森友問題をめぐる試掘写真偽装問題の解明は、昨年末から今年初頭にかけて大きく進み、再び安倍内閣に退陣を迫る事実が浮上しつつある。

 野党合同ヒアリング(司会・進行:川内博史衆院議員)で集中的に調査された試掘写真偽装問題。

今年1月17日、野党合同ヒアリングメンバーは現地である大阪に出張し、試掘写真を撮影したという藤原工業株式会社の藤原浩一社長と面会し、2016年3~4月の試掘写真の撮影状況について事情説明を受けた。その中で藤原工業から「いい加減にやった」「同じ穴だと思う」という重大発言が飛び出した。

 この17日の事業者の発言について報道しなかったNHKは、藤原工業が後日(2月4日)発表した野党を批判する回答書について「森友学園問題 立民・共産の議員の発言に工事業者が反論」と大きく取り上げた。筆者が確認する限り、NHKはこれまで写真偽装問題を取り上げたことはなかったが、今回は事業者の回答書を鵜呑みにして野党を批判した格好になる。

 当初、ヒアリングメンバーは写真作成の実務にかかわった近畿財務局(財務省)と大阪航空局(国交省)の職員に直接質問し、写真偽装の事実を認めさせることも視野に入れていたが、両省は待ったをかけ、相変わらず真相隠しの対応を取り続けている。現地の近畿財務局と大阪航空局の職員からの聞き取りはできなかったが、試掘事業者である藤原工業と元森友学園理事長の籠池泰典氏から事情説明を受ける出張ヒアリングが持たれた。


 籠池氏からは重大発言が飛び出した。当時、学園名誉校長だった安倍晋三首相夫人の昭恵氏は改ざん前の文書で、学園への前例のない貸付、不当な値引き売却に利用されていたが、棟上げ式には祝電も送っていた。いよいよ森友問題は昭恵氏を抜きに語ることはできない。改ざん前文書のなかでは、昭恵氏が学校建設を応援していることも記録されており、昭恵氏の証人喚問を求める声が再び高まりそうだ。

 その上、事業者の藤原工業社長の発言は衝撃的であった。「国交省から『何か資料を出せ』と言われ、従業員がいい加減につくった」資料を国交省に提出し、値引きの根拠としていたのである。
また写真偽装については、「(別の箇所の穴だと国交省が説明してきた穴について)私も同じ穴だと思う」と答えた。

●事業者、回答書でも同一の試掘穴だと認める

 これまで国会で行われてきた野党合同ヒアリングでは、写真偽装問題について国は業者が撮影した写真だと主張し、疑問点については森友学園の校舎建設を設計・管理してきたキアラ建築研究機関に問い合わせるとし、1年6カ月も回答を引き延ばしてきた。ところが、当の試掘した藤原工業の社長が、試掘写真の偽装を認める発言を行ったのである。国は、この偽装写真に基づき大幅値引きを決定したことになる。

 そこで国(国交省)は、写真偽装を認める発言を受け、さすがにそのまま放置するわけにいかず、慌てて藤原工業に回答させたのであろう。藤原工業は質問への回答書をわずか2週間で作成して1月30日には国交省へ提出し、2月4日に国交省は参議院に報告した(写真2参照)。


 回答書では、藤原工業の社長が1月17日に野党の国会議員8名に報告した内容の真意が伝えられていないとされているが、もっとも重要な「(異なった試掘穴として説明していた)写真NO7、NO10、NO11は同一の試掘穴か」という質問に対して「同一の試掘穴」だと認めている。国は、これまで試掘写真資料は事業者が作成したとゲタを預けて答弁を避けてきたが、藤原工業が同一の穴だと写真偽装を認めた重要な発言が、報告書には記載されていたのである。

 この試掘写真資料は、森友問題の核心点である8億円値引きの唯一の実証資料であった。その資料の偽装を認めたということは、国が行った8億円の値引きの根拠が失われたということであり、この事実はとてつもなく大きい。今回の回答書は、1月17日の藤原工業社長の発言を国交省がチェックして記載したのであろう。この間の経過を知っている者にとっては、回答書には重大な矛盾や事実の解明を遠ざける記述も見られるが、本質的な問題は、同一の試掘穴の写真をまったく別の試掘穴だとする写真偽装を、その写真を撮影した事業者が認めたという点にある。


 今回、写真偽装問題の要点を改めて振り返ってみる。

●試掘写真偽装は、森友第2の改ざん事件

 財務省は、昨年3月に朝日新聞がスクープした契約決裁文書改ざんに続いて、5月に約4000ページにわたる保有文書を公開した。その後、財務省は甘々の行政処分で幕引きを図った。改ざんの中心人物とされた佐川宣寿元理財局長は、停職3カ月相当という処分である。相当分を退職金の換算年数から減額するというものであり、勤続年数が数十年間におよぶ佐川氏にとっては微々たる減額にしかならず、また、退職後の停職処分とは形だけの架空処分といえる。安倍内閣はこのように、決済文書改ざんという重要犯罪にも、お茶を濁し、行政機構のトップの部分から腐敗させている。


