『有吉クイズ』(テレビ朝日系)TVer公式サイトより

 10月25日より、『有吉クイズ』(テレビ朝日系)が夜8時~のゴールデン帯に昇格した。

 スタジオを見ると、深夜時代は大道具の倉庫みたいだったセットが少し豪華になっているようだ。

栄えある初回の回答者には、レギュラー陣(みちょぱ霜降り明星・せいや等)に加え、いわゆる“番宣俳優”仲野太賀も登場。あらゆる細部から、ゴールデンっぽさが窺える。

 ちなみに有吉弘行は若い頃、仲野太賀の父・中野英雄歌舞伎町をよく連れ回された経験があり、その因縁を考えると回答者席の並びも面白い。

 ゴールデン昇格初回に行われたのは、「有吉と蛭子さん 2022夏」。有吉と蛭子能収の再会企画だ。

 この企画は過去2回行われており、昨年10月放送の初回は第59回ギャラクシー賞(放送批評懇談会主催)で、テレビ部門の奨励賞を受賞している。

蛭子能収と、全然気を使わない有吉弘行の距離感とらしさ「じゃあ渋谷辺りで、夏に」「ありがとう、本当に」 4月12日放送『有吉クイズ』(テレビ朝日系)にて、「有吉と蛭子さん2022春」と銘打たれた企画が行われた。#有吉クイズ 本日もご視聴ありがとうございました#蛭子...
蛭子能収と有吉弘行の、不謹慎で悲壮感の欠片もない、露悪的な待ち合わせ
蛭子能収と有吉弘行の、不謹慎で悲壮感の欠片もない、露悪的な待ち合わせ
日刊サイゾー2022.04.20

 つまり、企画的に攻めているようにも思えるし、そうではないとも言えるのだ。以下は、今回の回答者である出川哲朗と有吉のやり取り。

出川 「(ゴールデンに昇格して)華々しく散ってほしいですね。伝説になってほしい、やっぱり」

有吉 「いや、もう完全に置きにいきます」

 

蛭子はもともと物覚えが悪かった

 2020年7月放送『主治医が見つかる診療所』(テレビ東京系)で、軽度の認知症と診断された蛭子。今現在、彼の姿が見られるバラエティ番組は『有吉クイズ』くらいである。『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』などで蛭子を重用していたテレビ東京も、現在は気を遣ってあまり彼を呼んでいない。

 2020年7月12日放送の『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』(JFN系)にて、有吉はこう発言している。

「でも、(蛭子は)仕事はしたいとおっしゃってたけどね。やっぱりいろいろ文句言う人もいるんだろうけど、ご本人がよければ復帰して頑張って元気にやってほしいなと思うし。じゃあ、アルツハイマーになったらテレビ出ちゃいけないのか、お仕事しちゃいけないのか、何にもできないのかっていうことになるもんね」

 有吉と蛭子といえば、2008~10年に放送されていた『アリケン』(テレビ東京系)の人気企画「アリケンしゃべり場」での口論が伝説。「蛭子さんなんて人間が価値あります!?」と悪態をつく有吉に対し、著作『芸能界 蛭子目線』(竹書房)で、蛭子は「いつもの有吉さんと違う。有吉さんが悪キャラになってる」と思っていたことを漫画化した。

実は、2人の関係は古くて長い。

 今回の2人の待ち合わせ場所は、渋谷である。今年4月放送の再会企画第2弾にて、「うるさいようなところが好きです」「(次回のロケは)やっぱり、渋谷かなあ」と、蛭子本人が希望したからだ。

 有吉が先に待っていると、向こうのほうに蛭子の姿を発見。どこに行けばいいか、ちょっと迷っているようだ。

有吉 「あれかなあ? 蛭子さん! 蛭子さん、こっち!!」

蛭子 「え? ……あっ、ああ。

どうもどうも!」

有吉 「ご無沙汰しております」

蛭子 「ご無沙汰してます」

 2人は再会を果たした。有吉のことをまだ覚えているか少し不安になったが、蛭子は元気そうだ。たしかに、しゃべり方は変わった。2年前とはテンポが違うと思う。あと、蛭子は白髪を染めるのをやめたみたいだ。なんだか、穏やかなおじいちゃんになったみたい。

 有吉は蛭子としゃべるとき、声を大きめにし、いつもよりゆっくり話す。あと、話すときに目線を合わせる。

有吉 「この前、落ち着いた雰囲気じゃなくて、渋谷みたいなところがいいっておっしゃってたんですよ」

蛭子 「あっ、そうだったっけ(笑)?」

 もともと、蛭子は物覚えが悪かった。昔からだ。孫が8人もいるのに6人と認識していたり、孫一人ひとりの名前をまったく覚えていなかったり。ずっと、こんな人だった。

 

