2026年4月より「こども誰でも通園制度」が本格的にスタートしました。保護者が就労していない家庭の3歳未満の子どもが保育園等を利用できる仕組みであり、特に0歳~2歳といった「虐待死」が多い年齢の子どもと家庭にとって、親子の孤立を防ぐ重要な支援となり得ます。
子どもだけでなく、保護者にとっても安心して相談できる場が生まれるという点で、その意義は非常に大きいと言えるでしょう。
 こうした制度を、保育現場ではどのように受け止めているのでしょうか。
 私は、千葉市・成田市で「荷物のいらない保育園 保育園キートス」10園を運営している統括園長の日向美奈子(ひゅうが・みなこ)です。保育士として現場に立ちながら、保育園の経営にも携わり、現在は大学院での学び直しにも取り組んでいます。また、一般社団法人日本保育連盟の理事・千葉支部長として、制度づくりにも関わっています。現場・経営・専門性という複数の立場から「子どもと子育て家庭、そして保育士にとってより良い仕組みとは何か」を模索してきました。
 国や自治体が作る制度を持続可能にするためには現場の実態に即していることが重要です。本制度についても、保育現場の視点から実際に参画した立場から、思うところを書かせていただきます。
 自身の運営する保育園「キートス」では、2024年7月から2026年3月末までの1年8か月の間、試行的事業として本制度に参画し、10園で延べ1千人以上の利用がありました。日々の受け入れを通して、保護者とつながる機会が生まれ、子どもの集団での保育経験による成長や、保護者の表情の変化を実感する場面が多くありました。当法人で実施したアンケートでは、約90%の保護者が「保育士に子育ての相談をしたい」と回答しています。これは、子育てにおいて専門職とつながることへのニーズの高さを示していると言えるでしょう。
保育士と接点のない子育て中の家庭にとって、本制度がその入り口となる可能性は大きいです。子どもを預かるだけでなく、保護者の不安に寄り添い、支えることこそが、保育園が社会の中で果たす重要な役割ではないかと感じています。

 一方で、この制度は本当に「“誰でも通える”仕組み」になるのでしょうか。継続的に運営していく上での難しさも見えてきました。制度上、子ども一人あたりの利用時間は月10時間に制限されており、受け入れ枠を設けても利用が安定しないことがあります。しかし、保育の質と安全を守るためには、利用の有無にかかわらず一定の保育士配置が必要です。現状では補助が利用実績に応じた形となっているため、利用がなかった時間帯の人件費は事業者の負担となり、継続に向けた大きな課題となっています。一部の自治体では、保育士の配置実績に応じた補助が行われており、こうした仕組みは安定的な運営につながっていると感じます。一方で、財源には地域差があり、制度の運用状況に違いが生まれているのも現状です。
 本来、試行的事業の段階では、実施事業者、自治体、そして国がそれぞれの立場から課題を共有し、制度の改善につなげていくことが重要であったと感じています。現場で得られた実感やデータをもとに対話を重ねていくことで、制度はより実効性のあるものへと育っていくはずです。私達の園では、制度の趣旨には強く共感しながらも、子どもの安全と保育の質を守り続けることを最優先に考え、現在は一度事業を休止することを選択しました。
これは制度から離れるためではなく、持続可能な形で再び関わるための選択です。

 一番の懸念点は、受け入れ事業者が十分にない状況で、この制度に対して「利用者がいない」「求められていない制度」と捉えられかねない点です。「利用したくても、受け入れの体制が十分に整っていない」という側面があることを置き去りにしてはなりません。実施事業者が増え、安定して運営できる環境が整うことで、はじめて本来の意味で“誰でも通える”仕組みになるのではないでしょうか。制度をより良いものにしていくためには、利用実績だけでなく配置実態を踏まえた支援のあり方や、地域による差をどう捉えていくかといった視点が重要です。また、現場・自治体・国が継続的に対話しながら改善を重ねていく仕組みも欠かせません。

 「こども誰でも通園制度」の名の通り、“誰でも通える仕組み”を実現するためには、「持続可能な制度」であることが大前提です。この制度の可能性を確かなものにしていくために、現場の実態を共有しながら、共によりよい仕組みをつくっていくことが今まさに求められているのです。 

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 "荷物のいらない保育園"として人気の「キートスチャイルドケア・キートスベビーケア」。千葉市、成田市で運営する10園の統括園長・⽇向美奈⼦さんが、子どもと社会を見つめる保育の現場から思いをつづります。
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