ペプシコーラの事業担当社長(当時)ジョン・スカリーに言い放った、スティーブ・ジョブズの有名な口説き文句です。実際、ジョブズが関与したMacintoshやiPhoneなどといった発明品は、いずれも地球規模で多大な影響を与えたのだからまさに有言実行です。
その傑物・ジョブズをして絶賛に至らしめた世紀の大発明が、間もなく公開される……。こんな噂が出回ったのは、今から17年前となる2001年1月のことでした。
ロマンを掻き立てた「ジンジャー」
大発明のコードネームは「ジンジャー」。アメリカの著名な発明家・ディーン・ケーメン氏によって開発されたというそれは、名称以外のすべてがトップシークレット。ただ一つ明かされた情報といえば、世界を根底から変えてしまうアイテムだということ……。
この時は21世紀になってまだ数日の頃。とうとう到来した新世紀のスタートアップ期に、こんな情報が飛び込んできては、期待するなというほうが無理というものでしょう。
先述のジョブズやアマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスもこの発明品に驚愕したらしいという噂話も、当時の人々の好奇心を煽るのに十分すぎるくらいの効力を発揮したものです。
空飛ぶスクーター説、タイムマシン説もあった
かくして、1月12日に米国の主要メディアで報道された世紀の発明品「ジンジャー」の報は、瞬く間にインターネットで拡散。数日も経たないうちにヨーロッパ各国や日本へと情報が広まり、さまざまな憶測を生むこととなります。
空飛ぶスクーターなのでは‐
水素などを利用した画期的な動力源ではないか‐
瞬間移動を可能にするテレポーテーション装置に違いない‐
宙に浮かぶ魔法の絨毯ではないか‐
常温核融合が実用化されるのではないか‐
タイムマシンがついに完成したのかも‐
UFOみたいな宇宙船ではないか‐
アメリカでは、有識者を集めたテレビの討論会まで開かれたというから、その過熱ぶりたるや尋常ではありません。開発者のケーメン氏は「1年後の2002年までに詳細を説明する」とだけ発表。以降は沈黙を貫いたため、世間の人々はしばらくこんな感じで妄想を膨らませるしかありませんでした。
世界中が「え?何これ…」となった
そして、2001年12月3日。
果たして、どんな夢のアイテムなのだろう……。世界中が固唾を飲んで見守る中、登場したのはあの「セグウェイ」。憶測が憶測を呼び、誇大な妄想が膨らんでいたために「え?何これ…」と思った人も少なくありませんでした。
「みんなが使うようになった時、本当に画期的だといえる」(ニューヨーク・タイムズ誌)
「(セグウェイが話題になったのは)次の革新的製品を求める大衆心理が蔓延していたから」(英エコノミスト誌)
マスコミはいずれも微妙な論調。というか、ガッカリ感がすごかったため、どうコメントしていいか分からないといった空気が、当時のメディアを支配していたものです。
このムードに拍車をかけたのが、1台60万円という高額な値段。一部の新しいもの好きな富裕層にしか買われず、結果として販売目標を大きく下回ることとなったのでした。
今では、当時の販売価格の10分の1以下にもなる安価品が多数出回っているおかげで、一定の市民権を得るようになった「セグウェイ」。
しかし、依然として世界を変えるには至っておらず、単なるおもちゃ扱いです。世間の気を引くマーケティング目的だったとしても、ビッグマウスで喧伝するにはあまりにも「足りてない」製品だったと言わざるを得ないでしょう。
(こじへい)