ずっと不謹慎で、悲壮感の欠片もない有吉

 2人はこれから、渋谷スクランブルスクエア(最高高:229メートル)の最上階へ行く予定だ。

蛭子 「高いところで俺を……」

有吉 「(うしろから背中を押すふりをする)」

蛭子 「押さないようにお願いします(笑)。『死にたくない!』っていうのがすごくあるんで。もう、死んでしまったら終わりですからね! 絶対、もう死にたくはないんで」

「死にたくない」と訴える際、急に元気になった蛭子。面白いことを言おうと、彼なりに頑張っているようだ。でも、自分の漫画では散々いろんな人を殺してきたくせに……。

 2人は建物内に入り、エレベーターで上階を目指した。天井を見ると、天空を突き抜けるみたいな映像が映し出されている。

「2人で天国行ってるみたいですね」(有吉)

 ずっと不謹慎な有吉。相手に気を遣わせない感じで、絶妙な毒のさじ加減だと思う。というか、そもそも有吉と蛭子が行けるのは天国なのだろうか? たぶん、地ご……。

 ところで、なぜ蛭子は渋谷に思い入れがあるのか?

蛭子 「どっかのところで、なんか当たったんですけど。もう1回できる……」

有吉 「クジですか? 競馬じゃなくて?」

蛭子 「競馬じゃない(笑)」

有吉 「ジュースですか?」

蛭子 「あ、そうそうそう。ジュース、ジュースだ」

有吉 「ジュースの自販機で当たったんですか? それが唯一の思い出ですか!? 渋谷の思い出が寂しすぎますよ(笑)」

 ジュースが思い出の街、渋谷。2人のコンビネーションで、蛭子の忘れっぽさは笑いに変わった。

有吉 「水道橋のほうに競馬やりに行ったりとかは?」

蛭子 「それはやめたから。仕事がないときは行きたくはなりますけど、でもやっぱり負けますね」

有吉 「やっと気付いたんですね」

蛭子 「(笑)」

有吉 「ハハハハハ! 高い勉強代でしたねえ(笑)」

 気を遣いつつ、蛭子をイジる有吉。たしかに、遠慮しすぎてもよくない。ただ、蛭子はそもそもあまり競馬をやらない人だった。競艇に熱くなるタイプである。はて、彼は競艇をやめたのだろうか?

 その後、2人はプレゼント交換をした。有吉が蛭子にあげたのは、「SHIBUYA」と印字されたTシャツだ。

「『SHIBUYA』って書いてありますんで、たまには思い出してください。ジュースが当たった思い出だけじゃなくて。……(お返しに)なんか、ください」(有吉)

 次は、蛭子が有吉に何かをあげる番。彼はエコバッグをプレゼントとして選んだようだ。バッグの中には、お菓子のヨックモックが入っていた。

有吉 「あっ、お菓子!」

蛭子 「“おかし”いかねぇ?」

有吉 「うまいねぇ~、うまいですね」

 うまくないよ! 蛭子能収の健在確認である。さらに、蛭子からのお手紙も封入されていた。そこには、こんなメッセージが。

「またよろしくね) 有吉さんありがとう エビスより」

 蛭子の字を見た瞬間、認知症の進行具合はなんとなく察することができた。さらに、文章の横には誰かを模したイラストが描かれている。誰だろう? パッと見、有吉の妻・夏目三久にも見えたが……。

有吉 「これ、僕ですね、一応」

蛭子 「そうですね、髪の毛からいったら。ちょっと、似ないんですよね、どういうわけか」

有吉 「まったく似ないですね。1回も似たことがないですよ!」

 有吉じゃないと言えないセリフだ。悲壮感の欠片もない。実際、「誰なんだよ!」とツッコみたくなる似顔絵だった。まあ、もともと蛭子のイラストは似せる画風でもないし、よく見ると結構、目は有吉に似ていた。

有吉 「でも嬉しいです、いつも。ありがとうございます」

蛭子 「ありがとう」

有吉 「こちらこそ」

蛭子 「いや、いつも」

 有吉と蛭子が互いに交わした、本気のトーンの「ありがとう」。さりげなかっただけに、ちょっと見ていて胸にくるものがあった。

 その後、蛭子のリクエストでボウリング場へ行くことに。平和島でも江戸川でも雀荘でもないのだ。意外なチョイスである。ボールを持てるか少し心配だが、体は動かしたほうがいい。

 ゲームを始める前、蛭子は近況報告をした。

有吉 「少し、やっぱり忘れっぽいですか?」

蛭子 「ちょっと忘れっぽいですね、ええ」

有吉 「でも、話してる分には何も問題ないですけどね」

蛭子 「話してる分には問題ないです。病気になったのはしょうがないです」

有吉 「そうですね。でも、年取るとどっちみち忘れっぽくなりますからね」

蛭子 「そうですね」

 認知症になった蛭子の受け答えを見ていると、“本当に忘れてしまった蛭子さん”なのか、“とぼけた味の蛭子さん”なのか、判断がつきづらい。でも、「年取るとどっちみち忘れっぽくなりますからね」と言い切る有吉の態度に、救われた。

 というわけで、ボウリングがスタート! 先攻は有吉だ。第1投目は、ガーターである。これは、手加減した有吉の“優しさガーター”か?

