北朝鮮国営の朝鮮中央通信は6月3日、日本の防衛政策を激しく非難する長文論評を公開した。執筆者は「国際安保問題評論家」を名乗るキム・リョウォン氏。
論評は、日本による「防衛装備移転3原則」改正を「兵器輸出拡大劇」「戦争屋の本性」と断じ、「日本の狂態が刻一刻と限界線を超えている」と激しい言葉を並べた。 一読すると、ありがちな“反日プロパガンダ”に見える。だが、時期を考えると、そこには別の含意が浮かぶ。 その数日前、北朝鮮による拉致被害者の早期帰国を求める「国民大集会」で、高市早苗首相は「金正恩総書記との首脳会談をはじめ、あらゆる選択肢を排除せず、高市内閣で拉致問題を解決する」と語った。日朝首脳会談への意欲を、比較的強い言葉で打ち出したのである。 ところが、その直後に飛び出したのが、北朝鮮側の「日本の狂態」論評だった。 注目すべきは、論評が高市首相を名指ししていない一方で、誰を批判しているのか隠そうともしていない点だ。 論評には「現在の日本執権者は『戦後最も厳しい安全保障環境の中で抑止力を高め、紛争発生を未然に防止する』と強弁した」とある。この表現は、高市首相が「防衛装備移転3原則」改正を説明した際の発言をほぼそのまま引用したものだ。 つまり、名前を出さない“実質名指し”である。 北朝鮮外交に詳しい関係者の間では、こうした表現は「窓を閉め切らない拒絶」のサインと解釈されることが少なくない。北朝鮮が相手国指導者との関係を完全に断つ場合、「反共和国敵視政策の首魁」「対決狂信者」といった人格攻撃を伴う露骨な表現が増える。
今回はそうではなく、あくまで政策批判にとどめている。 では、なぜ今なのか。 最大の違和感はタイミングにある。 問題の「防衛装備移転3原則」改正は4月だ。北朝鮮が本気で反発するなら、普通は直後に声明が出てもおかしくない。しかし実際の論評公開は約1カ月半後。しかも、高市首相が首脳会談に言及した直後だった。 偶然と見るには、あまりに出来過ぎている。 北朝鮮の意図をあえて俗っぽく言えば、「会談したいなら、まず日本側が頭を下げろ」という“値踏み”に近い。 日本が対話を求めるタイミングで、「軍事大国化」「兵器輸出」「台湾有事介入」といったカードを並べ、「そんな相手と簡単に会う理由はない」という理屈を内外に示す。交渉前に相手の政治的コストを高め、自らを優位に置くのは、北朝鮮が繰り返してきた常套手段だ。 北朝鮮は現在、ロシアとの軍事協力深化を背景に一定の外交余裕を得ている。
一方で、慢性的な経済難や制裁疲れという現実も抱える。金正恩政権が日本との関係改善を切望している様子は見えないが、地政学的にも「対話カード」を完全に捨てる合理性は乏しい。 だからこそ、高市政権への最初の返答は「NO」ではなく、「簡単には会わない」という価格交渉だった可能性がある。 「対話をしたいなら、代価は何か」 平壌から聞こえてくるのは、そんな冷徹な計算の音かもしれない。
編集部おすすめ