大学卒業予定者の就職内定率68.8%。
最低の記録だ。

というデータがでるが、それすら「調査の母数がもともと小さいうえに、抽出サンプルは就職に強い大学ばかり」なんて水増し疑惑もでるほど「超氷河期」再来だそうだ。

この「若者が就職できなくなった」状態を、冷静な視点で考察し、じゃあどうすればいいのか? を提案した本が出た。
『若者はなぜ「就職」できなくなったのか? 生き抜くために知っておくべきこと』、著者の児美川孝一郎。法政大学キャリアデザイン学部教授だ。

昔は、よかったんである。
「日本には、若年雇用問題は存在しない」とさえ言われていた。

新規学卒一括採用は、なぜ(一見)うまくいってるようにみえたのか。

それは、日本的雇用のシステムにあった。
日本的雇用システムの三種の神器は、
1終身雇用
2年功序列型賃金
3企業別労働組合
だ。

終身雇用と年功序列で、企業は社員に対して、(安定的な雇用と報酬という)未来を約束する。
そのかわりに、社員は、会社に忠誠を誓え。
そういうシステムなんである。

そうなると、企業側は、長期的な視野をもって、社員を教育することができる。
会社に入ってから、実際に仕事をしながら教育することが可能だった。OJT(On the Job Training)ってやつですな。
この安定的な仕組みが『ジャパン・アズ・ナンバーワン』と呼ばれ、GDPにおいてアメリカに次ぐ世界第二位まで登りつめた原動力だった。
で、そうなると学校は、どうあるべきか。
職業的リバレンス(職業との結びつきや関連性)を極端に弱めてしまう。
だって、仕事に関しては、会社にはいってじっくり教育するのだから、学校でやる必要はない。
というか、おそらく学校でやってくれないほうがありがたい。会社には会社の事情がたくさんあって、その色に染めたい、という思惑もあったのではないか。
必要なのは「訓練可能性」である。そこで、学歴がモノを言う。
と、これは大雑把にぐるっとまとめちゃったけど、本書では、こういった仕組みが、ていねいに解説されている。


ところが1990年代以降、新規学卒就職の仕組みが、うまくいかなくなった。
2010年の高校新卒者求人数は、1992年と比べて八分の一。職がない!
大卒者の就職内定率は、1990年には80パーセントを超えていたが、この10年は60パーセント台。
なぜ、こうなってしまったのか?

本書の第2章で4つの理由があげられる。
1・バブル崩壊後の日本経済の失速
2・グローバリゼーションの影響
3・日本企業の採用行動・雇用戦略の転換
4・そうした転換が起こりやすくした政府の労働力政策の展開

またも、ぐはっと大雑把にまとめちゃうと。
グローバル化とかで日本的な家族的会社の在り方がいかんなーってことになって、さらに不景気だし、終身雇用とか言ってられないし、派遣法とかもできちゃった。
もう終身雇用・年功序列じゃないほうがやりやすい。
すると、ゆっくり働きながら教えていくとか言ってられない(ずっと我が社にいないでしょ?)。
ならば即戦力だ、っつーことになる。
というわけで、急ごしらえで、学校がキャリア教育・支援とかをはじめちゃう。
けど、それも、こういった背景をあんまり考えてなくて、エンプロイアビリティ(雇用されるための能力)とか言って、競争を煽る、短期的視点だけのやり方になっちゃってないか?
正社員として入る間口が狭くなったうえに、正社員モデルも崩壊しつつあるのに(正社員になっても、長時間労働、競争激化で楽しくない)。
それでも、正社員になる能力を身につけろ、コミュニケーション能力だ、自己分析だ、って、そりゃ学生もモチベーションあがらないわな。

自己分析からスタートして就職先を決めるという方法論について、第4章にこういう指摘がある。
“それを、仕事の世界と関連づけながら把握することが可能でしょうか?
実際に仕事をしたことのない若い人たちに、自己の職業適性を理解させるなどということは、そもそも無茶な話ではないのでしょうか?”
本書は、中・長期的視点で追求すべき学校制度の課題として、以下のような提案をする。
まず“社会認識と職業理解、労働についての理解を出発点にすべき”である。
そして、
“端的に言ってしまえば、アカデミックな普通教育しか学べないような普通科高校という制度枠組みをなくして、すべての高校を総合制(普通教育の過程と職業教育の過程を併置する)の高校と職業高校(専門高校)にしていくという構想です”
大学も、職業的レリバンスをより強めていくべきだ、と。

短期的な解決方法は? って、卒業直前の人はそう聞きたいだろう。
本書には直接的な答えはない。
社会に出ていく際の“防備”、自分の“身を守る術”を持つことの重要性が語られるが、本書が解説する仕組みを深く考えることでスタートできるのは、それだけじゃない。
就職や労働の転換期で、矛盾や歪みが、若者を苦しめる。
でも、変わりつつある仕組みを根本から理解することで、矛盾や歪みを、自分の味方につけることも可能だ。
激変してるってことは、新しく興ることがたくさんあるってことだ。
就職しないで生きるヤツもたくさんいる。
無一文・無職から生活を考えることもできる。

創造性の視点から再検討することだってできる。

就職活動のルールそのものを考えること。新しい方法を自分で見つけること。働き方全体を考えること。自分たちの未来はまだ長く続くんだってことを、しっかりと感じとること。
激変し混乱している就職活動ルートに、正面から馬鹿正直に乗る必要はないんだからね。(米光一成)
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