自分たちの子育てを綴ったエッセイマンガ『イクメンと呼ばないで ニブンノイクジ』(マガジンハウス)を刊行したマンガ家ユニット・うめ(小沢高広と妹尾朝子)に聞く、子育て相談インタビュー。最終回(全三回)は、子どもの存在と創作の関係性について。


第一回
第二回

教えてうめ先生「夫婦喧嘩って、どうしてます?」


───本のなかのコラムでは夫婦喧嘩の対処方法を書かれていますが、そもそもの話、子どもができてから以降、夫婦喧嘩の回数は増えました? 減りました?

小沢:減りました。……あれ?違う?

妹尾:長女が産まれたばっかりの頃は、結構、衝突は多かったと思う。この本でも描いたけど、今思うとやっぱり余裕がなかったのかなぁと。小沢は減った感じするの?

小沢:減ったと思ってた。それは、子どもが産まれたから減ったのか、単にお互い歳を重ねて経験値を積んだから減ったのかはちょっと分からないけど。

妹尾:いやぁ、一時的には増えたと思うよ。今はだいぶ減ったけどね。
子どもだってダルいときは学校休んでいい『イクメンと呼ばないで 』 夫婦漫画家うめにもっと聞く
(P120「夫がめんどくさい」より)

小沢:まあでも、新規事業の立ち上げだと思えばトラブルは多いか。

妹尾:やったことがないことだもん。

───ん? 新規事業の立ち上げ??

小沢:そうですね、1人目のときは「新規事業の立ち上げ」で、2人目のときは「ラインを増やす」という感覚でいます。

妹尾:そうそう、ラインを増やす。

小沢:「慣れてきたから、そろそろラインを2本にしましょう」「えーー!」っていうやつだよね(笑)。でも1本目のラインのノウハウも使えるから多少は大丈夫、という期間も経て、今は安定してきたのかなと。


妹尾:ここ最近は割と安定してますね。夫婦喧嘩のことって、一緒に仕事をしていることもあってよく聞かれるんですよ。だから、コラムでもそのことは改めて書いたんです。ウチの場合、それこそ仕事に支障が出ちゃうからその場で解決しないといけなくて。なので、毎回、解決してきています。

小沢:でしょうね。ある程度してるんでしょうね。でも、もしかしたらお互いソロの仕事を増やしている要因の可能性も(笑)。
子どもだってダルいときは学校休んでいい『イクメンと呼ばないで 』 夫婦漫画家うめにもっと聞く
左:作画&洗濯担当。基本ざっくりな妻。右:原作&料理担当。わりと細かい夫。代表作は『スティーブズ』『大東京トイボックス』『おもたせしました』など多数。

教えてうめ先生「子どもが『保育園行きたくない』と言ったときは?」


───なにか独特なハウスルールや禁止事項ってありますか?

小沢:ハウスルールはなんだろう……出かける場所はちゃんと伝える、って別にハウスルールじゃないもんね。何か変わったのあるかなあ……。『スプラトゥーン小学生大会』はウデマエAにならないとエントリーしてやらない、は違う? ハウスルールじゃない? じゃあ、特にないのかなあ。

妹尾:よく学校から、「こういうルールを決めましょう」「SNSのルールを決めましょう」とか、いちいち言ってくるんですよ。「おぉ、ウチにSNSについて言ってくるか。
書いちゃうぞ」みたいな(笑)。

小沢:これは書くと炎上するかもしれないけど、ウチの場合、長女がすっごくコンプライアンスを徹底するタイプなんですよ。子どもならではの几帳面さも加わって、なにかと堅い。なので、小学校入学後、割と早い時期にあえて覚えさせたのが、学校を気軽にサボること。

───おぉ。それはちょっと興味深い。

小沢:疲れているときとか、無理せずちょっと休んで映画みようぜ、と。実は保育園のときに、「たまに保育園をさぼって子どもと一緒に遊びに行ってあげてください」と言われたことがあるんです。子どもたちも子どもなりに、我々が土日も仕事をしているのがわかっているからこそ、何かサインがあったときには半日でもいいから遊びに連れて行ってあげてください、と。で、実際にそれを実践してみたら、子どもたちがすっごく安定したことがあったんですよ。完全に親を独占できる時間が欲しかったのかなと。

