北朝鮮メディアは8日、金正恩総書記が重要軍需工業企業所を視察し、新型155ミリ自走砲システムの生産実態を確認したと報じた。中でも注目されるのは、金総書記自ら「前方部隊に更新配備される大口径腔線砲の射程が60キロを超える」と明言した点だ。
韓国軍や在韓米軍の後方拠点をも射程に収め得る可能性があり、朝鮮半島の地上火力バランスに新たな変化をもたらしかねない。 朝鮮中央通信によれば、金総書記は6日、軍需工場を訪れ、今年中に韓国との国境に配置された長射程砲兵部隊へ装備される「3個大隊分」の新型155ミリ自走平曲射砲(自走砲)の生産状況を点検した。走行試験や地形克服、潜水渡河試験に加え、改良砲弾による射撃試験の結果報告も受け、「機動性と火力打撃能力が非常に高い新世代の砲兵器」と高く評価した。 今回の発表注目されるのは、北朝鮮が従来の大量火力による面制圧型の砲兵戦力から、長射程・高機動・自動化を重視した新たな砲兵運用へ軸足を移そうとしている兆候がうかがえる点だ。金総書記は「新しい武力装備が導入されている現実的条件に基づき、人員と機材の利用に対する作戦上の概念を再定義すべきだ」と述べた。単なる新兵器の配備ではなく、運用思想そのものの転換を示唆した発言として受け止められている。 また同通信は、新型砲システムについて「優れた機動性」「高い戦闘環境情報処理能力」「自動射撃システム」を備えていると強調した。現代戦では発砲位置が対砲兵レーダーや無人機によって即座に探知されるため、撃った後すぐ移動する「シュート・アンド・スクート」能力が生残の鍵を握る。ロシアの侵攻を受けるウクライナで続く砲兵戦でも、50キロを超える長射程と機動性、自動化の有無が自走砲の生存率を左右したとされ、北朝鮮がこうした戦訓を意識している可能性もある。 もっとも、北朝鮮が示した「60キロ超」の射程が通常砲弾によるものか、ロケット補助推進弾など特殊弾薬を用いた最大値なのかは不明で、命中精度や連射性能も判然としない。ただ、北朝鮮がミサイルや超大型ロケット砲に加え、比較的安価で継続運用しやすい長射程砲兵の高度化にも本格的に乗り出したことは確かだ。 核・ミサイル戦力の陰に隠れがちだった北朝鮮の通常火力が、新たな段階へ入りつつある可能性がある。
今回の報道は、その転換を内外に誇示するシグナルとみられる。
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