現在、ドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系/毎週月曜21時)や映画『ちょっと思い出しただけ』に出演中の伊藤沙莉。活動歴は長く、2003年にドラマ『14ヶ月~妻が子供に還っていく~』(読売テレビ・日本テレビ系)でデビュー。

その後も、子役としてさまざまな作品に出演してきた。本稿では、伊藤沙莉の作品を振り返ってみたい。

【写真】写真で振り返る伊藤沙莉のこれまで

NHKでは数々の“おもしろい役”に挑戦

 個人的に注目したのは、連続テレビ小説『ひよっこ』(2017/NHK総合)の米子役で、泉澤祐希演じる角谷三男とのコミカルなやりとりを楽しみにしていた。

 その後もNHKでは“おもしろい役”を次々と演じている。同年の『もしもドラマ がんこちゃんは大学生』(NHK総合)は、人形劇のがんこちゃんを二階堂ふみが演じて実写化したもので、伊藤はがんこちゃんの友人のしかりちゃんを演じた。

 2019年のETV特集『反骨の考古学者 ROKUJI』(NHK Eテレ)では、ドキュメンタリーの中にドラマパートがあるという、ETV特集の中でも特殊な構成となっており、その中でハライチ岩井勇気演じる考古学者・森本六爾の妻を演じた。
このふたりが、今もCMに共演しているのを見ると、放送をリアルタイムで見ていたものからすると、なんとなくうれしくなってしまう。

 同じく2019年には『これは経費で落ちません!』(NHK総合)に出演。経理部で働いているものの、ミスの多い佐々木真夕を演じた。前年には『獣になれない私たち』(日本テレビ系)でも、IT企業で働く女性を演じているのだが、この頃、伊藤が演じる働く女性は、どこか抜けていたりするのが面白い。

 とはいえ、働く女性ものに「抜けている」女性キャラというのはむしろ王道であった。「抜けている」ヒロインは、その「抜けている」ところが健気で憎めずにかばってもらえたり、かわいがってもらえたりするのだが、伊藤が演じる「抜けている」キャラは脇役で、ヒロインに迷惑をかけたりもするし、健気なところもあまり感じられない。
『獣になれない私たち』では、会社に忠誠心がないのも新鮮だが、そもそも会社に忠誠など誓う必要などあるんだろうか? と立ち止まったり、それもありだよなと思わせるところが、ほかの「抜けている」キャラとは違うところである。

 NHKでは『いいね!光源氏くん』(2020)でヒロインの藤原沙織役でも出演。『いいね!光源氏くん し~ずん2』(2021)も放送された。ここでは、平安時代からタイムスリップしてきた光源氏や頭中将の、文字通りの浮世離れした行動に対して、ときにつっこみ、ときにときめいたりしている様子がコミカルに描かれていた。

 そしてもうひとつNHKの仕事で忘れてならないのが、2020年のアニメ『映像研には手を出すな!』の主演・浅草みどり役であった。伊藤の声があったからこそ、作品に登場する高校生たちのアニメで「最強の世界」を作るというひたむきさに、見ているものも一緒になってその世界に没入できたのではないかと思っている。
『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)や、技術開発エンタメ番組『魔改造の夜』(NHK BSプレミアム)などでも声の仕事をしていて、彼女の声がいかに今の日本で唯一無二な魅力を放っているのかがわかる。

 ここで書いた作品は主に2019年から2020年のものが多く、その活躍が認められ2020年の第57回ギャラクシー賞テレビ部門個人賞を受賞した。

伊藤沙莉から考える“今、求められ始めているヒロイン像”

 現在出演中の『ミステリと言う勿れ』では、新人刑事の風呂光聖子を演じていて、男性主導の色が濃い組織の中で葛藤しながらも仕事をしている役を演じている。これから終盤に向けて、彼女に焦点があてられることに期待したい。

 この原稿依頼をいただいたとき、担当編集者から「これまでも女性が生きている中で直面する問題を多く演じてこられたと思う」ので、そこを書いてほしいと言われおもしろい依頼だなと思った。

 その問題に真正面からぶつかっているのが映画『タイトル、拒絶』ではないだろうか。
この映画で伊藤はデリヘル店に体験入店をしたものの、その仕事には就かず、今はその店舗でデリヘル嬢たちの世話係として働くカノウを演じた。そこには、要領がよくて楽しそうなマヒルや、トラブルばかりおこしてしまうアツコなど、一筋縄ではいかない面々ばかりが働いていた。

 しかし、見ていくと、彼女たちの個々の中になにか原因があるというよりも、そんな風にしてでも生きないといけない、閉塞感や理不尽さがあるのだとわかる。カノウもいつしかやるせなさを爆発させ、そして絶望して泣いたりもするのだが、伊藤沙莉には、思い出の中のちょっと自信がないけど、健気に生きている女の子よりも(それも似合ってしまうのだが)、こっちのほうがしっくりくる。

 これまでのヒロインは、どんなことがあっても自分の考え方を変えれば周りもきっと変わってくれると常に完璧な笑顔を見せて健気に生きたりするキャラクターが多すぎた。今、求められ始めたのは、やさぐれたいときにはやさぐれられるような、他人の目を気にしすぎないキャラクターではないか。
そればっかりをひとりに求めても申し訳ないが、個人的には、伊藤沙莉にはやっぱり、不満があるときには、それを押し殺さずに、「やってらんねーよ」と思っている表情を隠さずに、舌打ちをするような役をやってもらいたいという気持ちがあるのだ。(文:西森路代)