第5週「東京、行きたい!」第29回5月4日(金)放送より。
脚本:北川悦吏子 演出:土井祥平

喫茶ともしびでかかっていた、ユーミンの「恋人がサンタクロース」(80年)がテーマ曲になった映画。バブルを象徴するような物語。
原田知世が和子を演じているため、“原田知世”のいない世界らしい「半分、青い。」なので、映画は存在せず、ユーミンのヒット曲だけが存在しているってことだろうか。パラレルワールドは面白い。
29話はこんな話
晴(松雪泰子)の涙を見て東京行きをためらう鈴愛(永野芽郁)だったが、話し合いの結果、東京に行くことを決める。
やがて冬が来て、鈴愛と、この町と家族と律(佐藤健)との別れが近づいて来た。
おいおい 何を親子漫才やっとる
珍しく主題歌からはじまった29話。
仙吉(中村雅俊)がばりっと決めて、農協に謝りに行こうとすると、一緒に行くはずの鈴愛(永野芽郁)は、「農協 行ってもいいよ」と言い出す。
晴(松雪泰子)が泣いているのを見て、家族と離れることを思い知らされたのだ。
「おいおい 何を親子漫才やっとる」と宇太郎(滝藤賢一)がツッコむ。これは視聴者の代弁でもある。
ついでに「農協」と「東京」との響きが似ていると言って笑わせる。
ほんとうに宇太郎は出来た人だ。
一瞬頭に血がのぼって激しくぶつかりあっても、翌日になればふつうに笑い合い、赦し合えるのが理想の家族像。
すっかり晴は娘を理解し、鈴愛の夢を応援することになった。
鈴愛の世界に悪意はないな
「鈴愛は悲しいのが長持ちしん」と律(佐藤健)も鋭い指摘。
母娘バトルのとき、「嘘ついて受かるのはやだ〜」と言ったことは「でまかせ。あのとき思いついた」と鈴愛はケロリ。
28話のレビューで、連続ドラマの脚本はライブ感覚で辻褄合わせながら書くこともあると書いたが、
鈴愛は漫画家ではなく、連ドラの脚本家にもなれそうだ。
「嘘ついて受かるのはやだ」と言い放ったところで感動した視聴者もいたと思う。
ブッチャー(矢本悠馬)は「鈴愛の世界に悪意はないな」
菜生(奈緒)は「内緒もないな」
鈴愛は「差別もない」
彼らはそう言ってからからと笑いながら、喫茶ともしびでお好み焼きを食べる。
26話に感動した人も、首をひねった人も、すべてをゼロ、等価にする。それこそが理想の世界。
言いたいこと言って勝負して、あとはケロリ。これは鈴愛が少年漫画で育っている所以かもしれない。そこに女性特有の湿った部分が混ざる。この部分は、鈴愛とのやりとりを勝負と捉えていた晴も、農協と東京の響きくらい似ているように思う。
「2人になんか起きるとすれば」「今でしょ」
前から、ふたりはきっかけさえあれば・・・と思っている菜生。
それこそ「今でしょ」と踏んで菜生は、律と鈴愛をふたりで帰す。
ムック本(東京ニュース通信社のほう)にも載っているふくろう商店街の地図を見ると、その通り沿いに喫茶ともしびは存在していない。商店街から外れたところにあるようだ。だから、ちょっと歩いて商店街を抜けて、それぞれの家に戻るストロークに、雨が降る。
「律、左側に雨が降る感じ、教えてよ」
これは渾身の告白のような気がするのだが、律は「傘に落ちる雨の音ってあんまきれいな音じゃないから 右だけくらいがちょうどいいんやないの」と交わしてしまう。
律としては良かれと思ってだろうけれど、野生的な鈴愛の感性の成長には追いついてないってことかも。
でもこの律の台詞が重要らしく、今後の伏線になってると北川悦吏子先生がTweetしていた。
そこへ車が走って来て、鈴愛のスカートに泥を跳ね上げる。
「安物だから このパーカー」とスカートをすかさず拭く律。
「私はちょっとかわいいの着てきた。みんなに会うの久しぶりやったから」
「うん、気づいとった」
ここで2度目のタイミング。
永野芽郁のかわいい表情の作り方は、プロ中のプロだと思う。ふつうの男子なら即落ちるだろう。
だが、律は耐える。さすが「るろうに剣心」。
結局、ふたりは貴重なチャンスを逃してしまう。
鈴愛は先に進んではいけないと思っている。
なんとももどかしい。これは「逃げ恥」で流行った「ムズキュン」というやつか。
これも28話で書いたが、ここでも律の心境が気になる。
そして、いつもムードメーカーで、晴と鈴愛の機嫌をよくしている宇太郎の内面も。
バブルも崩壊し、食堂が廃れていく中、なんとかなると能天気に、少年漫画を愛し、美人な奥さんと娘を愛して、このままこの町で終わっていくという気持ちなのか。それはそれで、ありだとは思うが。
「律、つくってよ」
「え、おれ?」のとき、「え」をかすかにしか発しない佐藤健。かすかであるか、はっきり「え」と言うかで全然印象は違う。かすか、で良かった。
(木俣冬)