───それはわかる気がします。
我が家も、親が忙しいときほど「保育園休みたい」と言ってきたりするんですよね。

小沢:そうそう。学校って、休まず行けば行くほど「皆勤賞」みたいなわけのわからないルールが出てくるじゃないですか。でも、皆勤賞ってものすごい“サンクコスト(埋没費用)”になるんですよね。「今まで1日も休んでないんだから行かなきゃ」みたいに徹底的に縛っちゃう。でも、大人の場合は会社だって有給休暇があるんだし、子どもだって休みたいときやダルいとき、楽しい行事が昼間にあるときは休んでいいんじゃない? と伝えています。

───なるほど。

小沢:あえて休むことがハウスルールかどうかは別として、割と最初の頃に意識的にやりました。学校に潰されてほしくない。

───これは我が家でもちょっと意識してみたいと思います。でも、結構、「今日だけは頼むから」というときほど「休みたい」と言われるんですよねぇ。そこがまたツラくって。
親のエゴでしかないんですけど。

小沢:そのときはお願いするしかないですよね。「今日はごめん。その代わり、明日は必ず!」みたいな感じで。

妹尾:でも確かに、土日に一緒に遊ぶのと、平日に休んで遊ぶのとは、気持ちの面でも全然違いますよね。土日も関係ない働き方してる人にとっては、ある意味、コスパがいい(笑)。

───「保育園行きたくない」と言われたとき、「これが続いたら嫌だな、困るな」思いつつ、一日休ませてみると次の日は「保育園、行く行く」となって、意外と大丈夫なんですよね。

小沢:本当にずっと行かない、行きたくないと言い出しちゃったら、それはそのとき改めて考えればいい、また別の問題ですからね。


教えてうめ先生「子どもの存在が作風に影響してくることは?」


───子どもができてから、「仕事の時間」ではなく、表現方法やテーマで変わったことって何かありますか? 僕の場合、なぜか子ども向けの本の執筆が増えて、何か呼び込むモノがあるのかなぁと。

小沢:ウチは元々、エロとかグロとか得意じゃないし、ほとんどそこは意識してないけど……ただ、この『ニブンノイクジ』に関しては、子どもが読んでも面白いものを、という意識で描いています。下手すると描いている横で見てますし。で、面白いのは、読むことで自分の記憶を補完しているみたなんです。
なんなら、記憶を描きかえちゃってるかもしれない。

妹尾:その可能性はあるなぁ(笑)。

小沢:逆は逆であって。人間、当たり前ですけど段々歳を取るじゃないですか。そうすると、10代の頃の記憶ってどんどん遠くなる。当然、今の10代と昔の10代じゃぜんぜん違う。漫画ってある程度若い年齢の子が主人公になることが多いわけですけど、リアリティが欠けていくんですよね。ましてや、自分の子どもの頃の記憶をベースに描くだけでは、今の時代の子たちとは大きくズレる可能性がある。だからこそ、生で現代の子を見ることができるメリットというのはすごくありますね。

妹尾:それはある。

小沢:喋り方から服装から考え方から、「あー、ここ全然我々のときと違う!」という発見があったりするので、そういう意味では作品をある程度若くキープしておくには、子どもの存在はとても役立ってます。

妹尾:今なら学園モノが描けるんじゃないかな、とも思い始めてます。


小沢:うん、今なら描ける。

妹尾:PTAモノとか教師モノとか、溯上にのぼったりは確かにしますね。小学校を一回体験している自分が、大人になってもう一回体験できている状況に近いから。その状態で先生たちの話を聞くと、「そうか、先生ってそういうことを考えてたのか」という発見もあるんです。

小沢:大人の立場で先生と話をするとすごくわかることもあるし。あと、昔の先生とは全然違うしね。今の先生は本当によく出来てる。「そんなに腰低くしないで!」と思うほどよく出来てる。

妹尾:それもあるし、「あぁ、自分のときにもこういう面倒くさい人っていた!」というのもあって面白い。

小沢:実は、子どもが生まれる前にも学園モノの企画を立てたことはあったんですけど、やっぱり描けない。何をやっても金八先生の焼き直しみたいな感じになっちゃって。今思うと、その企画を考えてた30代前半の時期って、ある意味で小学校から一番遠い時期なんですよね。でも、今だったら、リアリティをもって先生のことも子どものことも描けるかな。

───じゃあ、次回作なのか、いずれはそんな話も読めるかも?

小沢:かもってことですね。

(オグマナオト)
子どもだってダルいときは学校休んでいい『イクメンと呼ばないで 』 夫婦漫画家うめにもっと聞く
『イクメンと呼ばないで ニブンノイクジ』(マガジンハウス)
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