第1話「発現」を見て、これは斬新! とニヤニヤしてしまいました。
殺人事件の犯人が誰か、殺された被害者が、幽霊になって、主人公である刑事(小栗旬)に教えるのですから、これ以上の証言はありません。
ミステリードラマには、「刑事コロンボ」「古畑任三郎」をはじめとして、最初に犯行現場を見せ、犯人がどうやって殺したか、視聴者に知らせる構造の作品も多々あります。
我々は、冒頭に見た犯罪を、どうやって主人公が解いて、しらばっくれている犯人を追いつめていくか、その過程を毎回楽しむのです。
テレビ朝日には、死体の痕跡から、事件を推理する検死官のドラマ「臨場」(「BORDER」の演出も手がける橋本一が演出をしていた)という作品もあり、痕跡を探す検死の仕事を「死者の声」を聞くことに例えていました。
今回は、声を発する死者をダイレクトに出して可視化してしまったとも言えますね。
いずれにしても、ミステリードラマ、警察ドラマが百花繚乱の昨今、主人公が死者と対話する能力をもっているという設定を作ることで、刑事ものの黄金パターンが、新鮮に生まれ変わったのです。
原案、脚本は、「SP 警視庁警備部警護課第四係」も手がけた小説家・金城一紀。
部署は違いますが、第四というところは「BORDER」が踏襲していますね。
漢字表記と数字表記の違いもあります。
金城の作品は、「SP」をはじめ、映画化された「GO」や「フライ,ダディ,フライ」など、常に、キャラクター描写が細かい。
クラシックをかけて検死解剖する、ショートカットのクールな検死官(波瑠)や、謎の情報屋(古田新太)、よく腰をまわしている刑事(遠藤賢一)、主人公をやたらとライバル視する同僚(青木崇高)などなど、キャラが立った人物が続々登場。
そして、なんといっても、個性的な脇役に囲まれた主人公は、小栗旬演じる石川安吾(石川啄木+坂口安吾?)。
刑事・石川は、プライベートは地味で、仕事一筋。仕事漬けのせいで、ドラマ開始4分で、生死の境を彷徨うことになります。
殺人現場を見てまわっていた石川は、犯人らしき人物に撃たれ、一度は死にます。
ところがなぜか蘇生して、その後は、頭の中の銃弾が脳の未使用な部分を刺激したのか、死者と会話できる能力が備わります。
銃弾によって脳の使われてなかった部分が覚醒?という設定は、「SPEC」みたいな気もなんとなくするような。まあ、そんなことはさておき。
死から生還したことと、この能力によって、石川の運命は大きく変わっていくのです。
第1話「発現」では、親子3人が自宅で惨殺された事件で、番組開始30分ほど経過した頃、死んだ夫婦が、捜査中の小栗くん(役名は石川安吾)の目の前に現れて、犯人の名前を告げます。
最初のほうは、幽霊の気配が漂う、ホラーテイストになっています。
謎の少女が、謎の少年が、謎の男女が、小栗くんの目の前にふいに現れて、びびらせます。
特に、子供の霊がでて来るところは「クロユリ団地」か! という感じ。
はじめのうちはびっくりしていた小栗くん(石川安吾ね)も、さっさと特殊な状況を受け入れて、捜査に生かしていきます。
ただ、犯人がわかっちゃっているとはいえ、証言者は死者。小栗くんにしか見えませんので、正式に有罪にするためには、犯人に罪を認めさせる必要が生じます。
結局は自力でなんとかしないとならないわけです。
はい、ここからは、刑事ドラマの真骨頂です。
まず、犯人をかばっていた母親に接近、真実を聞き出したものの、当の犯人はなかなか本当のことを言いません。
どうする小栗くん!
そこは、「名探偵コナン」の実写版で高校生の工藤新一役も演じていた小栗くんが、頭脳をフル回転を駆使して、実に鮮やかに犯人に追いつめます。
このへんの切れ味のいい展開は、ザッツ・ミステリーです。
犯人の母の、息子への思いも泣かせます。さすがヒットメーカー橋本一演出。川井憲次による重厚な音楽も高まります。
犯人をちょっとした悪知恵で追いつめた石川に対して、彼の同僚(青木)は「あいつあんなにやばいやつでしたっけ?」を首をかしげます。
そのとき、上司(遠藤)は、「生まれ変わったんだよきっと」と返す。
これによって、冒頭、小栗くん(石川安吾)が死にかけて「死にたくない!」と大騒ぎしたところと見事につなげました。
さて、石川安吾(小栗旬)は、多少のひっかけ作戦も厭わないわけは、死者の無念をはらすことが目的だからです。
一度死にかけた彼は、人が死ぬ時は、痛みから解放される安らぎなんかじゃないし、よい思い出が走馬灯のようにかけめぐるような状況ではなく、命を奪われる悔しさと憎しみにまみれることを、自らの臨死体験をもって知ってしまったのです。
だからこそ、石川は、息子の犯罪をかばう母をこう諭します。
「ひとの命を奪うということはそのひとの過去も現在も未来もすべて奪うということです。
そのひとの記憶も家族や友人の記憶も奪うということです」
でも、「一番大切なものは絶対に他人から奪ってはいけないんです」
そう語る時の小栗くんの、小保方さんといい勝負のうっすら涙目が、当事者だからこその説得力。
冒頭で、銃で殺されかかる時も涙目で、この主人公正直だなと思いました。
愛する人を殺された主人公もよくいますが、自分が殺されかけた主人公は、誰よりも、死ぬことに対して敏感。「死にたくない」という気持ちを強くもっているのです。
「人は必ず死ぬ。そして死は突然やってくる」
これは石川の最初の台詞(モノローグ)です。
金城は、このドラマを、小栗旬に当てて作ったと公式サイトで語っていまして、
上記の台詞は、小栗くんの代表作である舞台「カリギュラ」の「人は死ぬ。
「カリギュラ」は、不条理な死というものに抗おうとして、善とか悪とか無関係に振る舞っていく男の物語です。
はたして、「BORDER」の主人公は、死とどう向き合っていくのでしょうか。
古田新太が演じるあやしい情報屋のほかに、2話以降、まだまだ魅力的なサブキャラが登場するのも楽しみ。
ところで、死者と会話できる刑事と聞いて、思い出したのが、小栗旬の妻・山田優の主演ドラマ「VISIONー殺しが見える女ー」。ここでは、山田演じる主人公が、犯人とその犯行現場を見ることができる能力をもっていました。
夫婦そろって特殊能力をもって悪を追いつめる役をやっているんですね。気が合うなあ。
(木俣冬)