フランスでは、年だからといって地味な服を着るわけでもないし、老齢のために卑屈になったり、年柄をわきまえて自重したりする人は少ない。「いつまでも若い気持ち」を持ち続ける、あるいは、そもそも歳を気にしないというのが多数派だ。
この違いはどこから来るのか? 皮膚科専門医としてスキンケアやアンチエイジングを研究し、『パリのマダムに生涯恋愛現役の秘訣を学ぶ』を出版した美容ジャーナリスト・岩本麻奈さんに聞いてみた。
――フランス人の心の若さの源は何だと思いますか?
ずばり恋愛ではないでしょうか。フランス人にとって、もっとも大事なことは「愛(アムール)」です。たとえ結婚していたとしても、相手に魅力を感じなくなったら、我慢して関係を続けるということをしません。年齢を経てもなお、日本より男女関係のダイナミズムが高いです。そのため相手に対して魅力的であるために、常に自分を磨くというメンタリティが一般的で、ひいてはそれが自分の魅力を保つ緊張感を持続させているのです。
――自分を磨くことの一つに「美容」があると思うのですが、日仏でそれに対する違いは感じますか?
フランスは、愛する人のために、恋愛をするために、モテるために美しくなりたい、美しさを維持したいと考える人が多いです。
――例えばどのように影響するのでしょうか?
以前より言われている「美魔女」という言葉に形容されるように、年齢を経ても美しさを保つ女性が、日本のメディアでしばしば取り上げられます。しかし男性から見たときに、「きれいだけど、どこかずれている」と感じたことはありませんか? というのも、その美しさは多くは同性目線という枠に限定されるため、「きれいになったけど好きな人から振り向いてもらえない」とか、「夫からは愛されずセックスレスのまま」という結果に終わりがちな人がいることも事実です。要するに「センシュアリティ(官能性やここちよさ)」が足りないのです。
――男女としての雰囲気や関係性は、日仏で結婚や出産を境に大きく変わる気がします
結婚の枠組みとして、未だ家と家の繋がりを大切にする日本と、個人と個人を重要視するフランスという違いが大きいですね。フランスでは、家庭を持つことが相手との関係を続けていけることの安定さに繋がりません。愛情がなくなっても仮面夫婦で過ごし、別の人に愛を注ぐということを多くは選択しません。愛がなくなったら、基本、関係は終了です。
――恋愛観の違いも影響しているのではないでしょうか?
フランスでは付き合う前に、日本のような「告白」はまずありません。境界線は曖昧で、まずはセックスも含めお互いのことを知った上で、それでも一緒にいたいなら関係を続ける、というのがフランスのスタイルです。そのため、いつもきちんと中身(心も身体も)を磨く必要があります。拙書で取り上げたフランス人の一人は「恋人選びはワインセラー。
――やはり日仏ではずいぶん違うんですね……!
もちろん文化や風習、習慣が異なるため、日仏で恋愛観や男女観に隔たりはありますが、決して日本人が男女の「愛」に乏しい人たちというわけではないはずです。おおらかで艶やか、それは秘めたる日本の歴史が物語っております。日本人もフランス人も同じ人間ですし、根本で存在する普遍性があると思うのです。
(加藤亨延)