 それに輪をかけたのが、検察特捜部が市民団体から告発を受理していた財務省などの関係者について、全員不起訴を決定したことである(18年5月31日)。これに対して告発した市民団体は審査申立書を検察審査会に提出し、今審査が行われている。同11月5日には市民団体「森友ごみ問題を考える会」主催の記者会見で立憲民主党の小川敏夫参院議員は、国が埋設ごみの証拠だとする試掘写真資料に偽装の疑いがあることを発表し、地方紙を含め約25紙が報道し、森友問題に再び火がつき始めた。米国のウォーターゲート事件では発覚から2年2カ月後に、圧倒的人気を誇っていたニクソン大統領が失脚・辞任に追い込まれたが、森友問題も森友ゲート事件として新たな起点に立つことになった。

 森友問題をめぐる野党合同ヒアリングでは、多数ある論点が試掘写真偽装に絞られてきた。昨年11月26日には共産党の辰巳孝太郎参院議員の質問を受け、石井啓一国交相が同一の写真である可能性を否定できない旨を答弁し、偽装を国も実質認め始めて事実解明が進んできた。


 国はこの写真資料の偽装問題について、当初から業者のせいにして事実解明に背を向けて、資料の提出を遅らせるなど自己保身に走ってきた。国有財産を約85%値引き、10年分割払いにするという判断をしたのは官僚である。当然、責任は担当した官僚にあり、それを有形無形に指示した首相官邸や政治家にある。

 安倍内閣は改ざん・偽装問題にまったく責任を取らず、担当官僚や関連民間事業者のせいにする。写真(写真3参照)を見ただけで、誰もが同一の写真であることがわかり、偽装であるとわかる。

 昨年11月、森友問題が新たに写真偽装問題で大きな注目を浴び始めた。国会での論戦でも、国交相がその写真偽装を「可能性を否定できない」と曖昧ながら実質認めた。では、なぜ大臣も省庁の担当職員も偽装の事実を国として明確に認めないのか。もし認めれば、新聞やテレビなどの大手メディアが報道するところとなり、森友問題の核心点である大幅値下げが偽装写真に基づいていたことが、国民に伝わるからである。もちろん、そうなれば内閣の責任は避けられなくなる。
 
 では、この写真偽装問題の事実解明はどこまで進んでいるか。すでに当サイトで報告してきたように、写真偽装は近畿財務局が作成した「17枚写真資料」と国交省が作成した「21枚写真資料」で行われている。そして今回、その資料を作成したという業者自身が、偽装を実質認めたのである。もう最終決着は目の前に来ているといえる。

 筆者は国会議員や市民団体と協力し、この問題について引き続き報告していく。2月22日(17「時~19時30分)には、シンポジウム「森友 真相に迫る『メディアの役割』」が第2衆議院会館多目的会議室で、市民団体「森友ごみ問題を考える会」の主催で開催される。元NHK記者・相澤冬樹氏、小川敏夫参院議員、そして筆者も出席する。“森友ゲート”の解決の扉を開きたい。
(文=青木泰/環境ジャーナリスト)

【表1】:これまでの国の主張と主な経過

2010年 大阪航空局が埋設ごみを調査。3mまでの深さに680tとの調査予測。
2012年 大阪航空局が深度調査(ボーリング調査)。3m以深は沖積層。
2013年 森友学園が同用地の取得を要望
2015年
5月29日 国と森友学園が貸与契約
7~12月 森友学園から請負った株式会社中道組が土壌改良工事。953tの埋設ごみを撤去。中道組は翌16年5月2日に産廃マニフェストで合計953.1tの埋設ごみを掘り出したことを報告している。
2016年
1月~ 森友学園から請負った藤原工業が校舎の建設工事を開始。
3月11日 森友学園(藤原工業)から連絡があり、9.9mの基礎杭を打っているとごみが地下深部から出てきた。
3月14日 近畿財務局、大阪航空局が、現地に立ち会って、様子を撮影。
試掘を指示。   
3月25日、30日 業者が8カ所掘削 
3月30日 近畿財務局職員が17カ所撮影→「17枚写真資料」
4月5日 大阪航空局が掘削指示。掘削穴と掘り出した埋設ごみを21カ所撮影→「21枚写真資料」
 ※国は17枚写真資料と21枚写真資料によって、約8億円の値引きを決断した。
4月14日 国交省埋設ごみ2万トンの撤去費8億1900万円を見積
4月22日 近畿財務局が山本不動産鑑定士に鑑定依頼
5月31日 上記山本鑑定、更地価格(9億5600万円)のみ鑑定
6月20日 売買契約
2017年
5月19日 藤原工業が産廃マニフェストを提出。「新築系混合廃棄物」が「194.2トン」と記載されており、2万トンの約100分の1。埋設ごみは「ゼロ」。