「よかったぁ……!」(蛭子)

 他人のガーターを見て「よかった」と言っちゃうあたりに、往年の蛭子が甦る。彼は人の不幸が大好きだ。

 続いては、蛭子の番。助走なしのノーモーションでボールを放った蛭子は、勢い余って体ごとレーン内に侵入してしまった。さすが、蛭子は笑いを忘れない。

「蛭子さん、前出すぎですよ。ハッハッハッハ!」(有吉)

 蛭子が聞き取りやすいよう声を大きめにして話しかけ、簡潔な言葉でミスを指摘する有吉。その気配りは、やはり印象に残る。

 蛭子の1投目は、ピンに届く前にボールが左に寄ってガーターとなった。その結果を受け、蛭子の2投目である。

 なんと、彼はボールをダイレクトに右側の溝に投げ入れたのだ。まさかの、ダイレクトに“直ガーター”である。

「溝掃除ですね、溝掃除(笑)」(有吉)

 溝に入れるゲームだと思っちゃったのだろうか? でも、思い返すと、彼は病気になる前もこんなプレーをやっていたような気がする。あと、真面目な話、1投目は左に曲がったから右に立って投げるように心がけ、そしたら眼前が溝だったのだろう。頭脳プレーの結果である。

 その後、蛭子のボウリングはどんどん上達していった。まずはピンを1本倒し、さらには8本倒しまで! フォームもどんどん綺麗になっていくし。普通に、ボウリングが苦手な筆者より全然うまい。きっと、2投目までは久しぶりすぎてプレーの感覚が掴めていなかっただけだろう。蛭子の顔を見ると、自身の腕前にまんざらじゃなさそうである。

有吉 「よかったですよ! 50歳に見えましたよ!!」

蛭子 「(笑)」

有吉 「飽きました? 飽きたら言ってくださいね。飽きましたね? 絶対、飽きたなと思いましたよ、今ので!」

蛭子 「あ、そう(笑)?」

有吉 「もう、『満足したな』って感じですもん」

 察する有吉。気が回る男である。

 そろそろ、最後の投球。有吉は本気を出すようだ。ものすごい勢いのボールを投げ、容赦なくストライクをゲットしてみせる有吉。大人げない! おそらく、最後に蛭子にストライクを見せたかったのだろう。

「よっしゃー! ありがとうございます。すげえ嬉しい。蛭子さんに勝って、メチャクチャ嬉しいです」(有吉)

 気を遣いながら、イジリながら、有吉はうまく蛭子の相手をしていた。怪しい飲食店でゲテモノ料理を一心不乱に食べてた彼の姿を思い出すと、とても同じ番組とは思えない。

有吉 「もう、いいですか?」

蛭子 「うん。もう、いい(笑)」

 蛭子の終了宣言によって、今回の「有吉と蛭子さん2022夏」は終了である。

有吉 「どんだけ早く終わっても、ギャラは同じですから」

蛭子 「ハハハ! ギャラなんてそんなものは(笑)」

有吉 「本当ですか(笑)? 仕事は早く終われば早く終わるほどいいですから」

蛭子 「そうですね!」

有吉 「(笑)」

 このへんの蛭子らしさは、ずっと変わらない。さて、次の再会はおそらく今年の冬である。2人は、次回の約束を交わした。

有吉 「次、僕の希望は何か大きい絵を描きたいんですけど」

蛭子 「あぁ~、そういうのね」

有吉 「はい。もうちょっと、絵を真剣に描いてもらわないと困ります、こっちも、先生(笑)」

蛭子 「そうですね。真剣にするのは、もう変わりないです。もう、真剣にはしたいです。すべては、真剣!」

有吉 「あら、めずらしい! めずらしい宣言をしてくださいました」

 おそらく、今までと同じだろう。たぶん、これも適当な宣言だと思う。それが、蛭子流だ。「絵を描く」という約束を、彼が冬まで覚えているかどうかは疑わしい。ずっと、彼はそういう人だった。

 蛭子にとって、この再会企画はいい刺激になっていると思う。「どんな仕事でもいいからやりたい」と、彼は熱望していた。きっと、今後も定期的に「有吉と蛭子さん」は行われる。

 10月23、30日の2週にわたって放送された『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)は、ゲーム芸人・フジタと認知症の父を追った作品だった。そこに映し出された父子のやり取りは壮絶であった。つまり、家族だからできること、もう一方で赤の他人だからこそできることの両方があると思うのだ。

 VTR終了後、有吉はあえて露悪的にコメントした。

「蛭子さんを利用して、自分の好感度を上げてるんです」(有吉)

 有吉と蛭子はいつも、次回の約束をしてから別れる。その約束が果たされなくなるときは、きっといつか来る。そのときまで、有吉はこの企画を続けようとしている気がする。