果も高いのでしょう」(重盛氏)
業績悪化により吉野家が国内40店舗の閉店を予定しているが、吉野家のこの一手はどうだろうか。
「これ以上、業績悪化させないための苦肉の策でしょうから、40店舗閉店しても状況が好転することはないと思います。
すき家は近年の取り組みが、コロナ禍でもダメージを最小限に抑えることに功を奏しているのかもしれないが、吉野家と松屋はそうではないようだ。
「牛丼チェーンは、コロナ禍以前からテイクアウト需要もありましたが、基本的にはイートインで回転率を上げて売上高を伸ばすことを主軸にしていました。ですが現在は営業時間が短くなったり、ソーシャルディスタンスのため席数を減らすことで結果的に混んでしまったりしています。“お店に来て食べていただく”という今までのビジネスモデルは、既に崩壊してしまっているのです。今の経営状況を見ると、今後、業績が右肩上がりになっていくことはあまり望めないでしょう」(重盛氏)
ただ、吉野家と松屋はイートインの収益に頼らず、テイクアウトの収益を上げる施策として、テイクアウトの商品価格を下げるというキャンペーンを敢行。
「吉野家は比較的ダメージが少なく、松屋は大ダメージを受けていますね。同じテイクアウト値下げという施策を行った両チェーンに差がついたのは、吉野家の立地条件の良さによるものだと考えています。吉野家は駅前の好立地を選び、駅の利用者の目に留まりやすく、客が入りやすい場所に店舗を構えていることが多いんです。
また、吉野家は受け取り専用カウンターを設けている店舗が多いのもポイントとなったのではないでしょうか。
最後に新型コロナ感染の終息が見えない今、牛丼チェーンが今後どういった施策を打っていくべきなのか。
「やはりテイクアウト需要に注力すべきですから、今後はテイクアウトでも、より“美味しく食べてもらう”ということにフォーカスを当てる必要があると思いますね。例えばテイクアウト容器に、おうちで何分何秒加熱するといった、美味しく食べるためのコツを記載していくとか、消費期限を記しておくとか、テイクアウトした消費者に情報を正しく伝えて実行してもらうための施策が、今後の成功の鍵になってくるでしょう。
もちろんデリバリーサービスにも注力していくべきだと思います。まずは到着時に熱々の状態で食べていただけるような仕組みを考えることが大事でしょうね。
また、いろいろと制約があるのかもしれませんが、牛丼チェーンのキッチンカーというのも新しい試みとしていいのではないでしょうか。客に来ていただくのではなく、客が集まる場所にこちらから出向くというスタイルを確立していくということですね。キッチンカーなら新規店舗をつくるよりも、イニシャルコストもランニングコストも抑えられるでしょう」(重盛氏)
誰しも想定外だった新型コロナ流行による業績悪化という未曽有の危機を、牛丼御三家は乗り越えていけるのだろうか。牛丼ファンのためにも、今後の巻き返しを期待したい。
(文・取材=及川全体/A4studio)